第315回:クルマの天井にパリの地図が!?
「ご当地カー」を開発せよ!
2013.09.27
マッキナ あらモーダ!
Made in France
今年のフランクフルトモーターショーは2013年9月22日、11日間の一般公開期間を終えた。閉幕直後の発表による来場者数は約90万人だ。2011年は92万8100人だったから前回より減少した可能性が高い。
それでもドイツ系メーカーによる怒濤(どとう)ともいえる展示は印象的だった。彼らは、2014年末までにプライグインハイブリッドとレンジエクステンダー型を合わせて16車種の電気自動車を発売する見通しだ。ドイツ系サプライヤーも全自動運転などのテクノロジーを競うように誇った。
そんな押しの一手ともいえるドイツ勢がひしめく会場で、意外にも輝いて映ったコンセプトカーがある。ルノーが公開した「イニシャル パリ」だ。
パトリック・ルケモンの後を継いで2009年にルノーのデザイン担当副社長に就任したローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏のディレクションによる6番目のコンセプトカーである。
メーカーはこのイニシャル パリを、次世代の「エスパス」を示唆するものであると明かしている。
エクステリアデザインは航空機のイメージを採り入れ、強靱(きょうじん)さと軽やかさを表現したものという。しかしボクにとって、ひたすら力感とテクノロジーで迫るドイツ車を見たあとで、実は繊細で情感的なラインで構成されたイニシャル パリを鑑賞することは、第一部ベートーベンのあと、第二部サン=サーンスのプログラムが組まれた演奏会を聴いたような心地よさがあった。
さらに近づいてみると、テールゲートには車名どおり「PARIS」の文字が記されている。いっぽうサイドには「Made in France」「de l'art du voyage(旅の術)」といったフランス語がさりげなく入っている。
大切なのは、外国人の目
イニシャル パリを筆者に解説してくれたのは、コンセプトカー担当デザインディレクターのアクセル・ブレウン氏である。
まず彼は、室内からルーフを指して、「これはパリの地図です」と教えてくれた。見上げると、たしかにセーヌ川を中心としたパリ市街図を図案化したものが展開されている。ちなみにルノー発祥の地ブローニュ・ビアンクールはセーヌ河岸にある。セーヌは、同社ゆかりの川なのである。
足元のサイドステップは、プレスリリースではミツバチの巣をモチーフとしているとのことだ。しかしブレウン氏によると、同時にエッフェル塔の鉄骨もイメージしているという。
かくもパリムードを巧みに盛り込んだイニシャル パリだが、今日における他の自動車同様、開発チームは国際編成である。前述のヴァン・デン・アッカー氏はオランダ人、ブレウン氏はドイツの出身だ。インテリアデザインを担当したのは韓国系デザイナー、チョン・スン・オー氏である。
しかしながら、この企画は成功したといえる。オー氏は「私にとってパリで興味深いのは、スタイルの対峙(たいじ)。例えば、ウルトラモダンな建築物やモニュメントが、無数の歴史建築群の中に統合されている」と語っている。
外からの目で見ることは大切だ。その好例が、ボクが住むシエナに近いキャンティ・クラシコ地方における、あるワイナリーである。そこでは11世紀から高品質なワインが造り続けられていたが、市場は極めて限られていた。ところが約20年前、そのワイナリーをドイツ人が買い取った。彼は、ラベルやパッケージを、たとえ古いモノ好きなイタリア人は敬遠しても外国人受けのするモダーンなデザインに替え、ブランドを国外に知り渡らせた。
地元の人にはわからないが外国人の目には映るチャームポイントがある。それは、時にコテコテであるくらいがいい。ルノーがフレンチテイストをこれからどのように演出し、活用するのか楽しみである。特に、自国市場の成長が限られたフランスにとっては重要だろう。
思い出す、あの日本製コンセプトカー
ところで、今回のイニシャル パリのような「ご当地テーマもの」といえば、2003年に日産が東京モーターショーで公開したコンセプトカー「JIKOO(ジクウ)」を思い出す。
東京・原宿にある日産のサテライトスタジオ「クリエイティブボックス」による作品で、スタイルは日産創立70周年を記念して戦前の「ダットサン・ロードスター」をモチーフにしていた。その年が江戸開府400年であったことにちなみ、江戸べっ甲の張り合わせ技術を用いたステアリングなど、各部には伝統工芸の技が生かされていた。
またメーターパネルには、通常のナビゲーション画面とともに「江戸ナビ」が設置され、ドライバーは、あたかも過去をドライブしているかのようなムードを体感することができるとうたわれた。
ちなみにジクウは、2004年6月に英国で行われたコンクール・デレガンス「ルイ・ヴィトン クラシック」のコンセプトカー部門にも出場。パレードでは日産自動車の中村史郎常務自らステアリングを握り、来場者から喝采を浴びたのを覚えている。
たとえ同じアライアンスとはいえ、ジクウが前述のイニシャル パリにインスピレーションを与えたかどうかは定かではない。だが都市をテーマにしたものとしては先輩格であった。忘れるに惜しい異色コンセプトカーである。五輪開催で東京が注目されるであろう2020年頃に、ぜひパート2企画をお願いしたい。
ついでにいえば対抗作として、ダイハツあたりで「関西コンセプト」を出してほしい。ルーフは平安京、ステップのパターンは通天閣の鉄骨で決まりだろう。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、RENAULT、日産自動車)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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