三菱アウトランダーPHEV G ナビパッケージ(4WD)
パラダイムシフトの引き金となるか 2013.10.17 試乗記 リコール騒動を乗り越え、2013年8月に生産を再開した「三菱アウトランダーPHEV」。まだまだバックオーダーを抱えているという人気のプラグインハイブリッドSUVの特徴を、あらためて検証した。復活とともに大盛況
「三菱アウトランダーPHEV」が元気に増殖中。2013年の初めに発売の直後、リチウムイオン電池の製造過程での作業ミスが原因で発熱や発煙のトラブルに見舞われてしまったが、夏までに対策完了。いざ生産が再開されると同時に、待ちかねたファンが殺到だとか。さらに8月にはアメリカ道路安全保険協会の最高評価(トップセーフティービークル)に認定されるなど、グッドニュースが続いている。そしてもちろん、SUV界の常識を根底から覆す驚異の超々々低燃費が最大の人気ポイントなのは、あらためて言うまでもない。
だがその前に、「三菱アウトランダー」全体の出来の良さを忘れてはならない。出生の源をたどると往年の「ジープ」にまでさかのぼる三菱SUVだが、そのDNAをたくましく叫ぶのが「パジェロ」なら、都会的に洗練したのがアウトランダーと「RVR」の姉妹。だから、卓越したオンロード性能がことのほか光る。
特にPHEVは滑らかさと静粛性だけでなく、全方位ことごとくバランスの取れた走行感覚で、ベースとなったガソリン仕様をしのぐ。これほどの出来栄えを見せつけられてしまっては、332万4000円~429万7000円(ガソリン仕様は242万7000円~310万円)という高価格も気にならない。
その走りは、文句なしの優等生。4気筒2.4リッター(169ps)ではなく、前後の低い位置にそれぞれ82psのモーター(トルクはフロントが14.0kgm、リアが19.9kgm)を潜ませるツインモーター4WDがアウトランダーPHEVの正体なのだが、その前後配分が精密すぎる。軽く踏んでもドカッと乱暴に踏み込んでも、瞬間ごとに適切きわまる電力が各モーターに流れ、まるで何事もなかったかのようにスイッと走りだしてしまう。コーナーでも同様で、ちょっと無理かなと思うタイミングから加速を始めても、レールにはまったように冷静に駆け抜けてくれる。ガソリンのアウトランダーもコーナーの安定性は抜群だが、攻めすぎると押し出しアンダー的になるのに、PHEVは涼しい顔の一点張りだ。これなら、姿こそSUVでも、実際には快適なセダンとして通用する。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実燃費∞km/リッターも夢ではない
さて、注目の燃費は、まずカタログ上の数字がすごすぎる。通常のHV(ハイブリッド車)走行で18.6km/リッター(JC08モード)というだけでも大手柄なのに(ガソリン仕様は14.4~15.2km/リッター)、国交省が特に定めたPHV(プラグインハイブリッド車)燃費算出式によれは、なんと67.0km/リッター! にも達してしまうのだ。
これを実際の路上で試すと○○km/リッターと書くのが普通の試乗リポートだが、アウトランダーPHEVの場合、その傾向をつかむのが難しすぎる。外部から充電可能なPHVなので、使用パターンによって何倍も変わってしまうのだ。
例えば自宅で満充電して、地域内でのショッピングなど用足しにだけ乗りまわし、帰ったらコンセントに差すという生活(イヌの散歩みたい)なら、いつまでもエンジンが働くチャンスがなく∽km/リッターになってしまう。私自身も東京23区内から神奈川県厚木市内まで、東名高速のサービスエリアで急速充電器を活用し、ガソリンを一滴も燃やさずに往復できた。その間エンジンは黙り込んだまま。
ここがアウトランダーPHEVの最大のポイントで、走るための主役はあくまでモーター。エコカーのお約束、アトキンソンサイクル化で118psに抑えられた4気筒2リッターエンジンは基本的に発電機を回し、モーターとリチウムイオン電池に電力を供給するだけ。つまりHVではあるものの、実質的にはレンジエクステンダーEV(発電機付き電気自動車)とも言えそうなのだ。
そのうえ停車中には外部のコンセントからの充電も可能(空っぽから満充電まで200Vで約4時間)だから驚異の低燃費になると当時に、使用パターンによって天地ほども変わってしまうわけ。坂道での急加速とか高速巡航など、モーターのトルクが薄くなる場面ではエンジンも助っ人するが、変速機がなく、デフとの間を直結クラッチがつなぐだけ、つまり普通の5速か6速相当のレシオだから、だいたい60km/h以下では出る幕がなく、普段は全面的にEVとして走る。単なるPHVではなく、わざわざPH“E”Vと名乗っているのも、そのためだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
充電スポットでのマナーに注意
電力の使い方もいろいろで、普通に走りながら電池残量が20%ほどまで低下すると自動的にエンジンが目覚めて発電を始めるが、そのほかコンソールに「SAVE」と「CHARGE」のボタンがある。SAVEは電池の現状を維持するモードで、基本状態より少し余分にエンジンが活躍し、けっこう元気に走っても電力が減らない。CHARGEモードでは走り方に関係なくエンジンが発電に精を出し、普通のガソリン車ほどの燃費まで低下してしまうが、ふと気付くと電池が満杯になっている。比較的エンジンが楽をできる高速巡航をCHARGEモードでこなして電力をためておけば、目的地(観光地?)などを静かなEVで周遊しやすくなる。
こうして見ると、ガソリン仕様と違って第3列シートがない以外、ほとんど理想的に思えるアウトランダーPHEVだが、意外な落とし穴もある。急速充電できることだ。今や主なサービスエリアに次々と設置されている急速充電器をフル活用すれば、あきれるほど少ないガソリン消費で遠出も可能になる反面、それで泣かされそうなのが「三菱i-MiEV」や「日産リーフ」などの純EV。充電スタンドでアウトランダーPHEVが先客だったりすると、思わず「あなた、まだまだガソリンで走れるでしょう」とか突っ込みたくなるのも無理はない。将来もっと充電インフラが充実するまで、ユーザーどうしの譲り合いなど、新しいマナーが提唱されることになりそうだ。
ともあれ、こんな超々々々低燃費車が普通に存在できるようになってしまった以上、大はやりのSUV界にも、一気に新時代の荒波が襲い掛かってくるに違いない。ライバルたちの次の一手に注目しよう。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
三菱アウトランダー PHEV G ナビパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4655×1800×1680mm
ホイールベース:2670mm
車重:1800kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.0リッター直4 DOHC 16バルブ
最高出力:118ps(87kW)/4500rpm
最大トルク:19.0kgm(186Nm)/4500rpm
モーター最高出力(前):82ps(60kW)
モーター最大トルク(前):14.0kgm(137Nm)
モーター最高出力(後):82ps(60kW)
モーター最大トルク(後): 19.9kgm(195Nm)
タイヤ:(前)225/55R18 98H(後)225/55R18 98H(トーヨーA24)
燃費:67.0km/リッター(プラグインハイブリッド燃料消費率)/18.6km/リッター(ハイブリッド燃料消費率)
価格:397万8000円/テスト車=431万4000円
オプション装備:100V AC電源<1500W>(8万4000円)/急速充電機能(7万3500円)/三菱リモートコントロール+電気温水式ヒーター+シートヒーター<運転席/助手席>(17万8500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:9627km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:315.9km
使用燃料:25.1リッター
参考燃費:12.4km/リッター(車載燃費計計測値)/12.5km/リッター(満タン法)

熊倉 重春
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。

































