メルセデス・ベンツS550ロング(FR/7AT)/S400ハイブリッド エクスクルーシブ(FR/7AT)
この車を見よ 2013.10.20 試乗記 “最高の自動車”を目指して開発したという、最新の「メルセデス・ベンツSクラス」。その仕上がりや、いかに? V6ベースのハイブリッドとV8ガソリン、2つのモデルに試乗した。安心できる新しさ
なんとまあラグジュアリーな室内であることよ。「最善か無か」の社是を再び掲げ、自動車の進化を先導するメルセデス・ベンツのフラッグシップ、新型「Sクラス」の試乗会に臨むわれわれ取材陣の勇んだ気持ちをするりと受け流し、「まあまあ、まずはくつろいで」となだめるような感じの華麗なインテリアである。とりわけ最初に乗った試乗車は、グレー基調の内装にアルミのように輝く処理を施した特別仕様「designoメタライズドアッシュウッドインテリアトリム」を組み合わせたものであり、それはエレガントとかラグジュアリーを通り越して扇情的ですらあった。
といっても、落ち着かないほどアバンギャルドで奇をてらった仕立てではない。メインの計器とナビゲーションなどは、横幅ではウチのテレビよりも間違いなく巨大な、12.3インチTFTカラーディスプレイを2つ並べたモニターにそれぞれ表示され、明らかに最新のモデルであることを感じさせるが、全体的にはいかにもメルセデスらしいクラシックさも併せ持ち、例によってあるべきところに必要な操作系が据えられているせいで、経験者なら事前の予習なしでもまごつくことなく即座に走りだせるように仕立てられている。どれほどの先進的機能を満載しても、そもそもSクラスは取り立てて新奇さを強調する必要はない。あらゆる自動車、少なくとも実用性を追求するメインストリーマーの規範であり目標であることを期待され、それに応え続けてきたのがメルセデスSクラスだ。求められているのはいつも真っ向勝負の横綱相撲である。
すべての操作系と同じく実に滑らかに動くセレクターを「D」に入れると、標準ボディーで全長およそ5.1mの巨体はスルリと音もなく滑り出す。それもそのはず、新しい日本仕様Sクラスのベーシックモデルは「S400ハイブリッド」。先に登場した「E400ハイブリッド」と同じ3.5リッター直噴V6(306ps、37.7kgm)に20kW(27ps)を生み出す電動モーターを加えたパワートレインを備え、一定条件下ではモーター走行ができるように進化した第2世代のハイブリッドである。しかもその車両価格は1090万円。従来型のエントリーモデル「S350」(1085万円)と事実上変わらない値付けは、他のモデルも含めて、装備の高度化と充実度を考えれば破格と言ってもいいほど。日本市場への腰を据えた取り組みがうかがえる戦略的価格である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「シールド」に包まれたセダン
メルセデスは以前から安全、快適、効率という自動車のいわば正論をコアバリューに掲げてきたが、そのトップモデルであるSクラスは今回、それらの原則を「インテリジェントドライブ」「エナジャイジングコンフォート」、そして「エフィシェントテクノロジー」という3本の柱に集約して新型に詰め込んできた。
個々の機能をすべて紹介する余裕はないが、例えばインテリジェントドライブを構成する主要システムが、メルセデス自慢の「レーダーセーフティパッケージ」である。車体の四隅に備わる近距離レーダーと前部の短距離/中長距離ミリ波レーダー、さらに後部中央のマルチモード・ミリ波レーダーに加え、新たに対象物を3Dデータとして捉えるステレオマルチパーパスカメラを備え、前方衝突の危険だけでなく、歩行者の飛び出しなども警告および衝突回避動作をするうえに、後方衝突の危険がある場合には後続車に警告し、自車にブレーキをかけて2次被害を軽減する機能も備えている。この種の衝突警告・回避システムは、ステレオカメラだけを使うものや、赤外線レーザーを用いるもの、そしてミリ波レーダーを使用するものなどいくつかのタイプがあるが、メルセデスのシステムはその中で最も高度で包括的なもの、まるで車の周囲に、SF映画などに登場するシールドバリアーが張り巡らされているような働きをする。
もちろん、機械であるからにはそれぞれに長所短所があり、あらゆる条件下で完璧に作動するシステムは存在しないことを忘れてはいけない。なぜか「自動運転システム」が近頃にわかに、しかもずいぶんと楽観的な見通しをもって取り沙汰されているが、まずはメルセデスのようにその要素技術を着実に実用化することが先だろう。レーダーセーフティパッケージはS400ハイブリッドをはじめ、すべてのモデルに標準装備される。
S400ハイブリッドはランフラットタイヤの発するパターンノイズが時折耳に届くことと、惰性走行(セーリングモード)からエンジンが再始動する際に一度か二度、クラッチがつながるかすかなショックが感じられたことを除けばまったく文句なし。それらも風切り音など他の騒音が極めて低く抑えられており、滑らかで静かな走行性能を持つからこそ気づいたことかもしれない。国内のデリバリーは11月上旬からということで、まだJC08モード燃費は発表されていないが、欧州NEDCモードでは15.9km/リッターと従来型比で2割の向上を達成しているという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
電子の眼を持つサスペンション
従来型より20psパワーアップした4.7リッター直噴V8ツインターボ(455ps、71.3kgm)を積む「S550ロング」には、新型の技術的トピックのひとつである「マジックボディコントロール」が装備されていた(S550ロングにオプション、「S63 AMGロング」には標準装備)。簡単に言えばこれは以前からある油圧アクティブサスペンションのABC(アクティブボディコントロール)に電子の眼を追加したもので、インテリジェントドライブを象徴する新機能のひとつでもある。すなわちステレオカメラで前方の路面の凸凹を検知し、サスペンションをあらかじめ適切に制御するというシステムだ(130km/hまで作動)。50~60km/hぐらいで流す一般道での効果は明らかで、例えば田舎道の盛り上がった橋の継ぎ目で“ダダン”ぐらいの衝撃を覚悟していると、“ストトン”とフラットかつしなやかに乗り越えてしまう違いがあった。とはいっても、通常のエアマチックサスペンションでも不都合はまったくない。ロングボディーを優先して開発したことと合わせて後席の快適性を重視するユーザーの声に応えたものと見るべきだろう。
今のところ日本仕様はS400ハイブリッド/同エクスクルーシブ、S550ロング、そしてS63 AMGロングとその4マチック版の5車種に限られているが、今後ラインナップは拡大するはずだし、何よりこの先にはディーゼルハイブリッドやプラグインハイブリッドという先進的モデルも控えている。今回は実に駆け足で紹介しただけだが、新型Sクラスは時間をかけてじっくりと語らなければならないモデルだ。何といっても新たな基準であることは疑いようがないからだ。
(文=高平高輝/写真=峰 昌宏)
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS550ロング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5280×1915×1495mm
ホイールベース:3165mm
車重:2190kg
駆動方式:FR
エンジン:4.7リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:455ps(335kW)/5250-5500rpm
最大トルク:71.3kgm(700Nm)/1800-3500rpm
タイヤ:タイヤ:(前)245/45R19(後)275/40ZR19(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:10.1km/リッター(JC08モード)
価格:1535万円/テスト車=1760万円
オプション装備:リアセーフティパッケージ(15万円)/ショーファーパッケージ(75万円)/AMGスポーツパッケージ(60万円)/ナイトビューアシストプラス(25万円)/マジックボディコントロール(50万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:957km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
メルセデス・ベンツS400ハイブリッド エクスクルーシブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5116×1899×1493mm
ホイールベース:3035mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:306ps(225kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:37.7kgm(370Nm)/3500-5250rpm
モーター最高出力:27ps(20kW)
モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)
タイヤ:タイヤ:(前)245/45R19(後)275/40ZR19(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:--
価格:1270万円/テスト車=1419万6000円
オプション装備:メタリックペイント<ダイヤモンドホワイト>(9万6000円)/リアシートコンフォートパッケージ(75万円)/AMGスポーツパッケージ(50万円)/designoメタライズドアッシュウッドインテリアトリム(15万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1703km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
































