トヨタ・カローラ アクシオ ハイブリッドG(FF/CVT)
見え隠れする王者の戦略 2013.10.25 試乗記 かねてうわさのあったハイブリッドモデルを追加した「カローラ アクシオ/フィールダー」。そこにはトヨタのハイブリッド戦略の、ある思惑が隠されていた。呪縛から解き放たれた
2012年5月に11代目へバトンを渡した「トヨタ・カローラ」は、かつては33年間販売台数トップを走り続けた「国民車」であった。こう書くとまるで今ではそうでないように思う向きもあるかもしれないが、ここでの国民車という意味は常にトップを走り続けるという解釈だ。2002年に「ホンダ・フィット」にその座を追われ、その後トップに返り咲くものの、今度は自社が誇る次世代エースである「プリウス」に再度その座を追われる。まるで創業から今まで社長を務めてきた経営者が「時代に合わない」と若手役員に経営権を奪われたような悲しさを感じたのは、筆者が古いタイプのビジネス経験者だからだろうか……。
それから約1年3カ月、マイナーチェンジのタイミングでもないこの時期に「アクシオ」「フィールダー」それぞれにハイブリッドモデルを追加してきた。これは後に発売されるホンダ・フィットのフルモデルチェンジをけん制する意味があったことは容易に想像が付く。ガチンコライバルとして想定される「アクア」単体では厳しい戦いになることは明白なので、プリウス、そして今回のカローラを加えたトヨタハイブリッド車の全包囲網戦略でフィットを迎え撃つ必要があるわけだ。
ただ、もともと潜在ニーズはあったとはいえ、販売1カ月でアクシオには月販目標の約7倍、フィールダーに至っては約10倍の受注が入っているという。もちろんこれがこのまま続くわけではないが、まずは好調な船出(ふなで)といっていいだろう。かつてはトヨタという企業をけん引するクルマの筆頭であったカローラも、その役目をプリウスに託すことで気分的にも軽くはなっているはずだ。ある意味、この“呪縛”から解き放たれたカローラだからこそ、カジュアルなイメージを伝えるために「COROLLA HYBRID JEANS」のキャッチコピーをかかげ、旧型でCMキャラクターを務めていたキムタクを再登板させるなど、今までのお堅いイメージから一歩踏み出した戦略を打ち出せたのだと思う。
パワーユニットは「アクア」と同じ
「カローラ アクシオ」には2グレードのハイブリッドモデルが設定されているが、今回は上位グレードの「ハイブリッドG」に試乗した。
搭載されるパワートレインは「THS II」、トヨタのエンジニアに聞いても「ハイ、アクアと同じです」と答える。普段われわれが数字的に「同じですよね?」と尋ねても「実は制御が異なるんです」と一筋縄ではいかない(笑)エンジニアが言うのだから間違いないだろう。もちろんスペック的にも74ps(54kW)/4800rpmの最高出力や11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpmの最大トルクだけでなく、36リッターの燃料タンク容量まで同じである。
ほぼ同等グレードのアクアと比較すると車両重量は60kg増すが、スタート直後も特にその重量差を感じることはなくマイルドな加速フィーリング。バッテリーに電気が十分充電されていればEVモードで60km/hまでの速さで走れる点も同じだ。
ここで注目したのは、このクルマにはタコメーターが装着されている点である。電気式の無段変速機を持つTHS IIの場合、エンジンの回転数よりもアクセル開度による加速や回生状態を確認したほうが実用的(それ自体は後述するマルチインフォメーションディスプレイに搭載)なのだが、これに関しては「やはりカローラに乗られるお客さまはエンジンがかかっているという事や、加速しているという部分を視覚的にも求めます。ゆえにこのクルマにはタコメーターを搭載しました」とエンジニアから教えてもらった。逆に加速はさておき、アイドリングストップした際にタコメーターの針が“0”になることで、目と耳の両方でハイブリッドカーに乗っている恩恵をオーナーが味わえる点は魅力のひとつだと感じた。
乗り心地に改善の余地あり
一方、乗り味は同じパワートレインのアクアが鋭敏に仕上げられているのに対し、カローラはソフトな味付け。ガソリン車よりは良くなったが、可もなく不可もなくというか、どうも味付け自体の方向性が甘い。ちなみにカローラは11代目にフルモデルチェンジした際、プラットフォームに「ヴィッツ」系の改良版を採用したこともあり、ガソリン車ではどうしてもリアサスペンションの接地感の甘さなどが露呈していた。それに比べればややしっとりとした感じが出ている(特に後席に乗るとそれが顕著)。
「これが日本専用車の乗り味だ」と言われてしまえばそれまでだが、大きな轍(わだち)を越えた時の車両の上下動の多さ、その割に臀部(でんぶ)への突き上げが大きいところなどはまだ煮詰める余地はある気がする。前述したようにこの辺の焦点がさらに定まることで、真の「ジャパンオリジナル」が生きてくるのではないだろうか。
一方で「これはいい」と感じたのは、ハイブリッド専用に設定されたマルチインフォメーションディスプレイである。内容としてはプリウスやアクア同様、ハイブリッドインジケーターやエネルギーモニターなどの項目を、4.2型のTFT液晶ディスプレイに切り替えて表示するものだが、アクアと比べると視線移動こそ多くなるものの、表示内容もよく整理されている。特に「デジタルインフォ画面」では、平均燃費やEV走行比率、航続可能距離、さらに時計や燃料計まで一覧できる。老眼が進んでいる筆者はもちろん、カローラに乗る平均的ユーザーにもわかりやすい機能として評価したい。
さて、ハイブリッドカーである以上、気になるのは燃費である。JC08モードで33.0km/リッター数字はアクアにメーカーオプションを装着して車両重量が1090kg以上になった場合と同じ数値。前述したようにタコメーターを搭載していることでエネルギーモニター以上にエンジンが停止している状態がわかるので、減速時や下り坂などではついついEVモードで走るよう心がけてしまったが、今回のテストでは、試乗、撮影ふくめ1102kmの距離を走って、平均で17.9km/リッターとなった。
この数字をどう見るかは人によって異なるだろうが、発進時などは交通の流れに遅れないよう加速するなど、減速時以外は至ってフツーの走り方を心掛けた結果であることは付け加えておく。また今回の試乗では、何よりもハイブリッドならではの静粛性はガソリン車より優れていることを確認できた。これまでのカローラユーザーが今後買い替えた際には、燃費同様、この静粛性の高さは大きなセリングポイントとなるだろう。
安全装備に良識を感じる
最後に、実際購入する際には2グレードのどちらがお買い得なのだろうか。今回試乗したハイブリッドGと下位モデルの「ハイブリッド」との価格差は15万円だが、ハイブリッドGにははっ水機能のフロントドアガラスや高遮音タイプかつトップシェード付きのウインドシールドガラスを採用。センタークラスターの網目柄パネルなどといった細かい部分で差をつけたり、ハイブリッドGのみメーカーオプションで追加できる装備を設定したりしている。価格差としてはほぼ妥当なところだ。
一方で安全装備に関しては、VSC+TRC、ヒルスタートアシストコントロール、6エアバッグなどが共通しているのが好印象。今までのカローラユーザーがワンランク上のクルマとして乗り換えたいのであれば上位グレードの「ハイブリッドG」だが、15万円の価格差をカーナビやディーラーオプションなどに充てるという手もある。保守的なカローラというクルマの性格上、あまり派手な演出をしなかったことで逆に見た目の差が少なくなったのは下位グレードにとっては幸運だったのかもしれない。ゆえに安全装備に差がなく、このクルマのテイストを十分味わうことができる「ハイブリッド」の方が、買い得感は高いと思う。
さて、最初に「今回のカローラ ハイブリッドの登場は新型フィットに対するトヨタの全包囲網の一端」的な話をしたが、それも含めてカローラ ハイブリッドはトヨタが今後さらなるハイブリッド戦略を進めていく上での重要な鍵となるクルマだ。それは単に台数だけではなく、ダウンサイジングトレンドなどにも動くことのなかった保守層、つまり「カローラを(一生)買い続ける人」が再度動くことによる市場への波及効果である。これによってプリウスやアクアなども瞬間的に台数を減らすことはあるかもしれない。しかし「損して得取れ」ではないが、トヨタ・ハイブリッドブランドのさらなる強化など、ライバルに対するアドバンテージは大きい。プロ野球の再生工場ではないが、かつての王様(国民車)をハイブリッド化で強力な援軍に仕立てあげたトヨタ。市場への導入タイミング、価格、機能などが全て計算済みなのには、ただただ頭が下がるばかりなのである。
(文=高山正寛/写真=森山良雄)
テスト車のデータ
トヨタ・カローラ アクシオ ハイブリッドG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4360×1695×1460mm
ホイールベース:2600mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)175/65R15 84H/(後)175/65R15 84H(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:33.0km/リッター(JC08モード)
価格:207万5000円/テスト車=225万9800円
オプション装備:175/65R15 84Hタイヤ&15×5Jアルミホイール<センターオーナメント付き>(4万7250円)/HIDビューアシストパッケージ(プロジェクター式ディスチャージヘッドランプ<ロービーム・オートレベリング機能付き>+オートマチックハイビーム+自動防眩(ぼうげん)インナーミラー+コンライト<ライト自動点滅・消灯システム>)(9万2400円)/スマートエントリー&スタートシステム<運転席・助手席・バックドア/アンサーバック機能付き、スマートキー2個>+盗難防止システム<エンジンイモビライザーシステム>(4万5150円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2495km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:1102.0km
使用燃料:61.5リッター
参考燃費:17.9km/リッター(満タン法)/18.2km/リッター(車載燃費計計測値)

高山 正寛
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