トヨタ・カローラ アクシオ ハイブリッドG(FF/CVT)/ホンダ・グレイスHYBRID EX(FF/7AT)
これぞ正常進化 2015.06.17 試乗記 トヨタとホンダの最新コンパクトセダンに試乗。代表的な2台を比較しながら、かつて世のスタンダードとされていた4ドア車の“いま”をリポートする。「昔ながら」の最新型を試す
「セダンはクルマの基本形」という昔ながらのフレーズを、どのぐらいの人が理解してくれるだろうか。そう思ってしまうほど、クルマの世界では、SUVやミニバンなど新しいスタイルのモデルが市場を席巻してきた。
でもベテランドライバーにとっては、いまなおセダンはクルマの基本形。4~5人の乗員がひとつの空間を共有し、客室と荷室は明確に分かれるという作りは、昔ながらの日本家屋に通じるところがある。しかもミニバンやSUVに比べれば車重が軽くて背も低い分、走りのよさや燃費の伸長が期待できる。だからなのか、北米やアジアなど、現在もセダン需要が高い地域は多い。
その中で、日本の道路事情に合った5ナンバーサイズのボディーを持ち、燃費性能に長(た)けたハイブリッドシステムを搭載するセダンの新型が、相次いで登場した。2014年末にデビューしたホンダの新型車「グレイス」と、2015年の3月に発表されたトヨタの新型「カローラ アクシオ ハイブリッド」だ。
カローラはマイナーチェンジだし、グレイスは「フィット」ベースと、どちらもオールニューではないけれど、50代の僕にとっては、幼い頃あふれるほど走っていた5ナンバーセダンの最新型ということで、半世紀近くが経過した今、どんな進化を遂げているのか興味があった。
取材車はカローラ アクシオが「ハイブリッドG」、グレイスは「HYBRID EX」。ともに各モデルの最上級グレードで、価格はカローラが220万7127円、グレイスが221万円とガチンコ勝負。でも実車を前にすると、その違いに驚く結果になった。
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数字からは読めない“違い”
ボディーサイズはカローラが4400×1695×1460mm、グレイスが4440×1695×1475mmで、ほぼ同じ。ホイールベースも2600mmと完全に一致する。しかしカローラは3月のマイナーチェンジで一新した顔された以外は“昔ながら”の、典型的な3ボックス。それに対してグレイスは、なだらかなシルエットを描く、今風のダイナミックなフォルムだ。
カローラは世界各地で販売されているけれど、日本仕様は事実上国内専用車だ。一方のグレイスは、わが国での発表に先駆けて、ガソリン/ディーゼル仕様が東南アジアや南アジアで「シティ」という名前で売られていた。実際、日本のベテランユーザーにターゲットを絞ったカローラ、アジア新興国のエネルギーを反映したようなグレイスという違いは感じられた。
ボディーカラーはともにブラウン系だった2台の試乗車だが、インテリアはカローラがベージュ、グレイスがブラックと対照的。色の違いも手伝って、こちらも落ち着きのカローラ、躍動のグレイスという印象を受ける。グレイスのほうが豪華に感じられるのは、主要マーケットにおけるそのクルマの地位が関係しているのだろう。
逆にカローラの運転席は、なんだかホッとする。高めの着座位置に対してインパネは低く、立ち気味のウインドスクリーン、しっかり見えるボンネット、ほぼ水平のベルトラインなどのおかげで、狭い道でも自信を持って取り回せる。この点ではグレイスなどモダンなフォルムを持つセダンより上だ。
後席はグレイスのほうが広い。フィット同様、燃料タンクを前席下に置いた効果かもしれない。身長170cmの僕にとってはカローラの居住性も不満はないけれど、なにせグレイスは足が組める。しかもグレイスにはトランクスルー機構も備わっているから、マルチパーパス性でも一歩上をいく。
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走りの質も対照的
1.5リッターのガソリンエンジンとモーターのコンビで前輪を駆動するハイブリッドシステムも2台に共通している。最高出力と最大トルクはカローラがエンジン:74ps、11.3kgm/モーター:61ps、17.2kgm、グレイスはそれぞれ110ps、13.7kgmと29.5ps、16.3kgmだ。
車両重量はカローラが1140kgで、対するグレイスは1200kg。でも、60kg重いグレイスのほうが、力強く加速できるように感じる。
メカニズムの違いがそう思わせるのかもしれない。遊星ギアを用いたカローラのトランスミッションは、標準的なCVTのように「急加速ではエンジンの回転が先に盛り上がり、その後速度が追いついてくる」のに対し、デュアルクラッチ式トランスミッションのグレイスは、MT車に近い、小気味よいスピードの上がり方を見せる。
ただし、加速のスムーズさではカローラが上。車庫入れなどでお世話になるクリープもカローラのほうがリニアに感じられる。逆に、スポーティーな走りをするときには、Sモードやシフトパドルが備わっているグレイスのほうが向いている。
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メーカー色がにじみ出る
乗り心地はカローラが上だ。低速域では省燃費タイヤの硬さが意識されるものの、鋭いショックはうまく抑え込んでいて、高速域では“しなやか”という言葉が使えるほど快適である。それに比べるとグレイスは、ヒョコヒョコした小刻みな揺れが気になってしまう。燃料タンクの上にある運転席の座面の、相対的な薄さも影響しているようだ。
高速道路での直進安定性、山道におけるハンドリングは、どちらも満足できるレベルだった。ミニバンやSUVと比べると、背の高さを感じさせず、自然に駆け抜けられることが心地よい。カローラが「ブリヂストン・エコピアBP25」の175/65R15、グレイスが「ダンロップSP SPORT 2030」の185/65R16というタイヤの違いを考えれば、カローラのシャシーのほうがタイヤへの依存度が低く、その分サスペンションがしっかり仕事をしていると言えるかもしれない。
このようにハンドリングでは予想以上にカローラが健闘したけれど、それ以外は外観から判断できる通りで、「取り回しが楽で乗り心地の良いカローラ」「マルチパーパス的でスポーティーなグレイス」という結果だった。それは昔ながらのトヨタとホンダのブランドイメージと一致する。伝統のスタイルだけあって、ブランドイメージを忠実に反映させたのかもしれない。
総じて印象的だったのは、2台ともグローバルなトレンドにむやみに引きずられることなく、この日本で使いやすいセダンであり続けていることだ。快適性能や環境性能を格段にレベルアップさせつつも、5ナンバーのサイズもキープし続けている。国土や道路の広さが、半世紀前とさほど変わらないことを考えれば、これこそ正常進化ではないかと思った。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
トヨタ・カローラ アクシオ ハイブリッドG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4400×1695×1460mm
ホイールベース:2600mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:74ps(54kW)/4800rpm
エンジン最大トルク:11.3kgm(111Nm)/3600-4400rpm
モーター最高出力:61ps(45kW)
モーター最大トルク:17.2kgm(169Nm)
タイヤ:(前)175/65R15 84H/(後)175/65R15 84H(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:33.8km/リッター(JC08モード)
価格:220万7127円/テスト車=265万3329円
オプション装備:ボディーカラー<ヴィンテージブラウンパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/175/65R15タイヤ+15×5Jアルミホイール+センターオーナメント(4万8600円)/ヘッドランプBi-Beam LED<オートレベリング機能付き>+コンライト<ライト自動点灯・消灯システム>(7万3440円)/スマートエントリー<運転席・助手席・ラゲッジルーム/アンサーバック機能付き>&スタートシステム+スマートキー2個(4万6440円)/シートヒーター<運転席・助手席>(1万6200円) ※以下、販売店装着オプション スタンダードナビ オーディオ用ステアリングスイッチ付き(15万120円)/バックガイドモニター(3万3480円)/ETC車載器 ビルトインタイプ<ナビ連動タイプ>(1万7442円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(2万8080円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ホンダ・グレイスHYBRID EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1695×1475mm
ホイールベース:2600mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ダンロップSP SPORT 2030)
燃費:31.4km/リッター(JC08モード)
価格:221万円/テスト車=246万9200円
オプション装備:車体色 ゴールドブラウンメタリック(3万2400円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー(22万6800円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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