ルノー・カングー ゼン(FF/4AT)
自分のペースで行く人へ 2013.11.05 試乗記 乗る者にとっての気持ちよさとは何だろう? 運転する者にとっての心地よさとは何だろう? 顔が変わった「ルノー・カングー」には、その答えがよりいっそう鮮明なカタチで宿っていた。上級グレードの「ゼン」に試乗した。ファン・トゥ・ドライブ!
「ルノー・カングー」が、ニューカングーと呼ばれる今のII型になって初めてのマイナーチェンジを受けた。ディーゼルエンジンを搭載するモデルは本国仕様には存在し、日本市場でも期待されているのに、今回も導入が見送られた。「なーんだ、顔が変わっただけか……」とガッカリした人もいるかもしれないが、実際にはいろいろ細かなところにも改良が加えられたらしい。なにはともあれ、乗って試してみよう。
大柄なボディーはお顔の化粧直しによって一層派手な印象を強めたが、それに負けないくらい活発な走りも見せる。1460kgの重量に対して105psの1.6リッターエンジンは、数字の上ではさほど速そうには思えない。
しかし、実際には道の流れをリードすることも可能だ。最近の都会の流れはハイブリッド車などモーター発進のトロトロ走りが主流だ。そんな環境下では4段ATの分散したギア比でも、2000rpm以下に保った緩加速で十分、流れの先頭に立てる。
また、今何速に入っているのかもわからないような多段ATよりも、明確にギアポジションが頭の中に入ってきて、少なくとも機械に操られ、乗せられているのではなく、自分でコントロールしているという実感が得られる。
最近の傾向として、エンジン回転をあまり上下させない。ギアを使って速度を変化させるのが現代流だ。ギア比を細分化して効率よく加速させると、燃費にはイイかもしれないが、スロットルを加減して加速する昔ながらの感覚は薄くなる。
確かに燃費は重要であり、ソコを否定するつもりはない。しかし、知らぬ間に速度が出ているよりも、自分ですべてを掌握している方が、クルマを自分の意思で動かしているという自覚がもてるというものだ。
燃費を稼ぐチャンスは、都市部ではなくもっと他のステージでいくらでもある。渋滞の中で発進・停止を繰り返すような状況では、燃費に差があるといっても、それはクルマそのものの差より走行条件の差により大きく依存するからだ。
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「高級」な乗り心地
カングーのカタを持つわけではないが、このクルマの美点を考えれば、スペックの上の「劣勢」には目をつぶれる。カングーを運転していて、ゆったりとリラックスできてイイナーと感じるのは、60km/hから90km/hくらいでカントリーロードをのんびり流すような状況だろうか。実際に、本国フランスやEU圏でもそんな使われ方をしている。わが国では、都市部より地方での生活がそれに近いだろう。まさにカングーにとって生き生きと活動できる舞台だ。
道の流れのちょっとした変化に遭遇すると、「秒刻みのせわしない時間有効利用者」たちは、スペック上の優位性をうんぬんしたがるものだ。短距離の瞬発力を競って信号間で相手の前に出るためには、確かに大排気量は効果的だ。
しかし、地方都市の交通は包括的にみればキビキビと機能しており、実際のクルマの流れは都市部よりもむしろ速い。信号待ちも1回ではける。そんな「時間軸」で落ちついて走ってみれば、機械に頼ってばかりでなくドライバーの意思に忠実に動かせるのはどちらなのかなぁ、という素朴な疑問も生まれてくる。
日本市場では動力性能を重視する人が多いけれども、そう急いでも先は詰まっているから、目的地に着く時間は大して変わらない。そんな「短期決戦」的な性能よりも、時間的により長く関係することになる乗り心地など快適性の方がより大切な要素だ。
カングーはそこもイイ。大径で太いタイヤやホイールは、今ではどのクルマにも同じように装着されているが、乗ってみると体が上下に揺さぶられる例は、意外や高級車といわれるクルマにも多い。外から見ても、そのボディー変位がわかるほどヒョコヒョコ動くのはみっともないし、安っぽい。直進時だけでなく、コーナーでもビターッと常時水平さを保つフラット感覚こそ高級な乗り心地といえる。
フランス車は昔からそこが得意分野でもあるが、ニューカングーに乗るとあらためてそう思う。微小な凸凹だけでなく、大きく揺さぶられるような大入力のボトミング的な動きに対しても、何もなかったかのように収めるのはルノーの得意とするところだ。
シートも良くなった。ルノーといえども「ラグナ」や先代の「メガーヌ」などはあまり褒められたものではなかったが、あの時の反省もあってか、今では座面の後傾斜角もちゃんと取られている。とくにリアシートにおいては改善が著しい。
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商用車っぽく乗るのが粋!?
新しいカングーには「ゼン」と「アクティフ」の2種が用意される。見た目の違いは、アクティフでは前後のバンパーや樹脂パネルが黒っぽい地肌のままなのに対し、ゼンではボディーと同色に塗られる。日本市場では当然キレイな方が好まれるだろうと思いきや、マニアの間ではわざわざ樹脂パネルに換えて商用車っぽくみせるのが粋なのだそうで、交換パーツはいくらなのかという問い合わせもあるそうだ。他にはドアミラーの塗装などにも同じ違いがみられる(ゼンはブリリアントブラックで、アクティフはブラック)。
そのほか実質的なところでは、エアコンがオートかマニュアルかという違いがあるけれども、もちろんマニュアルの方が日本の天候には対応しやすい。オートの方がむしろ頻繁に温度調整しなおさなければならない例を多数みている。安全装備や走行性能の部分に違いはないから、主に外観の差を好みで選ぶことになるのだろう。
安全装備といえば、自動で止めてくれるブレーキシステムが大流行であるが、本来クルマが持つ基本性能として、十分止まれる能力を全車が持っていることはいうまでもない。居眠りをしているなど、まったくブレーキを踏めない状況の暴走車に、ああいったブレーキシステムは効果的であるから否定はしないが、「健全なドライバー」なら試してみる必要はないだろう、というのが筆者の持論だ。自動で車庫入れをやってくれるパーキングアシストの類いとは論点が異なる。
カングーにはEBAという緊急時に踏力を増強してくれるブレーキアシストが付いている。とにかくブレーキは自分でしっかり踏むことが肝要。またAT車では、特に安心感につながる2速にシフトダウン可能な速度は80km/h以上と十分。エンジンの高回転域の耐久性に自信のないメーカーはこれが低い。ブレーキ失陥は絶対に皆無とは言い切れないから、こちらの方がむしろ重要だと思う。
用意されている外装色はゼンの方が数が多い。価格差は20万円と小さく、どちらも200万円台前半(アクティフ:214万8000円、ゼン:234万8000円)と、内容とサイズの割には安価な設定なのがカングーの魅力でもある。
(文=笹目二朗/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
ルノー・カングー ゼン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4280×1830×1810mm
ホイールベース:2700mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:4段AT
最高出力:105ps(78kW)/5750rpm
最大トルク:15.1kgm(148Nm)/3750rpm
タイヤ:(前)195/65R15 91T/(後)195/65R15 91T(コンチネンタル・コンチエココンタクト3)
燃費:--km/リッター
価格:234万8000円/テスト車=238万7800円
オプション装備:ルーフレール(3万9800円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:4641km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(3)/山岳路(2)
テスト距離:220km
使用燃料:21.8リッター
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)、10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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