ホンダN-WGN G・Aパッケージ(FF/CVT)/N-WGNカスタム G・ターボパッケージ(FF/CVT)
独自路線で王道に挑む 2013.12.15 試乗記 軽自動車のメインストリームであるハイトワゴンのジャンルに登場した「N-WGN」。「スズキ・ワゴンR 」「ダイハツ・ムーヴ」の二強と、真正面からぶつかるこのクルマに試乗した。「N」の第4弾は“先鋭・主張・充足”
試乗前に行われた技術説明会で、“先鋭・主張・充足”というスローガンとともに「N-WGN(エヌワゴン)」の雄姿がスクリーンに映し出された。背景には、何やら薄くイラストが描かれている。よく見ると、それは歌舞伎の隈(くま)取りと厳島神社のものらしき鳥居だった。しかも、色は妖しい紫である。なるほど、これは日本文化の基層に根強く浸透しているあの美学をわかりやすく表しているではないか。このクルマがターゲットとしている層を、はっきりと見定めているのだ。
N-WGNは「N」シリーズの第4弾モデルである。「N BOX(エヌ ボックス)」「N BOX+(エヌ ボックス プラス)」「N-ONE(エヌワン)」の好調ぶりを受けての発売となった。軽自動車のメインストリームであるハイトワゴンのジャンルであり、日本車の王道だと言ってもいいかもしれない。軽自動車は今や日本の乗用車販売のほぼ半分を占めていて、その中の最大のマーケットということになるのだ。N-ONEもハイトワゴンに含まれるが、「N360」をデザインモチーフとしていて全高が若干低く、“軽スペシャリティー”の要素もあった。N-WGNは、「スズキ・ワゴンR 」「ダイハツ・ムーヴ」の二強と真正面からぶつかることになる。
軽自動車で今ホットな闘いが繰り広げられているのは、燃費のフィールドだ。ワゴンRとムーヴに三菱日産連合の「eKワゴン/デイズ」も加わって、コンマ1の数字を争っている。ホンダは、そこからは離れた独自路線を選択した。後発なのだから意地でもアタマを取りにいきそうなものだが、それをしなかった。ターボエンジン車で26.0km/リッター、ノンターボ車でも29.2km/リッターである。数字的にはインパクトに欠けるが、これだって見事な低燃費に違いない。ここで一番をとらなくても、走りのよさとの組み合わせで魅力を打ち出す戦略なのだ。
センタータンクを生かした床下収納
もう一つの争点は、室内の広さだ。この点に関しては、ホンダには「センタータンクレイアウト」というアドバンテージがある。室内幅や室内有効長でクラストップをうたうほか、荷室の広さを確保したことをアピールしている。後部にガソリンタンクを持たないメリットを生かしているわけだ。後席を最大限に下げても360mm、前にスライドさせれば560mmになる荷室は確かに広い。床は二重構造になっていて、結構な大きさの床下収納がある。床板を跳ね上げると後席を下げた状態でベビーカーが入るのは、お母さんにとってはうれしいだろう。
シートに座って広さに驚かないのは、慣れてしまっただけのことに違いない。このジャンルでは限界までスペースを広げるのが当たり前になり、数cmの差は実感できなくなってしまった。それで、身長185cmの編集部K氏を前後シートに座らせてみるという実験をしてみたのだが、写真でわかるように間違いなく広い。K氏によれば、シートを一番前にスライドさせても、狭くて息苦しいようなことはないそうだ。
収納の工夫も大切なポイントである。ワゴンRの助手席下バケツに対抗したのか、N-WGNは後席の下に大きなトレイを用意した。靴などを入れられるのだが、スッキリ縦に入れられるサイズは28センチまで。大足の人はお気の毒さまである。
ダッシュボードに備わるスライドセンタートレイはドリンクホルダーと組み合わされていて、3通りの使い方ができる。マクドナルドのバリューセットが載せられる大きさなんだそうだ。「トヨタ・プロボックス」は“ほか弁”対応のトレイを用意していたから、クルマによってランチに何を食べるかの想定が異なっているわけである。
ドレスアップが前提?
さらに細かい工夫が、シートバックアッパーポケットだ。大小2つに区切られていて、小さいほうにはスマホが、大きいほうにはDSなどの携帯ゲーム機が入る。素材がメッシュになっているのは、ゲーム機が見つからずに子供が騒ぐのを未然に防ぐためだ。この手のクルマが使われる状況を、綿密にリサーチしたことの成果なのだろう。
N-WGNの商品構成は、大きく分けて4つだ。ボディーデザインがスタンダードとカスタムの2種で、どちらもターボとノンターボが選べる。ハイトワゴンでは常道となった手法である。今のところ、ボディータイプはスタンダードとカスタムがほぼ半々だという。ターゲット層を考えるとカスタムがもう少し多くてもよさそうだが、スタンダードでも結構いかつい顔付きをしている。堂々として立派に見えることが重要という要求に、しっかり応えているのだ。
そして、このデザインは必ずしも完成形ではない。かなりの割合のユーザーが何らかのドレスアップを試みる。この日も、ホンダアクセスと無限が、それぞれのパーツで飾り立てたN-WGNを展示していた。無限はエアロ系が中心だが、アクセスは独特な世界観を強く打ち出す製品を豊富に用意していた。中でも目立ったのは、スワロフスキーを使ったドレスアップパーツである。ドアパネルやダッシュボードを、キラキラ輝かせるのだ。ドアミラーもスワロフスキーで飾られていた。ユーザーの多くを占めるはずの若い女性を引きつけそうだ。
男女どちらにも受けそうなのが、リアクオーターのガーニッシュに仕込まれた「N」マークのイルミネーションだ。昼はハーフミラーで、夜はブルーに発光する。10万円以上かけてアクセサリーを取り付ける人がかなりいるのだそうだ。本体価格が安いことで、最初からドレスアップを前提にしているのだろう。
余裕をもたらすターボエンジン
スタンダードかカスタムかは好みによるが、エンジンはぜひともターボを選んでほしい。このターボエンジンは、独自路線の最強の武器である。先鋭的であり、これがホンダの主張だ。だからこそ、充足を提供できる。N-ONEに乗った時、素晴らしい加速とサウンドに感服したのを思い出した。ボディーが大きくて重い分、N-ONEに比べれば多少のハンディはある。それでも、十分にスポーティーな走りだ。
何よりも、余裕のあるところがいい。このエンジンは、むやみに回転を上げる必要がないのだ。小排気量だとどうしても回転でパワーを稼ぐタイプになりがちだが、これは3000rpm程度からじわじわ力感を増していく。軽自動車に乗っていることを忘れそうな感覚をもたらしてくれる。
ノンターボでも、日常の使用で困ることはないだろう。アクセルを踏み込めば、それなりに加速して流れに乗れる。ただし、急ぐときには踏みっぱなしだ。この日は突発的な交通規制で試乗会場に帰るのが間に合わなくなりそうになり、べた踏みで走らねばならない状況に陥った。室内は騒音であふれかえる。また、カスタムに比べるとスタンダードは遮音材が省かれているから、少々愉快ではない音質のエンジン音が侵入してくる。こういう乗り方が多くなれば、おそらく燃費も極度に悪化するだろう。JC08モードの数字とは逆転することになるかもしれない。
ターボ車に乗り換えると、車格まで上がったように思えた。乗り心地もより落ち着いて、ハンドリングも重厚さが増したと感じられたのだ。パドルを使ってシフトダウンを試みると、エンジンブレーキが強めにかかるのが心地よい。試乗会場は市街地だったのだが、山道に行けばもっと楽しめただろう。ターボとノンターボの価格差は、わずか6万円ほどである。真の“先鋭・主張・充足”を手に入れる対価なら、まったく惜しくない。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ホンダN-WGN G・Aパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2520mm
車重:820kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:58ps(43kW)/7300rpm
最大トルク:6.6kgm(65Nm)/4700rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:29.2km/リッター(JC08モード)
価格:125万円/テスト車=127万6250円
オプション装備:ナビ装着用スペシャルパッケージ(2万6250円)
テスト車の走行距離:413km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:----km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
![]() |
ホンダN-WGNカスタム G・ターボパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2520mm
車重:820kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.6kgm(104Nm)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストンB250)
燃費:24.0km/リッター(JC08モード)
価格:151万1000円/テスト車=159万8750円
オプション装備:ボディーカラー<プレミアムゴールドパープル・パール>(3万1500円)/ナビ装着用スペシャルパッケージ(2万6250円)/15インチアルミホイール(3万円)
テスト車の走行距離:385km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:----km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.20 「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。