ホンダ・ヴェゼル ハイブリッドX(4WD/7AT)/ヴェゼル ハイブリッドZ(FF/7AT)
巧妙で活発 2014.01.27 試乗記 ホンダが新たに投入したコンパクトクロスオーバー「ヴェゼル」。人気のハイブリッドモデルで、その走りを確かめた。キーワードは「現代のスペシャリティー」
「ヴェゼル」が目指すのは“第5のグローバルカー”という。現在、ホンダで自他ともに認めるグローバルカーといえば「アコード」「CR-V」「シビック」「フィット」の4台で、それに続く存在となるのがヴェゼルの至上命令。
ホンダの場合、グローバルといってもフィット以外の3台は“北米最優先”の感が色濃い。まあ、北米では絶対的地位を築いているからトータル台数は多いが、例えばアコードやCR-Vは日本や欧州でビッグヒットを見込めるクルマではない。シビックにいたっては、現在は日本で売られてすらいない。
ヴェゼルはだから、世界で満遍なく売れることが重視される。ヴェゼルの企画開発プロジェクトのリーダー役をつとめた板井義春氏は、歴代アコードにずっと携わってきた“北米向けホンダのスペシャリスト”だが、ヴェゼルの開発ではあえて北米に赴いて「北米の意見はいっさい聞かないぞ」とタンカを切ってきたんだとか。
それゆえに、ヴェゼルの役割は多面的。最も重視するアジア市場でのヴェゼルは“あこがれの高付加価値商品”であり、欧州ではあの「HR-V」(欧州では高評価を得ており、今も乗り続けるユーザーが多いとか)の後継であり、そして、なんだかんだいっても北米でも売る。北米でも「MINI」は人気が高い。
最後に、わが日本での狙いどころは“現代のスペシャリティー”だそうである。ヴェゼルはもちろん2ドアでもないし、背も高いのだが“あえて指名買いしたくなるプチぜいたくグルマ”という広義の意味で。
ここ数年のホンダには2つの危機感がある。ひとつがリーマンショック時に痛感した「北米市場がコケると、ホンダもコケる」という北米依存度の高さ。そして「フィットと『フリード』と軽自動車しか売れない」という日本国内市場のゆゆしき現状である。
「ジューク」には相当の脅威?
ヴェゼルの基本骨格は、センタータンクレイアウトや2機種のパワートレインから想像されるように、フィットと深い血縁関係にある。特に安価な1.5リッター車は同じくBセグメントベースの「日産ジューク」を強く意識したものだが、2610mmというホイールベースは最新のCセグメントレベル。“BセグのコンポーネンツでつくったCセグ級クロスオーバー”という意味では、ヴェゼルの成り立ちにもっとも近いのは「MINIクロスオーバー」だろう。
実際、リアシートは身長178cmの筆者でもアシが組めそうなほど広いし、もともとトランク容量の広さが売りセンタータンクだけに、ヴェゼルのそれも完全なCセグメント級。
インテリアにも、明らかに高価な素材はもちろん採用されていないが、助手席前に貼られたレザー(風の樹脂)パッドを筆頭に、センターコンソールの側面などにソフトなパッドを配置。そして中央とドアのアームレストなど、日常使用で体が触れそうな部分にだけ柔らかい手触りの素材を効果的に使っている。このあたりはなかなか巧妙といっていい。
「スペシャリティーは操作系もスマートであるべし」の思想から、労力軽減アイテムは積極的に使っている。最近流行のタッチパネルも、個人的には機能的に使いやすいとはまったく思わないが、いかにも近未来的だし、国内ではまだめずらしいリアクティブフォースペダル(アクセルペダルに押し戻す制御を与えてエコ運転を促進)も、ちょっとしたサプライズ。新しモノ好きをそそる新機軸によるショールームアピールはジュークを軽く凌駕(りょうが)しており、特に1.5リッターの戦略価格は、現王者であるジュークには相当の脅威だろう。
ホットハッチのような味わい
今回は上級グレードのハイブリッドしか乗ることはできなかったが、それはビックリするほどの“ホットハッチ”だった。
最初に乗った4WDモデルはより穏やかな性格(のはず)の16インチタイヤだったが、それでもパワステはおっと思うくらい重い設定で、利き具合も路面をワシづかみしたように強力かつ俊敏。すこぶる正確だが、疲れているときには「ちょっと力をぬいてよ」といいたくなるほど元気。ロールは小さく、ボディーはとにかくカッキーンと硬質である。次に乗った17インチのFFモデルも身のこなしはハッキリと軽快になるが、やっぱりカキカキ系の味わいだ。
これだけ活発な操縦性を差し引けば、まあ乗り心地も許容範囲ではある。「オデッセイ」に続いて、ホンダにはめずらしいザックス製ダンパーを使っているそうだが、ボディーもデキがいいのか、安っぽいガタピシはない。ただ、突き上げの一発一発がけっこうな重低音系で、4輪をバラバラに蹴り上げる不整路面だと、ボディーは素直に揺すられる。絶対的にハードな設定なのだろう。そういえば、前出の板井氏はヴェゼルのデザインやハードウエア開発の意気込みとして「欧州で勝てないと、世界でも勝てない」とも語っていた。なるほど、この味わいは、いかにも欧州を目指したときのホンダっぽい。
最初に試乗した「ハイブリッドX 4WD」の車重は、「フィットハイブリッド」のFFより300kg近くも重い。しかし、出力アップの専用チューン効果もあって、積極的にパワフルといえるレベルにある。走行中にときおりクラッチの断続に起因するとおぼしきショックに見舞われるところは、このi-DCDシステムの弱点ではあるが、好事家目線で見ると、そうした小さなネガ以上に、小気味いいパワーのほうにソソられる。
“走り”を語りたくなるクルマ
4WDシステムは、ホンダでは最も高度な電子制御リアルタイムAWDをさらにヴェゼル専用にチューンしたものという。
少なくとも今回の試乗ルートとなったドライの市街地&都市高速では、FFでもトラクションや安定性、直進性になんら不安はないけれど、開発陣がヴェゼルに込めたホット感を堪能したい向きは4WDのほうが楽しめる。
ヴェゼルのそれは一般的な4WD制御より明らかにリアへのトルク配分が積極的。今回のような限界からはるか手前の領域でも、ちょっとしたキッカケをつくってあげると、後ろからグイッと押してニュートラルな挙動に移行する。これはホンダでは異例なほど“曲げる4WD”である。
まだ発売直後ということもあって、現在では1.5リッターとハイブリッドでは、高価なハイブリッドのほうが圧倒的人気らしい。ただ、この乗り心地や穏やかさより俊敏性を重視したヴェゼルの場合は、ハイブリッドは基本的にスポーツモデルと考えたほうがいい。
取材時間の関係で今回は残念ながら1.5リッターを試せなかったが、1.5リッターに試乗した同業先生諸氏によれば、乗り心地は明らかに1.5リッターのほうが快適とか。となれば、このスタイルとインテリアに引かれて、気軽に快適に乗りたい向きには1.5リッターのほうがいいかも。車両価格と燃費を考えると、ごく普通の使い方なら、トータルコストも1.5リッターのほうが安くなるだろうし。
ヴェゼルに“現代のスペシャリティー”というキーワードを与えた開発リーダー役の板井氏は第2期F1と「プレリュード」の全盛期にホンダに入社して、初めて手がけたのが「アコード インスパイア」(エンジン縦置きのFFのアレ)だったそうで、あの時代のホンダのアツさをヴェゼルに込めたいらしい。
なるほど。まあ、その願いがかなうかどうかはともかく、いま日本で買えるホンダ車で“走り”を語りたくなるクルマは、このヴェゼルとオデッセイ、あとはギリギリでフィットRSくらいしかないのが現実である。ヴェゼルのちょっと暴走気味(?)ともいえる走りの仕立てには、あの時代のアツさの片鱗(へんりん)を感じる気もしないではない。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
拡大 |
テスト車のデータ
ホンダ・ヴェゼル ハイブリッドX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1770×1605mm
ホイールベース:2610mm
車重:1370kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:132ps(97kW)/6600rpm
最大トルク:15.9kgm(156Nm)/4600rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)215/65R16 95H/(後)215/65R16 95H(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:23.2km/リッター
価格:256万円/テスト車=281万7250円
オプション装備:ボディーカラー<ティンテッドシルバーメタリック>(3万6750円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー・ETC(22万500円)
テスト車の走行距離:1236km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
ホンダ・ヴェゼル ハイブリッドZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1770×1605mm
ホイールベース:2610mm
車重:1300kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:132ps(97kW)/6600rpm
最大トルク:15.9kgm(156Nm)/4600rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:24.2km/リッター
価格:250万円/テスト車=275万7250円
オプション装備:ボディーカラー<ミスティグリーンパール>(3万6750円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー・ETC(22万500円)
テスト車の走行距離:1037km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。






























