アウディA3セダン 1.4TFSIシリンダーオンデマンド(FF/7AT)
今の日本で貴重な存在 2014.04.07 試乗記 アウディが各種各サイズをそろえる4ドアセダンのラインナップに、最もコンパクトな「A3セダン」が登場。その商品としての見どころは、どこにあるのか? 気筒休止機能を持つ1.4リッターモデルで確かめた。待ち望まれたセダン
アウディ ジャパンが掲げる「A3セダン」の年間販売目標は、5000台だそうである。A3全体での目標は1万台だから、日本でのA3は5ドアの「スポーツバック」とセダンで半々……という想定ということだ。そしてスポーツバックとセダンを合わせたA3シリーズは、日本国内におけるアウディ販売のおよそ3分の1を占める予定。つまり、A3セダンは日本市場でバリバリの主力車種になると期待されている。
A3に初めてセダンが追加されたのは、想像するに、中国を筆頭とする新興アジア市場と北米市場への対応が主たる理由だろう。アジアの多くや北米では、このクラスの売れ筋はやはりセダンだからだ。ためしにアウディUSAの公式ウェブサイトをのぞいてみたら、A3はすでに基本的にセダンだけとなっていた(今後の北米市場では、A3スポーツバックはプラグインハイブリッドのe-tronだけになるっぽい)。
日本で「5ドアハッチバックは逆立ちしても売れない」といわれていたのも今は昔。現在の日本では、とくにCセグメント以下の小型車は完全にハッチバック優勢で、「小さめで扱いやすいセダンを……」なんて考えると、逆に選択肢が少なくて困ってしまうほどである。
しかし、市場が縮小して撤退組が増えると、逆に勝機が生まれたりするのもビジネスの常。今尾直樹さんによる「A3セダン 1.8 TFSIクワトロ」の試乗記事にもあるように、A3のセダン……というか、「A4」よりコンパクトなセダンは日本にとっても待望の存在だったという。
だいたい、現行A4は全長が4.7m超、全幅も1.8m超……と、当世Dセグメントでも最大級のサイズだから「新型に買い替えたくても、ウチの駐車場に入らない」という声が少なからず届いていたであろうことは、容易に想像がつく。A3セダンが狙うべきスキ間は、じつは日本でもけっこう幅広く存在するのだ。
意外に異なる装備と機能
今回の試乗車は、2機種あるFF(エンジンはともに1.4リッターターボ)のうち、より高価な「1.4 TFSIシリンダーオンデマンド」である。A3セダンで最も手頃な素の「1.4 TFSI」と比べると、車両本体価格は約40万円高い。シリンダーオンデマンド(以下COD)の名がつくとおり、「状況に応じて気筒休止する」のが、素の1.4 TFSIとの最大の違いだが、両モデルの違いは気筒休止にはとどまらない。
まずはエンジン性能が異なる。CODのほうが出力、トルクとも上乗せされており、それにともなって最終減速比もハイギアード化。気筒休止ともあいまって、CODのほうが動力性能が高いのに、燃費は優秀である。また、細部の仕立てもスポーツ寄りになっており、シートやサスペンションはスポーツ仕様、ホイールも大径17インチ、そしてステアリングのシフトパドルも標準装備となる。
あと、ワンタッチで各部を統合制御するアウディドライブセレクトも、A3セダンではCOD以上の上級装備あつかい。可変ダンパーは備わらないから、切り替えても乗り味は“激変”とまではいかないが、高速巡航で随時クラッチを切るコースティング機能が加わるので、燃費にはそれなりに効果はあるのだろう。
キャビン空間は当たり前だが、A3スポーツバックに準じる。室内の余裕はさすがに最新のA4にはおよばないものの、ここ10年ほどの後輪駆動系Dセグメントと大差ない広さはある。身長178cmの私が後席でダラッと脚を組むことはできないけれど、日本人がファミリーカーとして使うのには十二分な広さだ。センターコンソールの後端には、後席用のエアコン吹き出し口もきちんとある。
機敏にして高級な走り
A3セダンのCODはスポーツサスペンションを標準装備することもあって、乗り心地は意外なほど引き締まっている。ロールも抑制されていて、ステアリングレスポンスはけっこうな俊敏系。これはセダンにかぎらずA3に共通する味わいで「ユーザーの平均年齢がより高くなるセダンだから柔らかく……」みたいな差別化はされていない。
だから、A3セダンは乗リ味において同スポーツバックと区別はつきにくく、A3セダンはなんとも試乗記の書きにくいクルマである。しかし、真剣に購入を検討する向きには、だからこそ素直に選びやすくもある。A3シリーズには、車体形状によるメリット/デメリットはほとんどなく、乗り味にもさしたる差はない。生活様式に合わせて欲しいほうを買って、後で悔やむことはないだろう。
ただ、ちがいをあえて指摘するならば静粛性である。ご想像のとおり、走行中のロードノイズなどはセダンのほうが小さい。それぞれ単独で乗っていると気づきにくいが、2台を同時に乗れば、ほとんどの人がなにかしら感じ取れるくらいの差は存在する。
俊敏な水平基調フットワークを意図しているA3は、路面変化によって乗り心地やロードノイズが影響を受けやすいタイプだが、そこそこ整備された高速道路をさっそうと流して走るときのA3セダンは、姿勢がピタリとフラットで室内は静粛そのもの。コースティング機能もあって、高速クルーズでは滑るように静かで滑らか。こうなると、わずかな車体剛性の差も奏功しているのか、ステアリングのタッチもスポーツバックより滑らかで高級に感じられるから不思議だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
知らぬ間にエコ
静粛性といえば、気筒休止についてもそうである。恥ずかしながら、私はこのクルマに乗ってしばらく、このクルマがCODとはツユほども思わなかった。そして編集部S君にこれがCODであると教えられてからも、気筒休止の瞬間を意識することは一度もなかった。こういう仕事をしている人間としては、トホホ……である。
CODのパワートレインは、基本的に「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のそれと共通である。ゴルフの場合は、スロットルオフの減速時や平たん路での巡航などで気筒休止するたびに、メーターパネル内に“2シリンダーモード”の表示が出る。しかし、A3ではその種の表示はない。
ゴルフでメーター情報をヒントに観察すると、気筒休止の瞬間に“コツ”という切り替えのショックがあるような気がしないでもない。ただ、ショックといっても、せいぜいテーブルに空の紙コップを置いた程度……といえばいいだろうか。本当に「気がする」というレベルでしかないのだが、A3セダンのCODでは、視覚情報がなくなるからか、あるいはそもそも静粛性対策のレベルが高いからか、ともかく意地悪に観察しても、私はついぞ気づくことができなかった。すみません。
A3セダンのスリーサイズは4465×1795×1390mm。これはかつて日本でヒットした2~3代目「80」より明らかに大きく、2001年まで現役だった初代A4比でも全長は3cm短いだけで、全幅は逆に大きい。ホイールベースは初代A4より逆に長いくらいだから、室内空間は初代A4より有利である。
さすがにトランク容量だけはDセグメントなみ……とはいわないが、日本の交通事情でこれだけ扱いやすくて、実用性があって、所有欲をそれなりに満たしてくれるセダンはほかにない。なるほど、A3セダンはけっこう貴重な存在であり、勝機は十二分にあるだろう。A3のセダンはスポーツバックに対して、なにか決定的なもの……はないけれど、個人的に「どうせA3を買うならセダンのほうがいいかも」と思ったのも事実である。
(文=佐野弘宗/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
アウディA3セダン 1.4 TFSIシリンダーオンデマンド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4465×1795×1390mm
ホイールベース:2635mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最大出力:140ps(103kW)/4500-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91Y/(後)225/45R17 91Y(ダンロップSP SPORT MAXX RT)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:374万円/テスト車=482万円
オプション装備:ボディーカラー<アイスシルバー>(7万円)/アドバンストキー(22万円)/バング&オルフセン サウンドシステム(11万円)/レザーパッケージ<ミラノ>(29万円)/アダプティブクルーズコントロール(8万円)/MMIナビゲーションシステム(31万円)
※価格はいずれも8%の消費税を含む。
テスト車の走行距離:784km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:208.8km
使用燃料:14.5リッター
参考燃費:14.4km/リッター(満タン法)/14.5km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
フェラーリ849テスタロッサ(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.2.3 フェラーリの新型スーパースポーツ「849テスタロッサ」は、スペシャルモデル「F80」に通じるデザインをまとい、歴史的な車名が与えられている。期待高まる、その走りは? スペインで試乗した西川 淳の第一報。
-
レクサスRZ550e“Fスポーツ”(4WD)【試乗記】 2026.1.31 レクサスの電気自動車「RZ」が大型アップデートを敢行。特に今回連れ出した「RZ550e“Fスポーツ”」は「ステアバイワイヤ」と「インタラクティブマニュアルドライブ」の2大新機軸を採用し、性能とともに個性も強化している。ワインディングロードでの印象を報告する。
-
スズキ・ワゴンR ZL(FF/5MT)【試乗記】 2026.1.28 スズキの「ワゴンR」がマイナーチェンジ。デザインを変更しただけでなく、予防安全装備もアップデート。工場設備を刷新してドライバビリティーまで強化しているというから見逃せない。今や希少な5段MTモデルを試す。
-
スバル・ソルテラET-HS(4WD)【試乗記】 2026.1.27 “マイナーチェンジ”と呼ぶにはいささか大きすぎる改良を受けた、スバルの電気自動車(BEV)「ソルテラ」。試乗を通して、劇的に改善した“BEVとしての性能”に触れていると、あまりに速いクルマの進化がもたらす、さまざまな弊害にも気づかされるのだった。
-
ホンダ・シビック タイプR/ヴェゼルe:HEV RS 純正アクセサリー装着車【試乗記】 2026.1.26 ホンダアクセスが手がける純正パーツを装着した最新ラインナップのなかから、「シビック タイプR」と「ヴェゼルe:HEV RS」に試乗。独自のコンセプトとマニアックなこだわりでつくられたカスタマイズパーツの特徴と、その印象を報告する。
-
NEW
第101回:コンパクトSUV百花繚乱(後編) ―理由は“見た目”だけにあらず! 天下を制した人気者の秘密と課題―
2026.2.4カーデザイン曼荼羅今や世界的にマーケットの主役となっているコンパクトSUV。なかでも日本は、軽にもモデルが存在するほどの“コンパクトSUV天国”だ。ちょっと前までニッチだった存在が、これほどの地位を得た理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
NEW
社長が明言! 三菱自動車が2026年に発売する新型「クロスカントリーSUV」とは?
2026.2.4デイリーコラム三菱自動車が2026年に新型クロスカントリーSUVの導入を明言した。かねてうわさになっている次期型「パジェロ」であることに疑いはないが、まだ見ぬ新型は果たしてどんなクルマになるのだろうか。状況証拠から割り出してみた。 -
NEW
日産エクストレイル ロッククリークe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2026.2.4試乗記「日産エクストレイル」に新たなカスタマイズモデル「ロッククリーク」が登場。専用のボディーカラーや外装パーツが与えられ、いかにもタフに使い倒せそうな雰囲気をまとっているのが特徴だ。高速道路とワインディングロードを中心に400km余りをドライブした。 -
第55回:続・直撃「BYDラッコ」! 背が15cmも高いのに航続距離が「サクラ」&「N-ONE e:」超えってマジか?
2026.2.3小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ2026年の発売に向けて着々と開発が進められている「BYDラッコ」。日本の軽自動車関係者を震え上がらせている中国発の軽スーパーハイト電気自動車だが、ついに大まかな航続可能距離が判明した。「これは事件だ!」ということで小沢コージが開発関係者を再直撃! -
クルマの進化は、ドライバーを幸せにしているか?
2026.2.3あの多田哲哉のクルマQ&A現代のクルマは、運転支援をはじめ、さまざまな電動装備がドライバーをサポートしてくれる。こうした技術的な進化は、ドライバーを幸せにしていると言い切れるだろうか? 元トヨタのチーフエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
フェラーリ849テスタロッサ(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.2.3試乗記フェラーリの新型スーパースポーツ「849テスタロッサ」は、スペシャルモデル「F80」に通じるデザインをまとい、歴史的な車名が与えられている。期待高まる、その走りは? スペインで試乗した西川 淳の第一報。



































