BMW i3 レンジ・エクステンダー装備車(RR)
遠乗りも怖くない 2014.05.13 試乗記 走り、デザイン、生産技術など、さまざまな分野でこれまでのクルマとは一線を画す「BMW i3」。BMWが提案する未来のクルマの、今日における実用性を試した。SF映画に出てきそう
1970年の大阪万博に行った時、まるでタイムスリップしたように感じた。立ち並ぶパビリオンはどう見ても未来の建物で、中に入ると未来のファッションに身を包んだ女の人が未来の製品を紹介していた。BMW i3には、その時と似た驚きがある。エクステリアは、SF映画に出てくるクルマそのものだ。フロントグリルがブルーに縁取られているのは映画『トロン』の意匠に通じるものがあるし、サイドウィンドウの不思議な造形は『スター・トレック』にも出てきそうだ。
最も未来感をかもし出しているのは、リアスタイルだろう。全面がガラスに覆われて黒く鈍い光を放ち、コンビネーションランプが浮き上がって見える。もっさり見えがちな超ショートノーズのプロポーションも、これらのディテールの助けでむしろスタイリッシュに感じられる。ドアを開けようとするとハンドルの動きが普通とは逆になっていて、これも演出なのかと思ってしまった。
インテリアには、別の種類の未来感がある。ドアトリムやダッシュボードを構成するのは、見るからにリサイクルされたものとわかる素材だ。物を無駄にせず再利用する技術はこれからさらに進歩するはずで、人類が生き残るための必須条件になる。それをビジュアルで表現しているのだろう。運転席に座って目に入る光景は、間違いなく未来のものだ。ステアリングホイールの造形やダッシュボードに配されたモニターの浮遊感など、とても現在のものとは感じられない。
しかし、現実にまだ未来は到来していない。この未来カーは、現在の交通状況の中でいかなる性能を持っているのか。
実用性を試すため箱根へ
実用的な性能を確かめるため、目的地に選んだのは箱根である。まずは助手席に乗ってみた。運転するのは、webCG編集部のW女史である。いきなり目覚ましい加速でスタートし、文字通りのけぞった。モーターの力には、ガソリンエンジンとは異質なものがある。編集部の近所を1周して戻ってくると、メーターの示す走行可能距離が95kmから92kmまで減少していた。ガソリンを使った航続距離も、106kmから85kmに下がっている。
箱根までは、約90kmの距離である。はたして電池はもつのか、微妙なところだ。ピュアEV(電気自動車)なら、さすがに箱根を目指すのはためらわれる。しかし、試乗車には発電用のエンジンが付いていた。途中で電池が空っぽになっても、これならなんとか目的地にたどり着くことができるはずだ。
ステアリングコラム右側にあるボタンを押し、小さなレバーでDを選んで発進する。いきなり十分過ぎるトルクが立ち上がり、するするとスピードが上がる。エンジンが付いているとはいえ、駆動力はモーターのみでまかなわれるのだ。ハイブリッドカーのEVモードで最近は珍しくはないけれど、無音で走行する感覚は特別なものだ。エンジンとはいかにガサツなものかと、ついニワカEV信者になってしまう。
i3の特徴は、加速より減速ではっきり感じられる。アクセルペダルを離すと回生ブレーキが急激に働き、みるみるスピードが落ちるのだ。最初は慣れなくて、思ったよりはるかに手前で停車してしまう。しばらくやっているうちに、だんだんコツがつかめてきた。ブレーキペダルを踏まずに正確に止まれるよう、ゲーム感覚で減速を楽しむようになる。停車位置を想定してアクセルオフにするのは結構知的な作業で、うまくいくとうれしくなって笑みがこぼれる。
首都高速道路に乗ってしばらく走り、ふとメーターを見ると走行可能距離が120kmにまで回復していた。どうやら、直前の運転状況から計算して残りの距離を表示するらしい。“内神田の弾丸娘”ことW女史の運転で短い走行可能距離を示していたのが、ドライバーが代わったことでもっと長い距離を走れると判断したのである。
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地元の人でもEVで山道は怖い
高速道路で巡航していると、電池はなかなか減らない。メーターにはモーターの使用状況が常に表示されていて、目盛りが右に振れると電気を使っていることになる。左に振れれば、電池がチャージされている状態だ。乱暴な運転をすれば、下に示される走行可能距離表示はどんどん減っていく。
i3はモーターもエンジンもリアに搭載されていて、いわゆるRRという駆動方式だ。一般に直進性に難があるとされているが、この日乗った限りでは危うさを感じることは一切なかった。よほどの高速でなければ、問題が生じることはなさそうだ。
東名高速道路から小田原厚木道路を走り、一般道へ降りると走行可能距離表示は12kmになっていた。ナビで充電ポイントを探すと、箱根町の役場が近かった。駐車場に行くと、「実証実験中」と書かれた高速充電器が2基置かれている。先客はなかった。操作ガイドに従って電話をかけると、オペレーターが手順を指示してくれた。今のところ、無料で30分充電できる。
コネクターをつないで待っていると、役場の職員の方がやってきた。珍しいクルマがいるので、様子を見にきたようだ。1年ほど前から充電器を設置しているが、利用はあまり伸びていないという。地元の人で電気自動車を所有している人は3、4人しかいないようで、観光客の利用のほうが多い。利用するのは「日産リーフ」が圧倒的に多く、タクシーも来るそうだ。
観光客に「充電すれば山中湖まで走れるか?」などと聞かれることがあるが、答えられない。山道なので電池の減りが激しく、確実なことは言えないのだ。たまに山道でストップし、レッカー車が出動することがあるそうだ。役場でもリーフと「三菱i-MiEV」を2台ずつ持っているが、遠出は怖いという。神奈川県では充電器の設置に力を入れていて、箱根や湘南では積極的に施設を増やしている。EVが普及すれば、電池切れを恐れて観光客が減少するという事態も考えられる。自治体にとっては、モビリティーの変化に対応するための喫緊の課題なのだ。
ターンパイクで激しく電力消費
30分の充電で、走行可能距離は91kmまで回復した。ターンパイクを一気に駆け上ることにする。料金所を出てすぐのきつい登りも、モーターのパワーはものともしない。素晴らしいスタートダッシュを見せ、すぐにでも200km/hぐらいは出そうな感じだ。もちろんそんなスピードを出すわけにはいかないし、心配しなくてもわりとすぐに頭打ちになる。それでも、ほとんど無音でスムーズにコーナーをこなしていくのは新鮮な感覚だ。
終点の大観山に到着すると、メーター表示は残り40kmを示していた。ターンパイクは片道15kmだから、実際の走行距離の3倍近い電力消費である。ピュアEVだったら肝を冷やしたところだ。エンジンを回せばまだ100km以上走れるが、念のためもう一度充電することにした。近くには道の駅箱根峠があり、充電器が設置してあるはずだ。
駐車場に備えられた充電器は、紫色にペイントしてあった。よく見ると、アニメ『エヴァンゲリオン』の初号機が描かれている。箱根はエヴァの舞台である第3新東京市のモデルになっているので、それにちなんでのものらしい。ただ、残念ながらここは普通充電器だった。30分ほど充電したが、32kmまで減っていた走行可能距離は1km回復したにすぎなかった。
i3には走行モード切り替えスイッチが備えられていて、「ECO PRO+」を選ぶと航続距離が伸びる。出力制御をするのはもちろんだが、エアコンまで切ってしまうのでエマージェンシー用の設定だろう。電池切れは覚悟して、しばらく山道を走った。さほど飛ばさなければ回生ブレーキを利用してアクセルのオンオフだけで走れる。スポーティーな走りとは違うかもしれないが、これはこれで面白い。
東京に戻る途中、メーターの表示が残り3kmになったところでエンジンがかかった。運転席にいる限りエンジン音はさほど気にならないが、後席に乗っているとかなりうるさい。せっかくの未来気分が台無しになる。でも、この0.65リッターのエンジンの与える安心感は絶大だ。これなしでは、心穏やかに東京-箱根を往復することはできなかっただろう。
EVの普及が思ったほど進まず、日本でもプラグインハイブリッドカーが注目されている。レンジ・エクステンダー付きのi3もその一種と考えることもできるが、「トヨタ・プリウスPHV」や「三菱アウトランダーPHEV」とは考え方がかなり違う。基本はEVであり、エンジンは電気を作るだけのものだ。シンプルな構成であり、100年以上前の「ローナーポルシェ」直系ともいえる。自動車勃興期のアイデアを洗練させることで、こんなにも未来を感じさせるクルマができあがったのだ。
(文=鈴木真人/写真=河野敦樹)
テスト車のデータ
BMW i3 レンジ・エクステンダー装備車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4010×1775×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1390kg
駆動方式:RR
モーター:交流同期モーター
エンジン:0.65リッター直2 DOHC 8バルブ(発電用)
モーター最高出力:170ps(125kW)
モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)
エンジン最高出力:38ps(28kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:5.7kgm(56Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)155/70R19 84Q/(後)175/60R19 86Q(ブリヂストン・エコピアEP500)
価格:546万円/テスト車=586万4000円
オプション装備:19インチBMW iライト・アロイ・ホイール タービン・スタイリング428(12万円)/フロント・シート・ヒーティング(4万7000円)/LEDヘッド・ライト(10万3000円)/BMWコネクテッド・ドライブ・プレミアム(5万7000円)/メタリック・ペイント(7万7000円)
※価格は、いずれも8%の消費税を含む。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1296km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:381.8km
使用燃料:11.4リッター
参考燃費:33.5km/リッター(満タン法)
参考電力消費率:5.6km/kWh(車載計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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