第241回:タイヤ以外のブリヂストンを探る
ブリヂストン化工品部門発表会リポート
2014.06.06
エディターから一言
ブリヂストンが開催した、同社におけるタイヤ以外の事業に関するメディア向けの事業説明会に参加した。
売り上げの15%を占める「多角化」事業
多くの人にとって、ブリヂストンと聞いてまず思い浮かぶのがタイヤだろう。それ以外の「ブリヂストン」をあげるとすれば、ゴルフやテニスなどのスポーツ用品、あるいは自転車といったところだろうか。中には往年のテレビ番組『ベストヒットUSA』を思い出すという人もいるかもしれない(当時はブリヂストンの一社提供番組で、洋楽の合間にブリヂストンのCMが盛んに流れていました)。
同社の売上高構成比を見ると、タイヤ部門が85%を占めている(2013年度連結事業別売上高構成比)。それ以外の、ブリヂストンが「多角化」と呼ぶ事業は15%だが、そもそも全体の売上高が3.5兆円強と大きいので約2700億円にもなる。
今回の説明会は、この多角化事業のうち「化工品」と呼ばれる分野に関するものだ。
化工品とは一体なんなのか。今回ブリヂストンが紹介したのは、水道管などの「樹脂配管事業」、「ゴムクローラー事業」、ベルトコンベヤー用の「ベルト事業」、油圧機械などに使用される「ホース事業」、「防振ゴム事業」、ウレタンフォームなどの「化成品事業」、太陽電池パネルの「封止材フィルム事業」、免震ゴムの「インフラ事業」の8事業だ。
名称を聞いてなんとなくイメージが浮かぶものもあれば、そうでないものもある。
簡単に説明していくと、樹脂配管とは住宅などの給水用配管部材の事だ。私などは「水道管」と言われると銅管や塩ビ管をイメージしてしまうが、特に建物内の給水管に関しては「ポリブテンパイプ」と呼ばれる、樹脂製の配水管のシェアが伸びてきているという。
固い金属管とは違い、ホースのように柔軟性があるため、あらかじめ施工場所に応じて細かい寸法あわせをする必要がなく、作業時間が約4分の1まで短縮されるそうだ。また熟練職人ではなくても施工が可能なので、コストダウンにもつながるという。
除染作業でも活躍
ゴムクローラーというのは、平たく言うと「ゴムのキャタピラー」である。
ただ、キャタピラーというのは登録商標なのでクローラーと呼んでいる。
ブリヂストンは世界で初めてゴム製のクローラーを開発した企業で、世界シェアの約30%を誇っている。
住宅街の小規模な工事現場などで、このゴムクローラーを装着したショベルカーをよく見かけるが、最近では福島第1原子力発電所事故による放射性物質を除染する作業のために特殊なゴムクローラーを開発し、被災地で活躍している。
このゴムクローラーは、汚染された表土を取り除く「表土はく離・土壌回収機」のために開発されたもので、日本特有の粘土質土壌に対しても高いグリップ力を持つ接地面パターンを特徴としており、厳密な作業の要求される表土回収で、その性能を発揮しているそうだ。
ベルト事業について説明をした担当者は「ベルト販売促進部長」の肩書を持っておられた。一見するとズボンのベルトでも売っている『男はつらいよ』の寅さんみたいな商売かと思ってしまいそうだが、さにあらず。工場などで使用されるベルトコンベヤーのベルトを製造しているのだ。
長いものでは数kmにもおよぶベルトコンベヤーのベルトには、用途に応じてさまざまな種類がある。高温の材料を運ぶための耐熱ベルトや、材料を筒状に包み込んで運ぶパイプベルト、ベルトがローラーを通過する際の「乗り越え抵抗」を抑えた省エネベルトなどなど。
資料用にカタログを頂いたのだが、これがメカニカルでとてもカッコイイ。思わずわが家にもベルトコンベヤーが欲しくなってしまったが、使い道が考えつかないので思いとどまっている。
ショベルカーなどに使用される油圧ホースも、ブリヂストンの得意分野だ。
耐圧ホースは、もともとは自動車のブレーキホースとして作られたのが始まりで、その後は油圧の作業機械やプラント、珍しいところでは古くなった新幹線の塗装を200MPaという超高圧の水を吹き付けてはく離するためのホースなどに使用されている。
免震体験車で実感
防振ゴムはクルマとも大変関わりが深い。エンジンマウントやサスペンションのブッシュなど、クルマのあちこちに防振ゴムが使用されている。
最近では、エンジンを支えるトルクロッドにも樹脂製のものが採用されている。
化成品事業の説明で紹介されたのはウレタンフォームだ。皆さんの中には「ウチのマットレスはブリヂストンだ」という方もおられるかもしれないが、寝具のほかにもハイブリッド車に使用されるバッテリーの電極材などにマットレスと同じような技術が使用されている。
ニッケル水素電池の電極材として使用されているのは、非常にきめの細かい発泡フォームで、発泡セルのサイズを均一にコントロールすることで、電池性能のばらつきを小さくすることができるそうだ。
太陽電池パネルに使用される封止材と呼ばれるフィルムにも、ブリヂストンの技術が採用されている。
太陽電池パネルは、表面のガラスとシリコンの発電セル、裏面のバックシートからなっているが、それらを接着しているのが封止材だ。
太陽光パネルは当然ながら太陽光の当たる屋外に設置されるものなので、紫外線による劣化を防がなければならない。長期間(耐用年数は25年以上)安定した性能を維持するためには、高度な技術が必要とされるのだ。
近い将来発生が予想されている首都直下地震に備え、免震構造のマンションやビルが注目されているが、ここにもゴムが使用されている。
説明会が行われた会場には、免震構造の建物の揺れを体験できる「免震体験車」が用意されていて私も体験させてもらった。
体験したのは、東日本大震災の地震で、仙台市にある14階建てマンションの8階をシミュレートした揺れだ。耐震構造マンションを想定した揺れでは、バーにつかまっていないと座っている椅子ごと放り出されてしまいそうなほどの強い揺れだったが、免震構造マンションを想定した揺れは、振幅は大きいもののゆっくりとしているので安心していられる。
この免震ゴムは、既存の建物に後から設置する技術も開発されており、歴史的価値のある建造物の耐震補強として採用されているそうだ。
このように、ブリヂストンはさまざまな分野で独自の技術を使った商品を世界に送り出している。当初は「意外だな」と感じたが、足袋の製造から世界シェアトップのタイヤメーカーを起こした創業者石橋正二郎の精神を受け継いでいると考えれば、意外でもなんでもなく、ごく当然のことなのかもしれない。
(工藤考浩)

工藤 考浩
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