ボルボS60ポールスター(4WD/6AT)/V60ポールスター(4WD/6AT)
速さと洗練と 2014.07.03 試乗記 ボルボとそのレースパートナーであるポールスターが共同開発した「S60/V60ポールスター」。サーキットで培われた技術が注がれたハイパフォーマンスボルボを、本国スウェーデンで試した。ボルボ-ポールスター初のコンプリートカー
フライングブリック=空飛ぶレンガの異名を取った、かつてのグループAレーシングカーである「ボルボ240ターボ」か、あるいはクリームイエローのボディーカラーも鮮烈に限定車として登場するや否や大人気となり、まさに一世を風靡(ふうび)した「850 T-5R」か、とにかくボルボに“速いハコ”的なイメージを抱いている人にとっては、最近のボルボ車のラインナップ、あるいはちょっと物足りなくも感じていたんじゃないだろうか。
そんな人たちには、まさに待望のプレゼントとなりそうな一台に、スウェーデンにて試乗してきた。そのクルマこそ、「ボルボS60/V60ポールスター」である。
ポールスターという名前自体は、ディーラーで購入できるECUチューンナップキットであるポールスター・パフォーマンス・パッケージにて、すでにおなじみだろう。実は彼らの本籍はモータースポーツシーンにある。「850エステート」で参戦して度肝を抜いた90年代のイギリス・ツーリングカー選手権に関わったのを皮切りに、一貫してボルボでレース活動を続けて今に至っているのだ。
そんな背景からすれば、クルマの外観は地味にすら見えるかもしれない。ベース車との違いはフェンダーいっぱいに収められた専用開発の20インチホイールとタイヤに前後のエアロパーツぐらい。ただし、特に後者は見た目は地味でもボルボの風洞にて開発され、ノーマルのゼロリフトに対して、最高速域ではダウンフォースを生み出すよう設計されているという。
インテリアもスパルタンではなく、むしろブラックのレザーにブルーのステッチが利いたスポーティーかつ上質な仕立てとされている。しかしながらいざ走らせてみると、これが想像以上のドライビングプレジャーで大いにうならせてくれたのだ。
より力強く、より爽快に
まず何より爽快なのが、そのエンジンである。直列6気筒3リッターターボのT6ユニットは、大容量のターボチャージャーやインタークーラーの採用、そしてECUのリセッティングなどにより最高出力350psを発生する。それだけ見る限りはこちらも目を見張るほどではないが、一方で最大トルクは3000~4750rpmの広範囲で51.0kgm(500Nm)を得ている。
おかげで全域、とにかくピックアップが良く、右足の動きに即応するレスポンスを得ることができ、しかもタービン交換が効いているのであろう、回すほどにパワーが高まっていく快感まで同時に味わうことができる。しかも、そこにストレート6らしい回転上昇とともに芯が出てくるような滑らかさ、ステンレス製エキゾーストによる野太いサウンドまでもが加わるのだから、これで気分が高ぶらないドライバーなんていないだろう。
しかもシフトパドル付きの6段ATも、スポーツモードでは高回転域をキープするだけでなく変速が素早くなり、コーナーでのシフトアップを抑制するなど制御に手が加えられている。このエンジンのうまみを堪能し尽くせるよう、ここでも配慮されているのである。
こんな風に加速も気持ち良いが、S60/V60ポールスターは減速もまた快感だ。フロントにブレンボ製キャリパーをおごるだけでなく、それに合わせてマスターシリンダー容量まで変えるなど細部までキッチリとセットアップされたブレーキは、単に制動力が高いだけでなく、まさに真綿で締め付けるかのようなタッチを実現している。減速するだけで、作り手の顔が浮かんでくるような秀逸なブレーキなのだ。
速さにしなやかさが同居する
一方のシャシーも、やはりサーキットだけを意識したようなセッティングとはされていない。それでもスプリングレートはフロントが90%、リアが70%も硬くされてはいるのだが、オーリンズ製ダンパー、強化されたスタビライザーやブッシュ類とのマッチングは上々で、姿勢変化を最小限に抑える締め上げられた感触と、あらゆる入力をしなやかに受け止める懐深さが同居した、実に心地良い乗り心地を実現している。
ペースを上げるほどにフラット感が高まり、しかもそんな時に路面の大きなうねりに遭遇してもタイヤを決して路面から離すことのない接地感を実現していて、とにかく安心してアクセルを踏んでいける。市販モデルではあまりないタイプの、誤解を恐れず言えば極上のチューンドモデルでしか味わったことのないこのフィーリング、個人的にものすごく気に入った。
しかもESCをオフにすれば4WDの制御まで変更され、具体的には後輪へのトルク配分が増やされる。発進時、コーナリング中には前後トルク配分が50:50とされ、条件によってはさらに後輪にトルクが寄せられるのだ。まさに踏むほどにニュートラルステアに近づいていくかのようなコーナリングは、いわゆるFFベースのそれとは思えないほど。サーキットだけを意識したようなものではないとは書いたが、STCC(スカンジナビアン・ツーリングカー選手権)が開催されているサーキットでの試乗でも、十分に楽しむことができた。
久々に登場するハイパフォーマンスボルボは、単に動力性能が底上げされているだけでなく、きわめて質の高い速さを楽しませてくれる珠玉の一台に仕上がっていた。すでに発表されている通り、日本での価格はS60が799万円、V60が819万円。ベース車の価格と、そのプラスされた内容を考えれば、これぞまさしくバーゲンと言うべきだろう。
問題は導入台数である。何しろS60が30台、V60が60台のたった90台しか日本には上陸しないのだ。もともと世界限定750台だけに仕方がないとはいえ、これでは争奪戦は必至だろう。ピンと来た方は、早めに問い合わせた方が良さそうである。
(文=島下泰久/写真=ボルボ)
テスト車のデータ
ボルボS60ポールスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:350ps(258kW)/5250rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/3000-4750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)245/35ZR20
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:799万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元と価格は日本仕様のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
ボルボV60ポールスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:350ps(258kW)/5250rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/3000-4750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)245/35ZR20
燃費:9.6km/リッター(JC08モード)
価格:819万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元と価格は日本仕様のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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