三菱デリカD:3 G(FF/4AT)【試乗記】
懐かしさと、誇らしさと、力強さと 2011.12.06 試乗記 三菱デリカD:3 G(FF/4AT)……203万7000円
日産からOEM供給を受けて登場した、三菱の5ナンバーサイズミニバン「デリカD:3」。商用車ベースのミニバンに試乗し、あらためて気づいたこととは。
一昔前の運転感覚がよみがえる
高い座面に姿勢よく座り、ちょっと下めにあるシャフトが立ち気味のステアリングホイールを抱え込むようにして操舵(そうだ)する。最近じゃ、こんなドラポジのクルマは珍しい。一昔前の運転感覚がよみがえってきて、なんだかうれしくなる。ペダル操作だって、上から踏みつける感じだ。4段ATは、オートマチックトランスミッションらしさを存分に発揮し、変速の瞬間を明確にドライバーに伝えてくる。
「三菱デリカ D:3」は、少しばかり懐かしい気分を与えてくれる。その正体は、「日産NV200」だ。「スズキ・ソリオ」を「デリカD:2」に仕立てたのに続き、OEMで「Dライン」の充実を図っている。ミニバンの三菱オリジナルは「デリカD:5」だけということになる。三菱車はすでに日産から販売されているし、スズキに対しても「ミニキャブ・ミーブ」を提供することが決まっているから、持ちつ持たれつというわけだ。
D:2は元ネタとエンブレムしか違わなかったが、D:3はグリルの形も変えている。それでも、出自をできるだけわからなくしようとする日産のOEM流儀とは逆に、外見をいじろうという意欲はあまりないようだ。
NV200といえば、ニューヨークのイエローキャブに採用されたことで話題になった。2013年から、独占的にタクシー車両として供給されることになる。この形のクルマが黄色に塗られて、ニューヨーク中を走りまわるのだ。街の景観も一変するはずだ。コンペで競い合ったほかの2台はヒンジドアだったので、スライド式を採用しているこのクルマにアドバンテージがあったのだろう。ほかにもユーティリティーや燃費性能などでライバルを上回り、次世代タクシーに選定されたのだ。日本車の実力を見せつけた、誇らしい結果である。
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商用車ベースならではの魅力
D:3には5人乗りと7人乗りの仕様があり、今回試乗したのは7人乗りバージョンだ。1.6リッター直4エンジンと4段ATの組み合わせは、どちらも同じである。このほかに、商用車バージョンの「デリカバン」もある。しばしレトロな運転感覚を楽しんでいたのだが、時間がたつにつれ飽きてきた。ミニバンも乗用車同様に運転できるのが当たり前になって久しいので、カラダがすっかりナマクラになっている。
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ステアリングを切ってからクルマが曲がりだすまでしばらく間があったり、段差を越えるとクルマごと揺さぶられる感じがするのが気になってきた。少し前はミニバンではそれがふつうのことだった。しかし因果なもので、いったん楽をするとそれに慣れてしまい、もとには戻れない。
ただ、このクルマは元来商用車である。大量の荷物を積み、しっかり走って頑丈で壊れない、それが優先事項である。視点を変えてみると、魅力が見えてくるのだ。5ナンバーサイズにもかかわらず、荷室の広さは十分以上だ。床も低いので、積み下ろしも楽だろう。2列目シートを前に倒し、3列目を横に跳ね上げると広大な空間が現れる。植木や自転車だって平気で積み込める。ただし、その作業はちょっとした力仕事だ。フックを外し、シートを持ち上げて固定する工程はすべて地道に手で行わなくてはならない。ネイルを飾ったお嬢さんには向かないだろう。
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高速道路で動力性能の不足を感じることはない。風切り音が多少気になるものの、クルーズは快適だ。追い越しをかけるときなどは、オーバードライブをオフにしてシフトダウンを促してやると力強い加速が得られる。こんな運転法も、しばらくぶりだ。パドルがなくたって、マニュアル操作はできる。
山道に入れば、2速3速を選びながらコーナーをこなしていく。商用車モデルにはマニュアルトランスミッションが用意されていて、それならば運転はもっと楽しそうだ。思ったよりロールは少なく、コーナーでスピードを出しすぎるとアップライトな姿勢のままカラダが横移動していく感じだ。シートのホールド性はさすがに高くはない。
もちろん、やたらに飛ばそうという気にはならないので、のんびり行くのがいい。窓を開け放ったほうが気分が出る。2列目にはかわいらしい意匠のスライドウィンドウがあり、開けておくと風が通っていく。
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レトロな中に今どきの装備も
レトロ感覚ばかりかと思いきや、今どきの装備だってちゃんと付いている。メーター内にはマルチインフォメーションディスプレイがあり、エンジン回転数や瞬間燃費、平均燃費などが表示されるのだ。ただ、表示切り替えはメーターパネル内にあるスイッチで操作しなければならず、ステアリングホイールのスポークの間から手を入れることになる。走行中に切り替えるのは少々面倒だ。
このメーターで見たところ、燃費は高速道路でリッター13kmほど、山道ではリッター9kmほどだった。高速道路6割で約400km走り、満タン法ではリッター10.5kmという数字になった。10・15モードでリッター12.8kmだから、歩留まりは悪くない。しかも、運転の仕方に問題があったことが、後で判明した。
実は今回乗ったクルマにはやたらに高性能なナビシステムが装着されていて、運転の仕方を常時監視していたのである。「エコ情報」という項目を見ると、「不適切なアクセル操作」を行った場所と時間が一覧で表示された。100回分を記録できるのだが、見てみると1日でそのすべてを使いきってしまっていたのだ。発進時の加速に満足がいかず、ついアクセルを踏み込んでいたのである。いや、言い訳はよそう。実際の燃費はもっといいはずである。
そんなわけで、D:3はレトロと最新が混在して不思議な感覚をもたらすクルマだった。ほとんど乗用車感覚で乗れるミニバンが増えている中、特異な存在とは言えるだろう。ただ、同じDの名を冠するD:2とはまったく性格が異なる。片や「スズキ・スイフト」の足まわりを受け継ぐモデルであり、こちらは後ろ足がリーフリジッドの質実剛健を旨とする商用車がベースだ。OEMなのだから、仕方がないのだというのはわかる。それでも、名前を統一するのならテイストの面でも何らかの共通点を作り出してほしいと思ってしまうのだ。
(文=鈴木真人/写真=峰昌宏)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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