レクサスRC350“Fスポーツ”(FR/8AT)/RC F(FR/8AT)
「走り」のためのレクサス 2014.09.15 試乗記 レクサスのスポーツイメージをけん引する新型クーペ「RC」シリーズ。その実力を、公道とサーキットの両方で試した。単なるスペシャリティーカーではない
「日産GT-R」が登場したのが2007年の冬――と聞けば、いやはや時がたつのは早いものだと思う。ということは、GT-Rのデビューに若干だけ先んじた「レクサスIS F」の登場からは、ちょうど7年が経過したわけだ。
その頃のことを思い出すと、とにもかくにもちまたの話題はGT-Rがかっさらい、衆目はそっちにくぎ付け。半ばおミソ扱いのIS Fはうるさ型からフロアの剛性不足やリアサスの動きの渋さを指摘され……と、その待遇の差は歴然。ほぼ同額にして、あまたのスーパーカーをねじ伏せるパフォーマンスを喧伝(けんでん)されれば無理もない気はするも、レクサスがAMGやMの牙城に食い込むというイメージが湧かないというのもまた、傍観する側の正直な心情でもあった。
が、IS FはGT-Rがそうであったように地道に進化を重ね、年次ごとにネガを確実につぶしていった。掘り下げるなら、GT-Rがニュルのレコードブレーカーとしての進化にこだわりすぎての局所的な改良が目立ったのに対して、IS Fは誰もが毎日快適に扱えて、サーキットも安心して走ることができるという大局的な改良が貫かれたという印象だ。
ISのフルモデルチェンジに伴い、その去就が注目されてきたIS Fは、この7月にラインオフした車両をもって生産を終了している。秘匿性もこの手のモデルには大事な要素……ということに配慮してか、モデルライフにおいて若干の意匠変更を受けただけで、始終知る人ぞ知る的な存在感を貫いたが、後年のその中身は同時期の「メルセデス・ベンツC63 AMG」や「BMW M3」を向こうに回しても立派に対峙(たいじ)できるものだった。全年式を試乗した僕に言わせれば、IS Fこそレクサス、いや、あらかたのトヨタ車の中でもダントツで練度の高い一台だったと思う。
「SC」の販売終了以降、レクサスのカタログモデルにおいて純然たる2ドアスペシャリティーのカテゴリーは長らく空席となっていた。そこに新たに収まるモデルが「RC」となる。そして、このRCをベースに構築されるのがIS Fに続く新しいF、つまり「RC F」だ。その名は既にSUPER GT選手権の競技車両にも使われている……ことからもお分かりの通り、レクサスとしてはRCを単なるスペシャリティーモデルで終わらせるのではなく、モータースポーツ側との「クロスポイント(Cross Point=鉄道の分岐器)」として考えているようだ。それを裏付けるように、今後RC Fをベースに、ナンバー付きのクラブスポーツパッケージやFIA-GT3レギュレーションに則したレーシングカーなどの販売が企画されているという。そのエンジニアリングはIS Fと同じく、TRDが担当することになるはずだ。
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プラットフォームはほぼ専用開発
ともあれ、まずは基準車たるRCの構成を振り返ろう。基本グレードは「350」と「300h」の2つ。そのパワートレインは350がシリンダー内と吸気ポートの2カ所にインジェクターを設ける2GR−FSE型3.5リッターV6、そして300hが2AR-FSE型2.5リッター直4ユニットと2モーターのハイブリッドという組み合わせだ。この2体系におのおの「バージョンL」や「Fスポーツ」といった趣向の異なるトリムラインが用意される。バージョンLを含めた標準ラインとFスポーツとは、グリルや前後バンパーまわりなど、意匠が微細に異なるのはレクサスの他のラインナップと同様だ。
車台はエンコン(エンジンコンパートメント)を含めたフロントまわりに「GS」、リアセクションにIS、そして中央部には、ロッカー断面積がISの2倍近くと、十分な強度が確保できる「IS C」のそれを用いた混成型となっている。が、もちろんそれらはフォルクスワーゲンのMQB(モジュラー・トランスバース・マトリックス)よろしくブロックのように組み立てられるものではない。実際はRCのために専用開発されたものと考えるべきだろう。そのフロアに構築されるモノコックボディーは、レーザースクリューウェルディング溶接やスポットの増し打ち、構造用接着剤の多用のみならず、ガラス用接着剤にも高結合型のものを用いるなど、ボディー剛性の向上に生産技術の側からもさまざまな手が尽くされている。
インテリアデザインはダッシュボードの骨格こそISと同様ながら、トリムやフィニッシュの類いはRC用に吟味されたもの。ドアトリムにはアンビエントライトが仕込まれるなど、独自の演出も加えられた。シートは発泡時に表皮を型内で一体化させた新製法のものを用い、低いドライビングポジションにも違和感なくフィットするものとなっている。また、リモートタッチはピンチにも対応するトラックパッド型に変更。オプションのマークレビンソンオーディオシステムには、MP3などの圧縮音源を最大限に補正するプログラムが導入されるなど、今日的なニーズに対して最善のものを提供する配慮が加えられている。
一般道もクローズドコースも走れるという好条件の中でのRCの試乗だったが、今回は量産試作の最終段階ということもあり、供されたのはV6を搭載する350のみ。グレードは最もスポーティーなFスポーツだった。
ドイツ御三家にも引けを取らない剛性感
試乗会場となったニューヨーク郊外からサーキットへと向かうフリーウェイは、いかにもアメリカのそれらしくコンクリート混じりの粗い舗装路で、ところどころにひび割れやくぼみの補修痕が見受けられるなど、騒音や振動に対しては相当シビアなコンディションだ。その路面を、RCはスタンスタンと軽快にいなしながら走り抜ける。
なにより、GSともISとも違うのは、サッシュレスでありながら塊感を保つボディー剛性だろうか。ピッチングの伸び側の動きが大きいことに加え、左右にも微細に揺すられるなど、上屋の動きにはレクサスの癖が若干認められるものの、その量は確実に減少している。この辺りは、車体側の減衰を考慮してサスペンションとの親和性を高め、いわゆる「いなし」を確保することでさらに得られるところがあるように思うが、レクサスは現状、ボディーは徹底的に固めてサスをしっかり動かすセットアップの方針を採っている。よって、この推移はしばらく見届けたいところだ。ともあれ、骨格から得られるカチッとしたフィールは、ドイツのプレミアム御三家と比べてもまったく見劣りがない。
一方で、低速域ではこの硬質感がそれほど強く顔を出さず、アクセル開度に対するパワーデリバリーも穏やかで……と、Dセグメントのクーペにしてはかなりゆったりとした性格もうかがえる。音のふさぎ込みにもスキがなく、快適性においてはSCに類するラグジュアリーモデルとして恥じないものを持っているといえるだろう。不満らしい不満といえば、足まわりからのフィードバックに対するパワーステアリングのセットアップが軽めで、結果として直進時の安定感、ズドンと据わる感覚に乏しいことだが、この修正はさほど難しいことではない。
「こういう使い方は前提としない類いのクルマだろう」と思いつつ臨んだサーキット走行でも、Fスポーツは望外のパフォーマンスをみせてくれた。一般道で得られた、これまでのレクサス銘柄とは一線を画する強烈な剛性感、そこからくる確度の高い応答性は、そのままレーシングスピードにおいても操る楽しさをもたらしてくれる。Fスポーツに採用される四輪操舵(そうだ)システム「LDH」は、強引に回頭性を高めるのではなく、アクセルペダルを積極的に踏んで曲げるというFRらしいドライビングでも、あくまで自然なアシストに終始。また200km/h近い速度からのフルブレーキングを繰り返しても、18インチ2ピースに大容量化されたブレーキのコントロール性や耐フェード性に、不安を抱くことはなかった。
電子制御で幅広いスキルのドライバーに対応
基本的にはパッケージバランスの良さを生かした軽快なコントロール性が芸風の350“Fスポーツ”に対して、こちらはサーキットのみで試乗したRC Fは、明らかに一段骨太な印象だった。これは車重や重量配分というよりむしろ、ステアリングをはじめとするインターフェイスが重めに設(しつら)えられている点、また、477psまで高められたパワーに対して適切なタイヤサイズがあしらわれた点などからくるもので、流す程度の走りでは常に手のひらに重厚感がまとわりつく。IS Fの延長上にあるそのタッチが、持てる動力性能がそうやすやすと扱えるものではないことを、常に乗り手に意識させる。
サーキット走行を前提に、ダウンフォースと冷却の両方を満足いくものに仕立てたというエアロダイナミクスは、さすがにGT-Rほどあからさまな効果は感じられない。もとよりメカニカルグリップには長(た)けており、スタビリティーは十分に確保されている。
電子制御によるボディーコントロールはRC Fの大きく進化したポイントといえる。スロットルや変速マネジメントなどを走行状態に合わせて最適化する「VDIM」には、サーキット走行を前提としたスポーツプラスモードが設けられたほか、さらにスピン寸前まで車両の挙動を許すエキスパートモードを搭載。オプションで用意されるトルクベクタリングデフは、ブレーキを用いるタイプではなく、アクチュエーターによって左右後輪の差動をアクティブにコントロールするもので、VDIMの設定に自動で協調するだけでなく、その差動量を任意で3段階にコントロールすることもできる。また、スポーツモードでのAT走行時は常に最適なギア段数を自動で保持するほか、ABSは車体がジャンプした際の荷重抜けを上下Gセンサーで判定、コントロールを最適化するなど、ドライバーの幅広いスキルに対応する制御が盛り込まれている。
これらの機能は、最終的にニュルブルクリンクでの走り込みによってチューニングされるものの、あくまで速く楽しく走るためのもの。それも含め、レクサスはRCについて「タイム競争に縛られるつもりはない」としており、そこでのラップタイムを公表しない方針だという。
今や希少な大排気量NAエンジンの魅力
サーキットでの反応をみるに、これらの電子制御があくまで黒子に徹していることは明らかだ。各デバイスの設定がどうなっているにせよ、RC Fはその挙動に違和感を抱かせない。ともすれば、ドライバーが何をしたやらわからないうちにクルマが曲がっていた、という類いのものに陥りそうなところを、努めてリニアな反応になるよう調律したことが伝わってくる。先述の重厚感も手伝って、最初はもっさりした印象を抱くかもしれないが、曲がってみれば気だるさはみじんもない。観察すればそれは、切り込むほどにしっかり曲がり、踏み込むほどにきっちり止まるという良識的なセットアップに収められていることがわかるだろう。
なにより、ライバルに対してのRC Fの大きな武器は、回り抜ける、吹け切る感覚をドラマチックに伝える自然吸気エンジンにある。
もちろんアクセル操作に対するレスポンスにも文句はない。部品のほとんどを刷新したという新しいエンジンは、IS Fに対してパワーだけでなくフィーリングの面でも明らかにキレを増している。今やこの手のモデルではぜいたくなものになりつつあるそれをRC Fが使えるのは、世界中で売れる「トヨタ・プリウス」がCO2排出のクレジットをしっかり稼いでくれているおかげだろう。絶対的なパフォーマンスはもちろん、趣味性という点においてもRC Fは貴重な存在といえそうだ。
IS Fの勘どころが余すことなく、いや、磨きをかけてRC Fへと受け継がれたことは疑いようがない。クーペというパッケージは確実にユーザーを限定することになるが、走りのために骨格から最適化をはかったRCだからこそ、得られる世界というものもある。レクサスのスポーツイメージをけん引する存在というRCの立ち位置には当初違和感を覚えたが、試乗を終えた今はそれもすっかり氷解した。これは間違いなく現在のレクサス、いや、トヨタを代表するスポーツモデルである。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
レクサスRC350“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1840×1395mm
ホイールベース:2730mm
車重:--
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:318ps(234kW)/6400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4800rpm
タイヤ:--
燃費:--
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は参考値、いずれも「RC350」のもの
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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レクサスRC F
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4705×1850×1390mm
ホイールベース:2730mm
車重:--
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:477ps(351kW)/7100rpm
最大トルク:54.0kgm(530Nm)/4800-5600rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19/(後)275/35ZR19
燃費:--
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は参考値
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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