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第385回:「ドゥカティ」で配達するけどポストは底なし!?
これがイタリア郵便だ!

2015.02.13 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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最新・郵便配達車

イタリアで郵便事業を行う「ポステ・イタリアーネ」社は、2012年に「ドゥカティ」を配達用に導入した。といっても、「モンスター」に代表されるあのスタイリッシュなバイクを使っているわけではない。ドゥカティはドゥカティでも、別のDucatiである。

1935年にボローニャ郊外ボルゴ・パニガーレにラジオ製造会社を興したドゥカティ兄弟は、第2次大戦後の1946年に原付きニ輪「クッチョロ」でバイク事業に乗り出す。やがて1953年、電子部品部門とニ輪部門の分社化で、前者は「ドゥカティ・エレットロニカ」という企業になった。後年「ドゥカティ・エネルジア」と名前を変えた同社は、現在もコンデンサーのほか、高速道路の料金所ゲートシステムなど、さまざまな製品を手がけている。

ポステ・イタリアーネが採用した「ドゥカティ」とは、このドゥカティ・エネルジアが製造している四輪EV「シティーダック」である。欧州連合(EU)の環境対策郵便車普及プロジェクトに基づき導入された。出力2.2kW、最高速度は45km/hで、イタリアでは原付き免許で乗れる通称「無免許カー」のカテゴリーに入る。

多くのイタリア旧市街において郵便配達は、バイクではキャパシティー不足、かといってひと足先にリースで導入されてきた「フィアット・パンダ」ではサイズ的に持て余していた。そうした中、このドゥカティ製EVは、経緯が“お上主導”とはいえ、それなりに利用価値がある。

【写真1】ドゥカティ・エネルジア社の四輪EV「マイクロダック」郵便配達車。
【写真1】ドゥカティ・エネルジア社の四輪EV「マイクロダック」郵便配達車。 拡大
【写真2】駆動は、左右後輪に内蔵されたインホイールモーターで行う。フェンダーの上には、郵便物の収納ボックスが据え付けられている。
【写真2】駆動は、左右後輪に内蔵されたインホイールモーターで行う。フェンダーの上には、郵便物の収納ボックスが据え付けられている。 拡大

イタリアの郵便会社

ここからは、そのポステ・イタリアーネについて記そう。同社は1990年代に株式会社化されているが、今日もイタリア経済省が株式を保有していて、いまだ「国のもの」といってよい。日本同様にグループ会社を通じて、保険や金融業務なども行っている。
1998年からは、現代イタリアを代表する工業デザイナーのひとり、ミケーレ・デルッキ氏をデザインコンサルタントに据え、郵便局から輸送車両までCIの刷新を図った。

一般サービスに関して言えば、土曜日の配達は一部の書留などを除いて、すでに廃止されている。にもかかわらず、郵便料金の値上げはたびたび行われてきた。現在イタリアから日本まで20gまでの航空郵便は2.3ユーロ(約300円)だ。隣国フランスから日本へ投函(とうかん)した場合(1.2ユーロ)の2倍以上である。

ポステ・イタリアーネは国の“財布代わり”であることもたしかだ。記憶に新しいところでは2013年にアリタリア航空が深刻な経営危機に陥った際――最終的には、アラブ首長国連邦のエティハド航空がアリタリア株の49%を取得して一件落着したが――ポステ・イタリアーネが救済のための増資引受先として浮上した。

【写真3】フィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅にて。残念ながら大都市のポストは、落書きする者にとって格好の餌食である。
【写真3】フィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅にて。残念ながら大都市のポストは、落書きする者にとって格好の餌食である。 拡大
【写真4】ポストに貼られた、クルマ売りたしのゲリラ張り紙。国民投票のステッカーも。シエナで。
【写真4】ポストに貼られた、クルマ売りたしのゲリラ張り紙。国民投票のステッカーも。シエナで。 拡大

郵便にまつわる話あれこれ

まじめな話が続いてしまったので、ここからはボクが近ごろ発見したイタリア郵便にまつわる泣き笑いを紹介しよう。
【写真5】は、窓付き封筒に入っていた便箋の宛名である。いうまでもなく、ボクのアルファベット表記は「OYA」だ。たとえ「AYO」と間違ってタイプされていても、「それっぽい外国人名」として、配達員はさほど気にすることなく届けてしまったのであろう。イタリア人にあまりなじみのない「Y」の字がエキゾチック感を醸し出したのか、いやアジア人ということで、ブルース・リーの「アチョー! アヨー!」といったエキサイティングボイスを連想したのか、などと勝手に想像を膨らませて楽しんでしまった。

次の【写真6】は、ボクが住むシエナ市内の郵便局での光景だ。「21世紀に入って、ようやくイタリアでも、切手の自動販売機が導入されたか」と思いきや、実際はエスプレッソコーヒーの販売機だった。
この国で郵便局といえば、行列ができる場所の代名詞でもある。「イタリア人に欠かせないコーヒーを飲ませるという、子供だましの手を使わず、列が解消するように窓口業務の効率をカイゼンせよ」と目くじらをたてることもできる。たとえ機械の性能は良くてもメンテナンスが追いつかない=大抵すぐに壊れておしまいとなる自販機事情も心配だ。だが、一杯60セント(約70円)は一般の販売機よりも安めだし、粋な計らいとして評価しよう。

【写真7】は、トスカーナ州内のとあるショッピングモール内に開設された郵便局前で撮影したポストである。よく見ると、キャスターが付いている。業務時間外にしまうためのアイデアだ。とかく物騒なイメージがつきまとうイタリアで、ともすれば持って行かれてしまいそうな滑車付きポストが存在するところに安らぎを感じざるを得ない。

【写真5】ボク、「アヨー」じゃなんですが。
【写真5】ボク、「アヨー」じゃなんですが。 拡大
【写真6】シエナの郵便局内に設置されたエスプレッソコーヒー販売機。一応フロントパネルは、ポステ・イタリアーネのCIカラーで彩られている。
【写真6】シエナの郵便局内に設置されたエスプレッソコーヒー販売機。一応フロントパネルは、ポステ・イタリアーネのCIカラーで彩られている。 拡大
【写真7】トスカーナ州内の某ショッピングモールで。キャスターの付いた郵便ポスト。
【写真7】トスカーナ州内の某ショッピングモールで。キャスターの付いた郵便ポスト。 拡大

「どっきりカメラ」かと思った

しかしながらボクがイタリア在住以来、最も衝撃的だったポストは、次に紹介するものである。2014年夏のことだ。ボクが封筒を投函口【写真8】に入れると、虫の知らせとでも言おうか、なにかイヤな感じがした。下を見ると、郵便物がポストの下に散乱しているではないか【写真9】。さらに周囲を見ると、先ほどボクが入れた封筒も、下に落ちてきた。
念のため、もう一度試してみたが、封筒は再び下からひらひらと落ちてきた。ポストを下からのぞいて、あらびっくり。集荷のとき開閉する底ぶたのロックが壊れて、開きっぱなしになっていた。これでは封筒が落ちてくるわけだ。

子供時代を過ごした1970年代に日本でテレビを見て育ったボクとしては、赤ヘルメットをかぶり、「元祖どっきりカメラ」と書いたプラカードを掲げた野呂啓介がその時点で現れるのではないか? と、思わず周囲を見回してしまった。
冷静になってよく見ると、ポストの前面には「ポストは壊れています。投函しないでください。ご迷惑をおかけします」の張り紙があった。おいおい、どうせ貼るなら、投函口をふさぐように貼れば、誰も差し入れないだろうに。みんな「底なしポスト」だとは思わないから、投函しただけで去って行ってしまったに違いない。

航空会社を救済するくらいなら、ちまたのポストをちゃんとしてくれ! と怒りつつも、想像をはるかに超越した事象に、無気力な笑いがこみ上げてしまった夏の日であった。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

【写真8】ある夏の日、何の変哲もない投函口。ちなみに左が市内用、右は市外用。
【写真8】ある夏の日、何の変哲もない投函口。ちなみに左が市内用、右は市外用。 拡大
【写真9】ところがポストの下には、いくつもの封筒が散乱していた。
【写真9】ところがポストの下には、いくつもの封筒が散乱していた。 拡大
【写真10】まったく人が気付かない場所に、「投函しないでください」の張り紙が。実は「底なしポスト」だった! 
【写真10】まったく人が気付かない場所に、「投函しないでください」の張り紙が。実は「底なしポスト」だった!  拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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