ホンダS660 β(MR/6MT)/ホンダS660 α(MR/CVT)
隔世の感あり 2015.03.30 試乗記 これは2代目「ビート」にあらず。ホンダが満を持して投入した軽規格のミドシップスポーツカー「S660」の実力を、サーキットで試した。若手開発責任者の挑戦
軽のミドシップのオープン2シーターというスペックを聞いただけで、24年前、筆者は写真すら見たことがないホンダ・ビートを注文した。そのビートが発売された91年に2歳だったという若きホンダマンがまとめたのがS660である。
主査にあたるLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)の椋本 陵(むくもと りょう)さん。26歳。2010年6月に開かれた本田技術研究所の新商品提案企画コンテストで、彼の出した「軽のスポーツカー」のアイデアが所員投票によるグランプリに選ばれる。そのままLPLを仰せつかったのが翌年の2月。高校を出て、ホンダに入り、毎日、クレイモデルの粘土を削っていたモデラーの大抜てきである。
なにしろ、お父さん世代のクルマなので、ビートの新型をつくったつもりはまったくないと椋本LPLは言った。ビートは手動ソフトトップのフルオープンだったが、S660はリアウィンドウを持つタルガトップである。オープンボディーありきではなく、理想のスポーツカーをつくろうとしたら、行きつくところがこのカタチだったという。
正式発表の1カ月前、熊本製作所内にあるサーキット「HSR九州」で、S660に試乗した。開発チームの意向はどうあれ、「息子世代のつくった2代目ビート」の仕上がりやいかに、というのが筆者の個人的興味だった。
走り以外は割り切っている
白日の下で初めて見るS660は、カッコよかった。「660cc以下」の排気量は変わっていないが、98年のボディー規格拡大で、ビートより長さで10cm、幅で8cmの余裕が出た。ビートに感じた肩幅の狭さがないのがカッコよさの源泉だ。
新たな安全基準、歩行者頭部保護性能試験をクリアするために、「ダイハツ・コペン」はボンネットの位置が高い。「マツダ・ロードスター」は衝突時にフードを跳ね上げるアクティブボンネット採用というソリューションをとった。なのに、S660のノーズはフツーに低い。「ミドシップだからですよ」とボディー設計の担当者が教えてくれた。硬いエンジンがフロントフード真裏まで詰まっていないミドシップレイアウトの特徴がここで生きたというわけだ。
エンジンフードは後ろヒンジでほぼ垂直まで開く。エンジンを見ることも触ることもほとんどできなかったビートとは大違いだ。そのかわり、トランクはない。実にエンスーな割り切りである。
オープンコックピットに乗り込む。「198万円より」のS660は、軽史上もっとも価格帯の高いクルマである。さすがに内装のクオリティーも高い。まだ寒い季節だったが、吹き出し口を通常より2カ所増やしたミッドモード付きエアコンは乗員の腰から下を温めてくれる。
いざというとき、天井を覆うのは簡便なロールトップである。縦方向の骨を内蔵したキャンバストップで、使わない時はクルクルと巻いて、フロントフード内にしまう。骨が別々で面倒くさい「ロータス・エリーゼ」のホロを日本人がつくればこうなります、という感じのソフトトップである。
思いのままに曲がり、不足なく加速する
この日乗ったのは、MTとCVT。グレードは「β」(198万円)と「α」(218万円)のふたつだが、両者に機能上の差は少なく、MTで830kg、CVTで850kgという車重も同じ。フロントのマクファーソンストラット、軽初のアルミ製サブフレームにマウントされるストラットのリアサスペンション、前後ともディスクのブレーキ、前=165/55R15、後ろ=195/45R16という前後異径の「ヨコハマ・アドバンネオバ」なども共通だ。
走ったのはサーキットのみだが、その結論を言うと、S660はサーキットも攻められる軽スポーツカーである。いや、サーキットを走っていて、もはや軽自動車という感じはしなかった。
ハンドリングは自由自在である。前:後=45:55の重量配分、ビートの7割増しというボディー剛性、コーナー内側の車輪に軽くブレーキをかけて限界付近でのライントレース性能を安定させる「アジャイルハンドリングアシスト」、武闘派のスペシャルアドバンなどの相乗効果か、コーナリングはオン・ザ・レールだ。オーバースピードかな!? と後悔するくらい突っ込んでも、こともなく旋回をこなして立ち上がってくれる。
横置きミドシップのエンジンは「N」シリーズの3気筒をベースに、ターボチャージャーを新調するなどの専用チューンを施したもの。業界自主規制の64psを超えるのではないかといううわさも流れたが、それはなかった。6000rpmで最高出力を出す。そのかわり、10.6kgm/2600rpmの最大トルクは軽最強だ。ちなみに自然吸気3気筒だったビートは64ps/8100rpmと6.1kgm/7000rpmだった。
6段MTでも7段マニュアルモード付きCVTでも、S660のパワーに不満は覚えなかった。回すと「トゥデイ」の3気筒が後ろでワンワン陽気にほえたビートと比べると、エンジンはとても静かである。これでも騒音規制の範囲内で“出したほう”だという。
軽自動車であることの意義
S660にビートの面影があったかといえば、短いサーキット試乗の範囲では、なかった。いたいけなビートとは別物だと感じるとともに、この14年間に軽自動車がどれだけ進歩したかをあらためて痛感させられた。一刻も早く公道で走らせて、普段のS660を味わってみたい。
ひと足先に出た新型ダイハツ・コペンをどう見ているか、椋本LPLに聞くと、「コペンとの勝負は考えていません」と機先を制してから話をそらし、「昔は『エスハチ』がいて、『ヨタハチ』がいて、そうやってライバルがたくさんいるから盛り上がっていたんです。みんなでスポーツカーを盛り上げないとだめですよ」と言った。大人じゃん。
価格を考えると、S660は新型マツダ・ロードスターの購買層にも秋波を送りそうだ。発売記念の660台限定モデルは238万円で、ロードスターの尻尾が見えている。
そんななかで、S660の魅力は、「こう見えて軽」であることだと思う。昔の軽は、「軽にしておく」「軽で我慢する」クルマだった。それが今は「あえて軽にする」「断固として軽を選ぶ」ようになった。ビート時代と違うのは、なによりそうした軽自動車の立ち位置である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
ホンダS660 β
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車重:830kg
駆動方式:MR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.6kgm(104Nm)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)195/45R16 80W(ヨコハマ・アドバンネオバAD08R)
燃費:21.2km/リッター
価格:198万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ホンダS660 α
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車重:850kg
駆動方式:MR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.6kgm(104Nm)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)195/45R16 80W(ヨコハマ・アドバンネオバAD08R)
燃費:24.2km/リッター
価格:218万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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