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キャデラック・エスカレード プラチナム(4WD/6AT)

進化する巨艦 2015.04.29 試乗記 佐野 弘宗 全長5.2m、車重2.6トンという巨体が自慢のキャデラックのフルサイズSUV「エスカレード」の新型が日本上陸。その実力を試す。
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目の錯覚を疑うほどにデカい

国内でも正式発表された新しいエスカレードは、先代に対して250万円ほども高価になった。これには円安に振れている昨今の為替事情も無関係ではないのだろうが、米本国のベースモデル価格も6000ドル(現在の邦貨換算で約71万円)ほど上がっているのが最大の理由のようだ。
海外試乗記で渡辺敏史さんも指摘しているとおり、エスカレードの高級化が止まらない背景には、このクラスが米本国でVIPのショーファー用途に使われるようになったことがある。エスカレードはすでに、キャデラックの事実上のフラッグシップでもある。

本国で長短2種類のホイールベースが用意されるうち、日本に正規輸入されるのは短いほうだ。プラットフォーム(エスカレードの下まわりは独立したフレーム構造なので、文字どおりの“土台”である)も新しいものへと世代交代しているが、2950mmというホイールベースは旧世代と同寸である。
それでも、こうして日本の道路に置いてみると、エスカレードはひとり、明らかに縮尺がちがうとしか思えないデカさである。約5.2mという全長は「レクサスLS」の「ロング」とほぼ同等だが、全高が1.9m以上あって、肉眼では垂直にしか見えないノーズ部の高さも、日本人としては小柄ではない私(身長178cm)の胸ほどもある。まるで小山のごとし。
ちなみに日本に入ってこないロング版はホイールベースが3.3m、全長は5.7mにも達する。日本で入手可能な乗用車でこれ以上に長いのは、「ロールス・ロイス・ファントム」くらいのものだ。

2013年秋のロサンゼルスオートショーで初公開された4代目「キャデラック・エスカレード」。日本では2015年2月に正式発表された。
2013年秋のロサンゼルスオートショーで初公開された4代目「キャデラック・エスカレード」。日本では2015年2月に正式発表された。
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フロントグリルを飾る「キャデラッククレスト」は、「ATSクーペ」から採用されている新デザインのもの。
フロントグリルを飾る「キャデラッククレスト」は、「ATSクーペ」から採用されている新デザインのもの。
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各所に本革と本木目が用いられたインテリア。内装色は「シェール」と「ジェットブラック」「トスカナブラウン」の3色で、上級グレード「プラチナム」には後ろの2色が用意されている。
各所に本革と本木目が用いられたインテリア。内装色は「シェール」と「ジェットブラック」「トスカナブラウン」の3色で、上級グレード「プラチナム」には後ろの2色が用意されている。
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今回のテスト車は上級グレードの「プラチナム」。充実した機能、装備に加え、専用のメッキグリルやアルミホイール、テールゲートのバッジなども特徴となっている。
今回のテスト車は上級グレードの「プラチナム」。充実した機能、装備に加え、専用のメッキグリルやアルミホイール、テールゲートのバッジなども特徴となっている。
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体幹が鍛えられていればこそ

プラットフォームは新世代でも、フロントが独立懸架、リアがリジッドというサスペンションの基本形式に大きな変更はない。この点は、エスカレードにとって世界で唯一無二のライバルである「リンカーン・ナビゲーター」に見劣りする部分であることは否定しない。実際、先代エスカレードの走りは、ナビゲーターに対して、ドシバタする乗り心地、ほえまくるV8のOHV、そして曖昧な操縦性……と、明らかにトラック然としていた。

しかし、新型エスカレードの走りは、お世辞ぬきで、別物のように洗練された。とくに静粛性は驚くほどのレベルアップで、軽井沢の山坂道で勢いまかせにアクセルを踏みつけても、室内に侵入してくるエンジンノイズは「隣室で鳴っているオーディオ」程度である。
ステアリングも以前とは雲泥の差で正確になり、握力を緩めたときの復元力も、乗用車からいきなり乗り換えても違和感がない程度になった。ステアリングもペダル類も操作力はアメリカ車らしく軽いタイプだが、ステアリングと同様に、ブレーキフィールの改善も著しい。制動力そのものの向上も明らかだし、なにより一定の踏力で、望むポイントにピタリと上品に停止できる。
新世代プラットフォームとはいっても、新型エスカレードに、技術オタクを狂喜させるような新機軸はとくにない。しかし、これほどのフィジカルな性能の向上を見せられると、やはり機械の本質というのは電子制御ではないのだなあ……とも思う。

エスカレードは、日本ではなるほど場違いのようにデカいのだが、運転しにくいクルマではない。少なくとも物理的に通れる場所であれば、ギリギリ運転のストレスは非常に少ない。周囲を見下ろす視界はもちろん、四角四面のスタイルから想像されるように車体の見切りもいい。そして前記の正確な操作性のおかげで、いや、積極的に運転しやすいクルマである。

最高出力426ps、最大トルク63.5kgmを発生する6.2リッターV8 OHVエンジン。筒内直接燃料噴射システムや、気筒休止機構、可変バルブタイミング機構などが搭載されている。
最高出力426ps、最大トルク63.5kgmを発生する6.2リッターV8 OHVエンジン。筒内直接燃料噴射システムや、気筒休止機構、可変バルブタイミング機構などが搭載されている。
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シート表皮は全車レザーが標準だが、グレードによって革の種類が異なり、上級グレード「プラチナム」では1列目、2列目シートにセミアニリンナッパレザーが用いられている。
シート表皮は全車レザーが標準だが、グレードによって革の種類が異なり、上級グレード「プラチナム」では1列目、2列目シートにセミアニリンナッパレザーが用いられている。
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「プラチナム」の1列目シートには18ウェイの電動調整機構に加え、マッサージ機能も備わる。強さの調整は写真左のダイヤルで行う。
「プラチナム」の1列目シートには18ウェイの電動調整機構に加え、マッサージ機能も備わる。強さの調整は写真左のダイヤルで行う。
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電動格納機構を備えた2列目キャプテンシート。格納はタンブルフォールディング式だが、電動で動かせるのは背もたれを倒す作業のみで、座席を前方に跳ね上げる作業や、たたんだ座席を元に戻す作業は、いずれも手動となる。
電動格納機構を備えた2列目キャプテンシート。格納はタンブルフォールディング式だが、電動で動かせるのは背もたれを倒す作業のみで、座席を前方に跳ね上げる作業や、たたんだ座席を元に戻す作業は、いずれも手動となる。
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3列目シートは6:4の分割可倒式。格納はもちろん、起こす作業もラゲッジルームのスイッチで操作できる。
3列目シートは6:4の分割可倒式。格納はもちろん、起こす作業もラゲッジルームのスイッチで操作できる。
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2.6トンの車重をもてあますことがない

とはいえ、エスカレードのシャシー関連でハイテクと呼ぶべきものに「マグネティックライドコントロール」(MRC)がある。MRCそのものは先代にも備わっていたが、今回は第3世代をうたう最新のそれだ。
新型エスカレードは22インチという物騒なタイヤでも、独立フレーム特有の浮遊感ある快適な乗り心地が堪能できる。それでいて、ワインディングロードでも巨体に似合わぬ軽快な身のこなしを見せてくれるし、前記のように、せまい路地にも自信をもって入っていける正確性もある。こうした新型エスカレードの動的美点には、MRCの恩恵も大きい。

MRCは路面状況や車両の挙動にあわせて減衰力をリアルタイムに制御する可変ダンパーだ。実際、低速の市街地ではゆったり走っていた新型エスカレードが、山道に分け入ってムチを入れると、見る見る引き締まっていくのが、手に取るようにわかる。試乗車の「ブリヂストン・デューラーH/Lアレンザ」のグリップも強力で、もてあますことがまったくない。
MRCにはモード切り替えもあって、「スポーツ」にするとハードな減衰が“デフォ”になるが、それだと通常時はユッサユッサという上下動が絶えない。しかし、標準モードに相当する「ツーリング」であれば、これまで書いたように、TPOに合わせて見事な調律っぷりを見せてくれる。これであれば、正直いって、スポーツモードの必要性は皆無に近い。

6段ATにはマニュアルモードもある。「こんなラグジュアリーカーにマニュアルモードなんて……」とお思いの向きもあろうが、今回の軽井沢のようにアップダウンの多い場所では、エンジンブレーキの強さを任意に選べるマニュアルモードは非常に重宝する。いかに優秀なフィジカルでも、さすがに2.6トンをペダルブレーキだけで振り回すのは無謀である。
ただ、それゆえに細かいツッコミをさせていただくと、そのマニュアル変速操作を、コラムレバーのボタンに担わせるのは感心しない。走行中にステアリングから手を離して、宙に浮いているコラムレバーを握り、しかも指先でマニュアルボタンを……というのは、お世辞にも操作しやすいとはいえないからだ。キャデラックのセダン系にあるパドルシフトを、すぐにでもつけてほしい。

「エスカレード」は路面の状態を感知して減衰力を調整する磁性流体ダンパーを装備しており、走行モードは「スポーツ」「ツーリング」の2種類から選択できる。
「エスカレード」は路面の状態を感知して減衰力を調整する磁性流体ダンパーを装備しており、走行モードは「スポーツ」「ツーリング」の2種類から選択できる。
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タイヤサイズは全車共通で285/45R22。「プラチナム」にはシルバー塗装が施された、9スポークの専用アルミホイールが装備される。
タイヤサイズは全車共通で285/45R22。「プラチナム」にはシルバー塗装が施された、9スポークの専用アルミホイールが装備される。
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ベースグレード「プレミアム」のアシストステップが固定式なのに対し、「プラチナム」にはLED照明付きの電動格納式アシストステップが装備される。
ベースグレード「プレミアム」のアシストステップが固定式なのに対し、「プラチナム」にはLED照明付きの電動格納式アシストステップが装備される。
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オーバーヘッドコンソールには電動スライディングルーフのコントローラーや、パワーテールゲートの開度を調整するダイヤルなどが備わる。
オーバーヘッドコンソールには電動スライディングルーフのコントローラーや、パワーテールゲートの開度を調整するダイヤルなどが備わる。
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シフトセレクターはコラムシフト式。手動変速時には、「+/-」のスイッチでギアを選択する。
シフトセレクターはコラムシフト式。手動変速時には、「+/-」のスイッチでギアを選択する。
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価格を納得させる出来栄え

新型エスカレードの先代から価格が明らかに上がったのは、セカンド、サードシート可倒機構の電動化や、センターコンソールのクールボックス(大容量であるうえに4度というキンキンの冷えをキープできる本格冷蔵庫)、そして事前察知安全装備などの大物装備の多くが新規採用されており、内外装の仕立ても目に見えて高級、高品質になったからだ。先代の価格(990万円)を正当とするなら、新型が不当に高いとは思わない。

今回の試乗車は高価な「プラチナム」というグレードで、最上級のナッパレザーシートを筆頭として、ダッシュやドアまわりはほとんどがフルレザー、ウッドパネルも本木目。落ち着いた色調は下品さとは正反対で、これまでのキャデラックでは見たこともない本物の高級車のそれである。

ライバルのリンカーン・ナビゲーターはいまだにシャシー性能ではわずかにリードしており、サードシートの居住性でも、絶対的な空間に大差はないものの、着座姿勢や視界でリンカーンにアドバンテージがある(エスカレードのサードシートはいわゆる体育座り姿勢を強いられる)。そう考えると、ナビゲーターの928万円という価格はかなり魅力的に映るが、新型エスカレードの圧巻のインテリアの前には、さすがのナビゲーターも現時点ではなすすべがない。新型エスカレードの登場で“アメリカン・フルサイズ・ラグジュアリーSUV”の商品力競争は、次の段階に踏み入れた感がある。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏)

ラゲッジルームの容量は3列目を起こした状態で433リッター、たたんだ状態で1460リッター。2列目シートも折りたためば、2666リッターまで拡大できる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
ラゲッジルームの容量は3列目を起こした状態で433リッター、たたんだ状態で1460リッター。2列目シートも折りたためば、2666リッターまで拡大できる。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
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「プラチナム」のセンターコンソールに備わるクーラーボックス。8.3リッターの容量を持ち、500ccのペットボトルを6本収納できる。
「プラチナム」のセンターコンソールに備わるクーラーボックス。8.3リッターの容量を持ち、500ccのペットボトルを6本収納できる。
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センターコンソールの上には携帯端末用の非接触充電器が備わる。
センターコンソールの上には携帯端末用の非接触充電器が備わる。
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テスト車のデータ

キャデラック・エスカレード プラチナム

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5195×2065×1910mm
ホイールベース:2950mm
車重:2650kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:426ps(313kW)/5600rpm
最大トルク:63.5kgm(623Nm)/4100rpm
タイヤ:(前)285/45R22 110H M+S/(後)285/45R22 110H M+S(ブリヂストン・デューラーH/Lアレンザ)
燃費:シティー=13mpg(約5.5km/リッター)、ハイウェイ=18mpg(約7.7km/リッター)(標準グレード、米国EPA値)
価格:1249万円/テスト車=1303万2900円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトダイヤモンドトリコート>(12万9000円)/CUE統合制御ナビゲーションシステム(35万円)/フロアマット<6枚セット>(6万3900円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2284km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

キャデラック・エスカレード プラチナム
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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