ポルシェ・ボクスター スパイダー(MR/6MT)
正常進化したピュアロードスター 2015.08.03 試乗記 「ポルシェ・ボクスター」の頂点に君臨する「ボクスター スパイダー」に試乗。シリーズ中、最も軽いボディーに、最もパワフルな3.8リッターフラット6を搭載したピュアロードスターがもたらす世界とは? イタリア・フィレンツェからの第一報。フィロソフィーは変わらない
2009年末に、カリフォルニアで乗った初代モデルの印象をお伝えしてからはや5年と8カ月(該当記事はこちら)。現行981型をベースとしたものへと代替わりした2代目ボクスター スパイダーの国際試乗会は、イタリアのフィレンツェ近郊をベースに開催された。
ソフトトップ開閉機構の“非自動化”を軸に、装備の見直しも含めて軽量化を推進。そこによりパワフルな心臓を搭載し、それに見合った専用チューニングを行った足まわりを組み合わせることで、シリーズ中最もピュアで、ポテンシャルの高い運動性能を目指す……といったクルマづくりの方向性は、初代モデルから変わっていない。そんな2代目となるボクスター スパイダーを、ポルシェ自身では“究極のドライビングプレジャーのためのピュアロードスター”と紹介する。
シートの背後から後方へと伸びる、リアリッド上の2つの膨らみが、1960年代に活躍した「718スパイダー」の面影をほうふつとさせ、左右後端で後方へと引かれたソフトトップのフィン部分が、ルーフクローズ時でもオリジナルボクスターとは趣を異にする独自のスタイリングをアピール、といったデザイン面でのアイデアも、やはり初代モデルに採用されたものと同様。
すなわち、2代目の概要を知った時点での第一印象は、「これは初代の“正常進化版”だな」というものであったわけだ。
その簡便さは夢のごとし
一方で、2代目ボクスター スパイダーではベース車両に対するエンジンパワーの増し幅がはるかに大きくなった。また、基本はオープンでクローズド状態はあくまで緊急用というスタンスの強かったソフトトップは、“手動式”という点は継続しながらもその取り扱い性を大きく向上させたのは、新型ならではのトピックスだ。
その種を明かせば前者は、「ケイマンGT4」の場合と同様に「911カレラS」用の3.8リッターユニットを移植するという方法によって獲得されたもの。また、後者は初代モデルの煩雑な手順による脱着式を改め、これまでボクスターが採用してきた“Z型格納”をベースとした、何とも賢い方法によって実現されたものだ。
コンソール上に新設されたスイッチで、まずトップ先端とリアリッドのロックを電動で解除。その後、トップ後端から伸びた左右のフィン部分を外してからリアリッドを開き、トップ部分を手動で折り畳んだ後にリッドを閉じて、最後にトップ開閉時に必要な空間をふさぐ左右の小さなフラップを閉じれば、ルーフオープンの作業は完了する。
“閉じ”の動作はその逆をたどるわけだが、いずれにしても一度操作を覚えれば一連の作業は1分ほどで完了する。そもそも、1人での作業など至難の業だったのに加え、慣れても5分ほどを要した初代モデルの作業に比べれば、その簡便さは夢のごとし。分割式だったトップ部分保護のため最高速は200km/hまでで、洗車機の使用もNGといった初代モデルでの制約もすべて撤廃された新型のソフトトップは、開発陣の“知恵と努力の結晶”であるに違いないのだ。
ケイマンGT4とはここが違う
冒頭紹介のごとく、今回のテストドライブはフィレンツェ近郊の山岳路がメイン。が、ポルシェのイベントとしては意外なことに、設定されたルートは道幅が狭く、見通しの悪いコーナーが連続する場面が大半。正直なところ、そのポテンシャルを思い通りに発揮できたとは言い難い状況だった。
が、そうしたシチュエーションだからこそ印象に残ったのは、軽量ボディーに“カレラSからの贈り物”である3.8リッターユニットを搭載した結果による、エンジンの低回転域からの太いトルク感である。特に急がない限り、3.4リッターユニットを積む「ボクスターS/GTS」よりも、1速高いギアが使える場面も少なくなかったのだ。
初代モデルには2ペダルのPDKも用意されたものの、今回のトランスミッション設定はケイマンGT4と同様にMTのみ。「エンジンとの結合部分を強化の上で、ギアボックス本体はS/GTS用とギア比も含めて同様」というユニットも、ケイマンGT4に採用されたものと同じだ。
ミドシップモデルのスポーツフラッグシップはケイマンGT4、という点を明確にするためか、先述の“カレラSからの贈り物”には、ケイマンGT4よりも10ps低い最高出力を、700rpm低い回転数で発する独自のチューニングが与えられている。
それでも、その動力性能が「文句ナシ」なのは、0-100km/h加速が4.5秒というデータを持ち出すまでもなく、当然のことである。興味深いのは、「オープンモデルゆえ、ケイマンGT4とは異なるサウンドチューニングを行った」というエンジニアのコメントだ。
実はボクスター スパイダーの場合、スポーツエキゾーストのボタンを押すことでボリュームが一段増しとなるのに加え、標準採用のスポーツクロノで「スポーツプラス」のモードを選択した場合は、アクセルオフ時にアフターバーン的な破裂音を奏でる“エンターテインメント”を加えるという、3段階の設定が採用されているのだ。
どのボクスターよりも軽やか
ピュアでストイックな“走りのオープンモデル”を目指した、ということから、昨今では「911GT3」やケイマンGT4など、サーキット走行を念頭に置いたモデルにも標準採用される電子制御式可変減衰力ダンパー“PASM”の採用が、あえて見送られたスパイダー。採用されたのは、GTSグレード用をベースに、スプリングやスタビライザーを強化するなど、専用のチューニングが施されたというサスペンションだ。
その設定は「オリジナルボクスターにオプションで用意される“スポーツシャシー”に近いものの、リアホイール幅が拡大されたことを受けて、一部が異なるものになっている」という。
実際のフィーリングは、60km/h程度までの低速域では、さすがにそれなりにハード。が、それ以上の速度になると引き締まってはいるものの、フラット感の高いテイストが意外にも心地いい。
何といっても、オープンモデルとしては比類なく高い剛性感を備えるボディーが、振動を瞬時に減衰させることにあらためて感心する。そもそも、S/GTSグレードでも文句ナシだったブレーキのフィーリングがさらに優れて感じられたのは、キャリパーとローターにも、より大容量の“カレラSからの贈り物”が採用されたからだ。
ハイスピードで高Gコーナリングを試すような場面に恵まれなかったのは残念。が、ターンイン時点での俊敏性が高く、これまでのボクスターシリーズ以上に軽やかな印象が強かった。ダイナミックエンジンマウントやトルクベクタリングの標準採用に加え、「911ターボ」から流用されたというパワーステアリングのギアが、オリジナルモデル用よりもセンター付近で高いバリアブルレシオであるという点も効果を発揮しているはずだ。
シリーズ中で最もパワフルかつ軽やかな走りを手に入れた上で、ソフトトップの使い勝手を大きく向上させた新しいスパイダーは、また新たなボクスターファンを開拓するに違いない。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ)
テスト車のデータ
ポルシェ・ボクスター スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4414×1801×1262mm
ホイールベース:2475mm
車重:1315kg(DIN)
駆動方式:MR
エンジン:3.8リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:375ps(276kW)/6700rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/4750-6000rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20/(後)265/35ZR20
燃費:9.9リッター/100km(約10.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:1012万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。
*=日本での車両本体価格。
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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