ポルシェ・ボクスター(MR/6MT)【試乗記】
最も楽しめるポルシェ 2012.12.10 試乗記 ポルシェ・ボクスター(MR/6MT)……850万3000円
ポルシェのオープンスポーツカー「ボクスター」が3代目に進化。その仕上がりや、いかに? 巨匠 徳大寺有恒が吟味した。
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ポルシェの理想をかなえるモデル
松本英雄(以下「松」):今日はポルシェの新しい「ボクスター」、といっても日本デビューから半年近くたってしまいましたが、それに乗りましょう。
徳大寺有恒(以下「徳」):たしか「ボクスター」は先代にも乗ったよな。あれは去年だっけ?
松:僕もそう思っていたんですが、調べてみたら2010年の12月でしたから、ほぼ2年前になるんですよ。
徳:そんなにたつのか。そりゃこっちも年をとるわけだ。
松:その2年前の先代ボクスターのインプレッションで、巨匠は過去に自分でポルシェを所有したことはない、って言ってましたよね。
徳:ああ、言ったかも。
松:ところがあの記事が出たとたんに、『webCG』の執筆者数名から連絡がきまして。名は挙げませんが、かつて自動車専門誌『NAVI』の編集記者だった人たちです。(笑)
徳:それで、なんだって?
松:巨匠は少なくとも1台、白い「911カレラ」を所有していたはずだと。俺は借りて乗ったことがある、という人もいましたね。
徳:そうかい。しかしよく覚えているなあ。本人が忘れているのに。
松:そこで感心されても……まあいいか。(笑)
徳:ところで、ボクスターは現行モデルで3代目になるのかな?
松:そうです。初代の誕生が1996年、2代目が2004年、そして3代目が今年ですから、8年のモデルサイクルで世代交代していることになりますね。
徳:すると初代のデビューは16年も前になるのか。
松:印象に残っていることはありますか?
徳:市販化される前、最初にデトロイトに出たコンセプトカーがあったろ? あれがよかったんだよ。コンパクトで、シルバーに塗られていて、ジェームス・ディーンが事故死したときに乗っていたことで知られる市販レーシングカーの「550スパイダー」や、純レーシングスポーツの「RS60」を思い起こさせた。
松:はいはい、ありましたねえ。
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徳:市販型は少し大きくなって、ちょっと雰囲気が変わっていたけど、乗ってみたらよかったな。長年にわたって911を作り続け、「924/944」や「928」なども作ってはみたものの、やはりポルシェはスポーツカーの理想的なレイアウトであるミドシップを作りたかったんだな、と思ったよ。
松:911のほうがパワーはあるけれど、スポーツカーとしてのダイナミック性能は、ミドシップであるボクスターやケイマンのほうが高いと、私も常々思っています。
徳:そうだろう? 911を振り回すのは、それはそれで楽しんだけどさ、あれでゆっくり走ると、途端につまらなくなるんだよ。
松:GTとしては、いいんですけどね。というところで、そろそろクルマを見ましょうか。
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大きくならないのが立派
徳:ずいぶん鮮やかなイエローだなあ。ポルシェの黄色というと、淡いカナリアイエローが好きなんだが。
松:ポルシェの呼称ではこれはレーシングイエローというそうなんですが、「ホンダ・ビート」の黄色を思い出しました。
徳:同じミドシップだしな(笑)。先代と比べて、ボディーは大きくなっているのかい?
松:ホイールベースが60mm、全長は30mmほど延びましたが、幅と高さはほとんど変わっていません。
徳:ほう、それはいいことだ。スポーツカーまでモデルチェンジのたびに大きくなられたんじゃ、たまったもんじゃないからな。
松:その点、さすがにポルシェはわかってますね。ボクスターは初代と比べても全長が60mm弱、全幅が20mmほどしか拡大していませんから。さらにスポーツカーにとって大事な要素である車重に関しては、先代よりやや軽くなっているんですよ。
徳:そりゃますます気に入った。
松:アルミやマグネシウムなど軽量な素材の使用比率を高めることによって、このベーシックなボクスターでは先代より25kg軽量化され、車重は1310kgとのことです。
徳:1.3トンか。今どきのクルマとしては、それでも軽いほうなんだろうな。
松:そうですね。ひとまわり小さい「トヨタ86」でも、ネイキッドなベーシックグレードを除いては1.2トン以上ありますから。
徳:スタイリングはポルシェの常としてキープコンセプトだから、先代との違いはあまりわからんな。
松:もっとも明確な識別点としては、ドアパネルですね。先代、いや「カレラGT」を除くこれまでのポルシェのミドシップおよびリアエンジンモデルのドアは、みなプレスラインの入らない、のっぺりした形状でしたが、新しいボクスターにはキャラクターラインが入ってます。
徳:なるほど。そのせいもあって「ビート」を思い出したんじゃないか?
松:かもしれません。そういえば、新型のヘッドライトの形状は「トヨタMR-S」っぽいような……このへんでやめておきましょう。(笑)
徳:インテリアとソフトトップの色を合わせているのはポルシェらしいな。
松:インテリアはシートや内張だけでなく、ダッシュなどの樹脂部分までブルーに染めています。こうした手法は、かつては日本車にもよくありましたが、最近ではあまり見かけませんね。
徳:やはりコストの問題なんだろう。
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松:コストといえば、実はこのブルーのインテリアもオプションなんですよ。ちなみに価格は25万5000円。
徳:そんなにするのかよ! まあ、俺にとってボディーとインテリアのカラーコンビネーションをあれこれ考えるのは、新車を買う際の大きな楽しみだから、選択肢があることはうれしいんだが、ちょっと高いな。ポルシェとはいえ、ベーシックなボクスターなんだから。
松:たしかに。じゃあ乗ってみますか。
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これぞ最良のボクスター
徳:ギアボックスは7段PDKじゃなくて6段マニュアルなんだな。
松:ええ。現在のポルシェのラインナップの中で、もっともベーシックでリーズナブルなモデルです。もっともこの個体には、先ほどのブルーのインテリアをはじめあれこれオプションが付いてはいますが。
徳:エンジンは?
松:先代の最終型は2.7から2.9リッターに拡大されましたが、新型は2.7リッターに戻されています。ただし直噴化されて最高出力は265psと10psアップ、最大トルクは1.0kgm落ちて28.6kgmです。
徳:若干ながらダウンサイジングしたわけか。
松:そうですね。だけど、この新しいエンジン、気持ちいいですよ。先代も速さに関しては申し分なかったけれど、新型はさらに力強くて、最初は間違えて「ボクスターS」を借りたかと思いましたよ。
徳:音もいいな。
松:MTもやっぱりいいですね。先代に試乗したときも言いましたが、PDKがうまくできているとはいえ、ときとしてシフトタイミング、特にシフトダウンが自分の意思とズレてしまうことがあるんですよ。
徳:その点、MTは思うままに操れるからな。速さではPDKにかなわなくても、楽しさでは……なんて言ってる俺たちのような連中を、そろそろポルシェはうっとうしく感じているのかも。(笑)
松:とはいえMTを残しているんですから、まだ少なからずそういう声があるんでしょう。
徳:あと、新しいポルシェに乗るたびに感心するのは、ボディーワークのすばらしさ。オープンなのにピシッとしていて、この剛性感の高さはほかではちょっと味わえない。
松:先代もよかったけれど、新型は確実に超えてますね。ベタだけど、最新のボクスターは最良のボクスター、って思います。
徳:先代ボクスターはもちろん、前の世代の911よりもいいって思わせるんだよな。ボクスターは初代からずっとそうなんだ。
松:あいかわらず乗り心地も悪くないですね。サスペンションがよく動いている証拠でしょう。
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徳:もうひとつ、これも初代からの美点なんだが、オープンにしてもサイドウィンドウを上げていれば、ほとんど風を巻き込まない。だから疲れないし、女性にも喜ばれるよ。
松:先代もそうだったけれど、われわれの結論としては、オープンスポーツの「ボクスター」を楽しむなら、「ボクスターS」ではなくてベーシックな「ボクスター」で十分、というか後者のほうがいいってことですね。
徳:そのとおり。で、これはいくらなんだい?
松:基本となる車両価格は584万円なんですが、このクルマはオプション込みで805万3000円です。
徳:おいおい、って感じだな。毎度のこととはいえ、なぜそんなに高くなるんだい?
松:一番高いのはセラミックコンポジットブレーキで、これだけで130万円近くします。でもリストを見ていくと、巨匠が必ず選ぶだろうと思うのはシートヒーターぐらいですから、それだけなら600万円でお釣りがきますよ。
徳:わかった、それでいい……って、買うわけじゃないんだけどな。(笑)
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=峰昌宏)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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