トヨタ・ランドクルーザープラドTZ-G(4WD/6AT)
“クロカン”と“SUV”の間で 2015.09.24 試乗記 2015年6月の一部改良で、「トヨタ・ランドクルーザープラド」に待望のディーゼルモデルが復活。「GD」型を名乗る最新のクリーンディーゼルエンジンの出来栄えを試すとともに、あらためて4代目プラドの実力を確かめた。尿素を補充する手間がクロカンらしい?
「じゃ、プラドをお願いします」
例によって『webCG』のホッタ青年は、メガネの奥の目を細めてそう話しかけてきた。じゃって、何だ。もしや昨年限定販売された「ランクル70(ナナマル)」の原稿を書いたから、その続きの「じゃ」なのか? いつから僕は『webCG』のランクル担当になったんだろう。
「今回のマイナーチェンジの目玉は、ディーゼルエンジンです」
むむ!? そこで思わず引き寄せられる。僕の愛すべきオンボロは「ランドローバー・ディフェンダー110」のTdi。すなわちディーゼルターボエンジン搭載車。ナイスなディーゼルエンジンがあればいつでも載せ換えたいと思っている。あ、ホッタ青年はそこをくすぐったのか?
「でもねぇ、たぶん無理じゃないかなあ」
そう言うとホッタ青年は、メガネの奥の瞳の輝きを鈍らせた。理由はこういうことらしい。
トヨタの新しいディーゼルエンジン「1GD-FTV」は、低燃費と低排出ガスにこれでもかというほどの工夫を重ね、同社の乗用モデルでは久々となる“ディーゼル復活”に成功したものだ。エンジン本体はもちろん排気系統も手が込んでいる。排ガスは最初に酸化触媒、次にDPR触媒を通過し、PM(大気汚染物質とされる粒子状物質)を削減。さらにその後に控える尿素SCRシステムによってNOx(窒素化合物)を減らされ、文字通りクリーンな排ガスとなる。この聞き慣れない尿素SCRシステムとは、トラックなどの大型車両や、メルセデス・ベンツのディーゼル車などですでに導入されているもの。燃費のよさというディーゼル特有の強みを消さず、尿素水を使ってNOxを無害化することができるらしい。
「尿素水は走行距離に合わせて減るので補充しなきゃいけないんですよ。でも、その手間はクロカンらしくてかわいいんじゃないですか?」
尿素水をつぎ足すってのはかわいいのか? それがクロカンらしいのか? 尿素といえば美肌クリーム以外に思いつかない僕にはよくわからない。ただし、トヨタの複雑で大掛かりな排気の浄化システムが自分のクルマに転用できないことはよくわかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
インテリアは“昭和の3LDK”
それにしても目の当たりにしたプラドはデカかった。こんなに巨体だったっけと自分の記憶が怪しくなる。確か最初はランクルの派生種だったよな。発売当時はヘビーな70系と区分けするためライト系と呼ばれていたはずだ。しかも2ドアモデルだけだったんじゃないか?
それは全部正解。後に4ドアモデルが追加され、現行型の登場に合わせて2ドアモデルが終了。当初は直4のみだったエンジンも、4リッターV6を積むまでになった。ちなみに今回のマイナーチェンジで、国内仕様からはそのV6エンジンモデルが消え、新規の2.8リッターディーゼル直4と2.7リッターガソリン直4になった。
いずれにせよ、これだけデカいと本家ランクルとは何が違うのか、どんな差別化が行われているのか、またしてもわからなくなる。そりゃまぁ本家のボディーはさらに大きいし、エンジンだって4.6リッターのV8だ。風格の差はあるだろう。ただし、それは2台を並べて初めてわかる気がするのだ。プラド1台だけなら、もうこれで十分。ならばプラドの存在理由って何だろうと率直に思う。
ボディーサイド下部のちょうどいいところに備わるステップボードを伝って室内へ。試乗したのはトップグレードのTZ-G(お値段は税込み513万3927円)。「フラクセン」と呼ばれるベージュの本革シートと、ダッシュボードやドアに配置された茶色の木目(調)を眺めてこう思った。
昭和中期以降の3LDK。揶揄(やゆ)するつもりはない。でも、まだモダンという言葉で誰もが納得できた時代の豪華さというか落ち着きを感じるのだ。今っぽいデザイン性は皆無。けれどトヨタはむしろこれでいいと、このクルマを買う層にネオな印象は不要だと判断したに違いない。その辺の割り切り方にはすごみすら覚える。いやマジで。
れっきとしたクロカンだった
朝のラッシュで混み合う東京を抜けて東名高速へ。首都高に乗る直前で路肩に止まるパトカーと消防車、歩道に集う各隊員の姿を見かけた。みな落ち着き払っている。どうやら事件や事故ではないらしい。今日は9月1日、防災の日。きっとこれから訓練をするのだろう。
高速道路でのプラドは快適だ。何も問題ない。もし黙っていたら、これがディーゼルエンジンだとは誰も気づかないほど静かでもある。もはやガラガラと「今日も働いてまっせ」と訴えるようなエンジン音は響かないのだ。それはさびしいことじゃない。ディーゼルに慣れている僕だって、できればウチの子もこんなにおとなしかったらいいのにと思うのだから。
「せっかくだからちょっとオフロードも走りましょう」
事前に何も説明してくれなかったホッタ青年がそう切り出したのは、某サービスエリアを出た頃だった。それ、ナイスジャッジ。もし今回の試乗を高速道路と一般道だけで済ませていたら、僕のプラド評は「ふ~ん」で終わっただろう。たぶんホッタ青年は気づいていたのだ。プラドの真価を。あるいは「ふ~ん」以外の感想なり情報で文字を埋めようとする僕のズルさを。
もちろんイリーガルではない河川敷の、決して広くはないがそれなりにデコボコしている不整地にプラドを乗り入れた。「ふ~ん」が「おおっ」に変わった瞬間だ。
プラドには、おそらく現代の乗用車に用意できるオフロード用電子デバイスのほとんどが備わっている。しかも各種デバイスのスイッチがセンターコンソール下部に集中しているのは、いざというときに迷わなくていい。それらをひとつずつ語るのは面倒なのでホッタ青年に譲るが、とにかく不整地の経験が乏しくてもおよそ無事に脱出できる、ように思えた。
しかし、僕らが「おおっ」となったのは、むしろ基本性能の高さだ。それまでの舗装路と同じ設定、つまり電子デバイスを一切使わず河川敷に降りてみたら、身のこなしがあまりにスムーズだった。足が伸びている様子が感じ取れるし、何より車体のブレやよじれがない。後で車体の下をのぞき込んだら、ちゃんとラダーフレームだった。そうよ、これこれ。クロカンならラダーフレームだ。
「そうでなきゃランクルの名を継げませんよ」と言うホッタ青年の視点がどの高さから来ているのか不明だったが、オフロード性能を一切犠牲にしないことが四輪駆動の条件だとしたら、これはやっぱりれっきとしたクロカンでありランクルなのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
だからプラドって何なのさ?
とはいえ、僕には疑問が残る。じゃ、プラドって何なの? トヨタのウェブサイトでは、ランクルを含めSUVに属している。SUV、かぁ。クロカンもヨンクも今となってはその名称に統合されたから、ほかに呼び方はないのかもしれない。でも、なんとなくしっくりこない。
これは個人的な感覚なので、ほかの誰かに理解を求めたりはしない。ナナマルの時にも書いたことなんだけど、僕にとってでっかいヨンクのクロカンは、どんな場面でも旅している気分にさせてくれるものなのだ。高いアイポイントの先の広い視野。そして転がすように運転する感覚。例えばそこが都会の真ん中でも、次の場所へ向かうため物見遊山で通りかかったんだと、そんな気分にさせてくれるラフさとルーズさ。
それがプラドに漂っていたかといえばノーだ。元から“ライト系乗用方面”を目指したクルマだから仕方ないが、ここまで豪勢なたたずまいになると、確かに今どきらしくSUVというほかにないだろう。その反面、オフロード性能はとびきりバツグン。防災の日に試乗し、この原稿を書いている最中には台風による河川の大氾濫があった。例えば被災者を助けに行くならこれほど高機能で頼もしい存在はないと思う。そういう意味では最高に働けるクルマだ。しかし、今のプラドに労働者の匂いはない。むしろそこから遠いところにある。
だから僕は戸惑うのだが、それはすべて無意味な郷愁なのだ。この時代の“旅感覚”はすでにリニアへと足をかけている。もし本当に肉体を通して旅を味わうなら、徒歩がいい。
ただ、ランクルが、プラドがどこへ向かうのかは大いに気になる。この国を代表する四輪駆動車として、例えばよりリスペクトされるべきブランドへと昇華するならうれしい。僕は古い感覚と郷愁を抱いたままわがオンボロと朽ちることをよしとするけれど、きっとプラドには未来があるから、今よりもっと個性が明確になればいいのにと思う。いやいやホッタ青年、揶揄するつもりなどまるでないのだよ。
(文=田村十七男/写真=荒川正幸)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・ランドクルーザープラドTZ-G
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4760×1885×1835mm
ホイールベース:2790mm
車重:2300kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.8リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:177ps(130kW)/3400rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/1600-2400rpm
タイヤ:(前)265/60R18 110H/(後)265/60R18 110H(ミシュラン・ラティチュード ツアーHP)
燃費:11.2km/リッター(JC08モード)
価格:513万3927円/テスト車=626万7927円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/マルチテレインセレクト+クロールコントロール+電動リアデフロック(11万8800円)/プリクラッシュセーフティシステム<ミリ波レーダー方式>+レーダークルーズコントロール<ブレーキ制御付き>(15万1200円)/チルト&スライド電動ムーンルーフ(10万8000円)/クールボックス(5万9400円)/NAVI・AI-AVS&リア電子制御エアサスペンション(パワーステアリング連動)+マルチテレインモニター<フロントカメラ+サイドカメラ[左右付き]>+T-Connect SDナビゲーションシステムDCMパッケージ&プラド・スーパーライブサウンドシステム(58万4280円)/寒冷地仕様+リアフォグランプ(2万8080円)/フロアマット<ロイヤル>7人乗り用(5万1840円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1781km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:272.5km
使用燃料:28.0リッター
参考燃費:9.7km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

田村 十七男
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。



































