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第131回:“論より証拠”の冬用タイヤ 〜ブリヂストンのスタッドレスタイヤ勉強会から

2011.11.21 エディターから一言 大谷 達也
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第131回:“論より証拠”の冬用タイヤ〜ブリヂストンのスタッドレスタイヤ勉強会から

本格的な雪道シーズンの到来を前に、タイヤメーカー大手のブリヂストンが、スタッドレスタイヤの勉強会を開催。そこでわかった、冬タイヤに関する事実とは……?

勉強会は体験会

「冬タイヤの勉強会」を開催するにあたって、ブリヂストンが選んだ場所は、スケートリンクだった。そこに用意されたアイテムは、「かんじき」「3輪自転車」「特製ソリ」の三品(!)。さて、これで一体何をしようというのか?

ブリヂストンが催した「スタッドレスタイヤの勉強会」は、スタッドレスタイヤの最新技術を紹介するだけでなく、「そもそも夏タイヤとスタッドレスタイヤとでは、氷上性能にどのくらいの違いがあるのか?」という基礎知識を紹介するユニークなイベントだった。
一見したところシンプルなテーマだが、前述した三品の“ブリヂストン特製スタッドレスタイヤ体感小道具”のおかげもあって、“発見”といいたくなるくらいの興味深い体験ができた。以下、当日の模様を順に説明していこう。

最初に試したのは、かんじき。ご存じのとおり、深く降り積もった新雪でも足を取られることなく歩けるように工夫された日本古来の道具だが、ブリヂストンはこの靴底に相当する部分にタイヤのトレッドゴムを貼り付けた。しかも、片足はスタッドレスタイヤ、反対の足には夏タイヤのトレッドを装着してある。これを履いてリンク上で履き、右足と左足を交互に動かしてみると、どうなるのか……?

足にあまり体重を乗せずに動かすと、どちらも氷の上をツルツルと滑る。けれども、グンと踏ん張って足を動かそうとすると、スタッドレスタイヤ側はしっかりと氷を捉えて足が動かなくなるのに対し、夏タイヤ側はやっぱりツルツルと滑ってしまう。これをクルマに置き換えると、「どんなに立派なスタッドレスタイヤでも、しっかりタイヤに荷重をかけなければ本来のグリップ力を発揮できない」という結論が導き出されるのだ。


第131回:“論より証拠”の冬用タイヤ 〜ブリヂストンのスタッドレスタイヤ勉強会からの画像 拡大
氷上で3輪自転車のペダルをまじめに漕ぐ、ブリヂストンのスタッフ。全てのミスマッチがほほえましい。
氷上で3輪自転車のペダルをまじめに漕ぐ、ブリヂストンのスタッフ。全てのミスマッチがほほえましい。 拡大
タイヤのトレッドゴムを貼り付けた特製かんじき。向かって右側がスタッドレス、左が夏タイヤ。
タイヤのトレッドゴムを貼り付けた特製かんじき。向かって右側がスタッドレス、左が夏タイヤ。 拡大
氷上で恐る恐る特製かんじきを試す筆者。ヘルメットに頭が入っていないのはご愛嬌(あいきょう)。
氷上で恐る恐る特製かんじきを試す筆者。ヘルメットに頭が入っていないのはご愛嬌(あいきょう)。 拡大

走る、曲がるにゃワケがある

次に、4輪用タイヤを装着した3輪の自転車に乗ってみる。こちらは2台あって、1台は3輪とも夏タイヤ、もう1台は3輪ともスタッドレスタイヤを装着してあった。

これをリンク上で走らせると、夏タイヤのほうがツルツルと滑って走りにくいのは当然ながら、スタッドレスタイヤでも無理にペダルを強くこぎ出そうとすれば駆動輪は簡単に空転する。けれども、そこでペダルにこめた足の力を少し抜くと、スタッドレスタイヤの3輪車はすぐにグリップが回復する。いっぽう夏タイヤは、いったんペダルを止めるくらいまで速度を落とさないとグリップ力は戻らない。

さらに、コーナリング。いくらスタッドレスタイヤといえど、ペダルをこぎながらだとハンドルを切ったところでアンダーステア(コーナーで、走行ラインよりも車体の前側が外側に膨らむ特性)が発生してしまい、なかなか向きは変わらない。そんなときは、ペダルをこぐ足を休ませてからハンドルを切れば思いのままに進路を変えられた。

今度は、あらかじめハンドルを切った停止状態から発進を試みる。すると駆動輪が空転して、なかなか前に進まない。これもハンドルを真っすぐに戻せば発進は容易になる。いずれもクルマの挙動としては“基本中の基本”とされることだが、雪道ではそれが格段に顕著になる、といえるだろう。

次に用意された「底にスタッドレスタイヤと夏タイヤのトレッドを貼り付けたソリ」による実験では、これまで自ら体で体感できたことが、数値でも明らかにされた。

一定の傾斜の坂からそれぞれのソリを滑り落としてみる。すると、“スタッドレスタイヤ”が67cmで止まったのに対し、“夏タイヤ”は142cm先まで滑走していった。これは、そのままクルマの制動距離に相当すると考えていい。もちろん、車速、車重、雪質などによって結果は異なるものの、夏タイヤの制動距離はスタッドレスタイヤの2倍以上にもなりうるということなのだ。

夏タイヤを装着した3輪車。前輪はほとんど回っていないのに、駆動輪であるリアの左側はものすごい勢いで空転している。
夏タイヤを装着した3輪車。前輪はほとんど回っていないのに、駆動輪であるリアの左側はものすごい勢いで空転している。 拡大
これはスタッドレスタイヤを履いたもの。ノープロブレム!
これはスタッドレスタイヤを履いたもの。ノープロブレム! 拡大
タイヤのトレッド面を貼り付けた、実験用のソリを滑らせる。緑色の袋は重りで、片方を滑らせたら、もう片方に積み替え。同じ条件で試された。
タイヤのトレッド面を貼り付けた、実験用のソリを滑らせる。緑色の袋は重りで、片方を滑らせたら、もう片方に積み替え。同じ条件で試された。 拡大
ソリの滑走距離は、67cm対142cm。スタッドレス仕様は、約半分で止まった。
ソリの滑走距離は、67cm対142cm。スタッドレス仕様は、約半分で止まった。 拡大

転ばぬ先の、操作とタイヤ

最後のメニューは、実車(FF車)での体験である。テスト車の「マツダ・デミオ」のうち、1台は4輪ともスタッドレスタイヤ、もう1台は前輪(=駆動輪)に夏タイヤ、後輪にスタッドレスタイヤを装着してある。後者の後輪をスタッドレスタイヤとしたのは、テスト走行中の事故を防ぐのが目的という。

果たして、2台の違いは、前述した“体感用小道具”で経験したこととまったく同じだった。いうまでもなく、スタッドレスタイヤの氷上グリップは夏タイヤに比べて格段に優れている。けれども、その性能を最大限に引き出そうとするなら、適切な荷重移動を行うなど、“運転の基本”に立ち返ることが重要になる。コーナリング時はスロットルを戻す、また発進時にステアリングを真っすぐにするというのも、雪道や凍結路を運転する上での大切なポイントなのだ。

「僕は雪国に住んでいるわけじゃないから、スタッドレスタイヤなんて要らない」。 そう思う方も、少なくはないだろう。
けれども、気象庁が発表したデータによれば、近年氷点下を記録した日数は、地球温暖化が叫ばれている現状とは裏腹に、首都圏ですら増加傾向にあることがわかる。
たしかに雪の降る日は減っているかもしれないが、道路が氷結する可能性はむしろ増えているのだ。「だから、どこに暮らしていても冬はスタッドレスタイヤを装着したほうがより安心」という勉強会の結論も、拝聴に値すると思った次第である。

(文と写真=大谷達也/Little Wing)

アンダーステアが発生して思うように曲がれない、氷上の夏タイヤ装着車。
アンダーステアが発生して思うように曲がれない、氷上の夏タイヤ装着車。 拡大
夏タイヤ(写真左)と冬用スタッドレスタイヤを見比べてみる。なお、写真のタイヤは前ページの実験用3輪車に装着されたもの。
夏タイヤ(写真左)と冬用スタッドレスタイヤを見比べてみる。なお、写真のタイヤは前ページの実験用3輪車に装着されたもの。 拡大
今回の勉強会で用意された「首都圏の氷点下日数」のデータ(気象庁発表)。特に1月は数字が伸びている。降雪地帯でなくても油断は禁物!?
今回の勉強会で用意された「首都圏の氷点下日数」のデータ(気象庁発表)。特に1月は数字が伸びている。降雪地帯でなくても油断は禁物!? 拡大
大谷 達也

大谷 達也

自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。

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