フォルクスワーゲン・ポロ ブルーモーション(FF/7AT)
“得意科目”のはずなのに 2015.11.10 試乗記 「フォルクスワーゲン・ポロ」に、1リッター直3ターボエンジンを搭載した「ブルーモーション」が登場。300台限定で導入された“燃費スペシャル”の実力を試す。燃費を突き詰めた限定モデル
若いころ、「K70」なんていう超レアモデルを所有し、今は「ゴルフワゴン」とポロに乗っている知り合いがいる。フォルクスワーゲン(VW)が聞いたら涙を流すようなVWファミリーだ。
ゴルフワゴンは10年前の旧型なので、リッター10kmいくかいかないかだが、ふだん奥さんが乗っている1.2リッター4気筒ターボの現行ポロは普通に使っていてリッター20km走るという。
「そんなに燃費がいいのか!?」と驚いたポロのさらなる燃費スペシャルが“ブルーモーション”である。日本ではひと足先に「アウディA1」でお目見えした1リッター3気筒ターボを搭載し、空力効果で燃費に寄与する前後バンパーやサイドスカートやアルミホイールなどを特装している。
ポロ ブルーモーションのJC08モード燃費は23.4km/リッター。1.2リッターモデル(22.2km/リッター)をしのぐのはもちろん、同じパワーユニットの「アウディA1 1.0 TFSI」(22.9km/リッター)にも競り勝つ。
そんなケッコウなポロなのに、レギュラーモデルではなく、300台の限定販売。アウディに先陣を切られてしまって、フテくされちゃったのかと思ったら、そうではなく、燃費スペシャルとしての特別感を出すために、最初はあえて限定の枠をはめたのだという。
いかにも“エコユニット”な3気筒ターボ
たとえブルーモーションでも、ポロや「up!」のようなコンパクトVWに個人的にまず期待したいのは、走りのエモーションや楽しさである。
祝日の休み、高速道路が混み始める前にと考え、未明5時過ぎにスタートして、行きつけの峠道を目指す。肌寒い朝だったが、コールドスタート後、数分走ったらユルユルと温風が出てきた。暖機が素早いのはエコユニットの証しである。
up!の999cc3気筒をターボ化したエンジンは95ps。ポロの1.2リッターターボを5ps上回り、16.3kgmのトルクは同一だ。75psと9.7kgmのup!に比べると、トルクのアップが著しい。
だが、乗ってみるとハイパワーターボ的なキャラではなく、たしかにトロ火で回っているクリーンエンジン的な印象が強い。パワーは十分だが、おとなしいのだ。キビキビ感は1.2リッターターボのほうがあると思う。
マナーのよさはup!のノンターボユニットそのままである。停車するとアイドリングストップするから、スローのエンジン回転を経験するチャンスはそう多くないが、回っている時でも3気筒にありがちなプルプルした音や振動は出ない。バランサーシャフトなしでこの静けさは立派だ。むしろもうちょっと3気筒“らしさ”があってもいいのになと感じるほどである。
変速機はポロでおなじみ乾式デュアルクラッチの7段DSG。up!の自動5段MTと比べると変速品質の差は明らかで、エンジンを1気筒マイナスしてもポロはポロと感じさせるクオリティー感はこのトランスミッションの貢献大である。
賢いアダプティブクルーズコントロール
ブルーモーションの車重は1.2リッターモデルより30kg軽い1100kg。ノーズが軽くなって、ワインディングロードではいっそうの軽快さが期待されたが、それよりも際だった特徴は、アレっと思うほど足まわりがソフトなことだった。当たりが柔らかくても芯はしっかりしているから、ファン・トゥ・ドライブは健在だが、ポロのなかでも最もフェミニンな印象の足まわりであることは間違いない。
ポロの燃費スペシャルで山道を攻める人はいないかもしれないが、イヤだけどやってみると、パワーはやはり1.2リッターモデルほどはない。コーナーを抜けてから加速してゆくときに、ブルーモーションは床までアクセルを踏んだまま、パワーが出てくるのを“待つ”局面が多いのだ。ふだんはスイスイ走るが、モアパワーを求めても、その先がない感じ。そんなキャラクターはディーゼルエンジン的ともいえる。
高速道路では、標準装備の「ACC(アダプティブクルーズコントロール)」を多用して経済運転に励んだ。VWのACCは本当に使える。ハンドルスポークの左側にまとまったスイッチ類は操作しやすいし、車間距離の取り方や自動ブレーキのかけかたも適切だから、使いやすい。せっかくこういうハードを付けても、ソフトの煮詰めが甘いと、おっかなびっくりだったり、心配性すぎたりして、使えないものになりがちだ。その点、VWのACCは現実的で実用的だ。
明確なアドバンテージがほしい
JC08モード=23.4km/リッター。今年で40周年を迎えるポロ史上最良燃費のブルーモーション。果たして実走燃費やいかにと大いに期待したが、400kmあまりを走って14.8km/リッターと、予想を大きく下回るものだった。このとき、車載の燃費計は16.2km/リッターを示しており、満タン法の数値は悲観的すぎるかもしれないが、それにしたって、である。
「でも、エンジンが1リッター3気筒だから安いんです」というクルマではない。269万9000円の価格は1.2リッター標準グレードより40万円以上高く、アップグレードパッケージよりもまだ7万円高い。
それで肝心の燃費が、まったく平凡だとすると、ブルーモーションを選ぶ理由は特に見当たらない。グライダーのようなシンプルさと、VWのクオリティーとを両立させたポロ本来の魅力も4気筒モデルのほうがわかりやすい。普通のポロは1.2リッターがいいと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ポロ ブルーモーション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1685×1460mm
ホイールベース:2470mm
車重:1100kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:95ps(70kW)/5000-5500rpm
最大トルク:16.3kgm(160Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)185/60R15 84H/(後)185/60R15 84H(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:23.4km/リッター(JC08モード)
価格:269万9000円/テスト車=294万円
オプション装備:純正インフォテインメントシステム“714SDCW”パッケージ<シートヒーター付き>(24万1000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:1719km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:408.6km
使用燃料:27.6リッター
参考燃費:14.8km/リッター(満タン法)/16.2km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。






























