第220回:ヒロシマは遠きにありて思うもの! 愛すべきマツダファンたち
2011.11.18 マッキナ あらモーダ!第220回:ヒロシマは遠きにありて思うもの!愛すべきマツダファンたち
まんじゅう片手の激論
読者諸兄もご存じのとおり、マツダは2011年10月、現在世界で唯一の市販ロータリーエンジン搭載車である「RX-8」の生産を、2012年6月で終了すると発表した。これで思い出すのは、1990年代に自動車誌の編集記者をしていたときのことだ。
ある日、部内の茶飲み話にマツダの話題が浮かんだ。マツダはその頃、バブル時代に急拡大を試みた多チャンネル・多ブランドの国内販売体制がたたって、経営難にあえいでいた。
「いっそここで、ロータリーをきっぱりとやめるべきだ」とボクが提案した途端、理工系出身の上司は「技術とは、そんな風に簡単に扱うものではない」とかみついてきた。
それを聞いたボクは、誰かが出張帰りに買ってきたまんじゅうを頬張りながらも言い返した。
「会社とは従業員や株主のために利益を生むもの。技術に偏重するあまり従業員の生活が維持できなくなったら、それは本末転倒ではないか」と。
そこでボクの場合は、意見のかみ合わぬ上司をもった不幸を心の中で嘆いて終わった。だが、マツダ社内では今日まで同じ議論が何万回と繰り返されてきたのだと思う。
拡大
|
外国のマツダファンは熱い
マツダといえば、外国人の中に日本人以上に熱心なファンを発見することがよくある。その“熱さ”たるやトヨタや日産の比でない場合が多いのも、これまた面白い。
外国人のマツダファンを初めてこの目で見たのは、米軍横田基地のそばに住んでいた子供時代だ。マツダ車を喜々として運転している駐留米軍人たちである。具体的には「サバンナRX-7」、2代目および3代目「カペラ」といったモデルであった。
当時アメリカではロータリーエンジンのおかげでマツダのイメージは高く、その恩恵はレシプロエンジンのマツダ車にまで及んでいたのだ。にもかかわらず日本の中古車市場では、マツダ車の価格がトヨタ車や日産車よりも一般的に安かったのだ。じわじわと進む円高に苦しんでいた当時の米軍人たちにとって「これはいいや」というわけで、中古マツダ車がウケていたのである。
イタリアに来てからも熱いマツダファンとの出会いがたびたびあった。数年前のある日曜日、近所のスーパーマーケットの駐車場(こちらはいまだ日曜休みのスーパーが多い)にクルマがたくさん集結しているので何かと思ったら、「マツダMX-5」の愛好会によるミーティングだった。
彼らのファッションを見ると、日の丸が付いたジャージ、アニメキャラがプリントされたTシャツなどなど。マイ日本ムード満点の若者が多いこと多いこと。宮崎アニメに関して妙に詳しいお兄さんもいた。その彼が「MX-5は絶対初代に限る」と言い張るので、その理由を聞くと「リトラクタブルライトがカッコいい」のだそうだ。
彼らにとって、マツダはその個性的な商品づくりから、トヨタや日産よりも「テクノロジーの国ニッポン」を感じられるらしい。後日インターネットで彼らのフォーラムをのぞいてみたら、「ミアータフライヤー」「マツディー」といった、これまたマツダ好きムードあふれるハンドルネームがずらりと並んでいた。
フォーラム発起人のひとりは、「いつかはイロシーマ(広島のイタリア風発音)を訪問するのが夢」と語っていた。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
離れているからこそ
ドイツのエッセンで開催されるヒストリックカーショー「テヒノクラシカ」でも、熱きマツダファンたちの姿を見ることができる。「RX-7クラブヨーロッパ」の面々だ。
3ローターエンジンを移植した「RX-7」などなど、毎年クラブメンバーのお宝や趣向を凝らしたディスプレーを展開している。だが日本人であるボクがあまりのインパクトに、よろめいてしまったのは、昨2010年の時のものだ。どうインパクトがあったかは、写真をご覧いただくのが一番手っ取り早いだろう。
その光景を見ていてふと思い出したのは、遠藤周作の小説『沈黙』であった。キリシタンへの弾圧が激しかった江戸時代初期、踏み絵を迫られたポルトガル人司祭の苦悩を描いた名作である。司祭の心は次第に踏み絵受容へと傾いてゆくのだが、その理由のひとつは日本の隠れキリシタンたちの姿であった。彼らの信仰は、もはや本来の教義とは別のところに走り始めていたのだ。
海外のマツダファンを観察していると、どこかその隠れキリシタンと姿が重なるのが面白い。本場と距離的に離れていればいるほど、想像の翼はより大きく羽ばたくのだ。
といっても笑うなかれ。マツダが企業規模から想像できないくらい海外でエンスージアスティックなブランドイメージを獲得している理由は、パリ「レトロモビル」に代表される現地法人の地道なイベント出展努力などとともに、そうした熱き“マツディー”たちの存在があるからだ。
それに日本の輸入車ファンだって、似たようなことをやっている場合が多い。特にその昔東京でモスキーノのジャケットを羽織って「フィアット・ウーノ」に乗り、毎週末イタメシ屋を巡っては、すかした疑似イタリア野郎を気取っていたボクなどは、その最右翼であったに違いない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。