アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)
理想のホットハッチ 2015.12.21 試乗記 0-100km/h加速は4.3秒。アウディ伝統のテクノロジーを受け継ぐ、直列5気筒ターボエンジン搭載。クワトロ社が手がけたスペシャルモデル、「RS 3スポーツバック」を箱根のワインディングロードで試した。スペシャルずくめ
日本でも、いまやほとんどの「RSモデル」が手に入るようになったが、個人的に一番気になっていたのに長らく日本未導入の状態が続いていたのがアウディRS 3スポーツバックだ。先代にあたる2代目「A3」の時代に、そのスポーツモデルとして登場したRS 3スポーツバックだったが、日本に導入されることなくモデルライフが終了。その後、A3のモデルチェンジにともない、ドイツ本国では新型RS 3スポーツバックが登場したが、ニッチなモデルだけに日本への導入は期待薄……と諦めきっていたところに発売されたものだから、とにかくうれしいし、いち早く乗りたいクルマだった。
というのも、このRS 3スポーツバックはA3スポーツバックをベースとしながら、その中身はスペシャルずくめ。一番はノーズに横置きされる2.5 TFSIエンジン。その名前から、過給器付きの2.5リッターエンジンであることは容易に想像できるが、実はこの2.5リッター、アウディにとって意味深い直列5気筒ターボなのである。「クワトロ」の名を世に知らしめた伝説のスポーツカー、「アウディ・クワトロ」に搭載されていたのが直列5気筒ターボだった。現在のアウディのラインナップで、2.5 TFSIを積むのは、RS 3と「RS Q3」だけ。いいかえれば、RSモデルを手がける「クワトロ社」の横置きモデルにのみ搭載が許されるスペシャルなエンジンなのだ。
しかもRS 3スポーツバック用には、最高出力367ps、最大トルク465Nm(47.4kgm)という2.5 TFSI史上最強スペックが採用されている。これに組み合わされるトランスミッションは、デュアルクラッチギアボックスのSトロニック。「S3」には6段のSトロニックが搭載されるのに対し、RS 3スポーツバックでは7段となり、ここでもRS 3は特別扱いだ。もちろん、駆動方式はフルタイム4WDのクワトロである。
ただ、スペシャルなクルマのわりに、人によってはおとなしい印象を受けるかもしれない。
一見おとなしいデザインだが
確かに、A3オーナーやアウディに興味がある人にしてみれば、RS 3スポーツバックは特別なモデルに見えるはずだが、これ見よがしの派手さがないだけに、ほとんどの人にとってはアウディのコンパクトモデルとしか目に映らないだろう。しかし、裏を返せばそこがRSモデルの魅力のひとつで、人知れず高性能車を所有したいという向きには打ってつけ。「羊の皮をかぶったオオカミ」とは、まさにRSモデルのためにあるような表現である。
とはいっても、そこはアウディきってのスポーツモデルだけに、オーナーを魅入らせるだけの演出には事欠かない。たとえば、よく見ると前後フェンダーはノーマルよりも広げられていて、235/35R19サイズのタイヤが自然に収まっているし、ルーフスポイラーやリアディフューザーもノーマルより強い存在感を示している。シングルフレームグリル内のハニカムメッシュやマットシルバーのミラーカバーもRSモデルの定番だ。
ドアを開けると、ヘッドレスト一体のRSスポーツシートが待ち構えている。ダイヤモンドステッチのレザーシートの存在感はかなり強烈。実はこのシートは10万円のメーカーオプションだが、RS 3スポーツバックを特別なクルマに演出するうえでは必須アイテムといえる。だたし、これを選ぶとシートスライドやリクライニングが手動になってしまうのが玉にキズである。
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伝家の宝刀を抜く
少し硬めのRSスポーツシートに座り、エンジンのスタートボタンを押す。すると次の瞬間、「あっ!」と驚くくらい派手なエキゾーストノートをともないながら、クワトロ社の“伝家の宝刀”に火が入る。おそらくほとんどの人は、この時点でA3やS3とはまるで別モノであることを思い知るに違いない。
まずは軽くアクセルペダルを踏んで発進。2.5リッターという余裕ある排気量が生み出す低速トルクはとても力強く、1560kgのボディーがいとも簡単にスピードを上げるのはなかなか感動的だ。その一方で、Sトロニックと組み合わされて2000rpm手前でシフトアップを繰り返し加速する2.5 TFSIは、やや太めのエキゾーストノートを除けば、拍子抜けするほどスムーズで、「これが本当にRSモデル?」と疑うくらいジェントルである。
しかし、これはRS 3スポーツバックの一面にすぎないのだ。タイミングをうかがいながら、ここぞというときにアクセルペダルを一気に踏み込めば、勇ましいエキゾーストノートに加えて、直列5気筒エンジン特有のフウォーンという不協和音をともないながら、背中を押すような加速に襲われる。とくに3500rpmからレブリミットの7000rpmまで一気呵成(かせい)に吹け上がるさまは痛快以外の何物でもない。それでいて、強大なトルクを漏らさず路面に伝えるのは、もちろん自慢のクワトロのおかげである。
路面に吸い付くように駆けぬける
驚いたのはその乗り心地だ。ノーマルに比べると硬めとはいえ、直接ショックが伝わることがなく、街乗りでも許容できるレベルを保っている。一方、スピードが上がれば目地段差を通過する際のハーシュネスをうまくいなしてくれるし、フラット感も上々。クワトロだけにスタビリティーも高いから、長距離移動が苦にならない。ひと昔前のRSモデルというとスパルタンな印象が強かったが、いまやRSモデルは洗練されたスポーツカーなのだ。
そして、ワインディングロードに持ち込めば、切れ味鋭いハンドリングという印象ではないものの、常にしっかりと路面を捉え、狙ったラインをトレースできる頼もしさ。2.5リッターの直列5気筒を横置きするということで、フロントヘビーな印象になることを恐れていたが、それはまったくの取り越し苦労だった。
これほどスポーティーな性格でありながら、ベースモデルのA3スポーツバックと変わらぬ実用性を持ち、街乗りからグランドツーリング、そしてスポーツドライビングにいたるまで、すべての場面をエキサイティングなものに変えてくれるアウディRS 3スポーツバックは、まさに理想のホットハッチ。あの2.5 TFSIを好きなだけ楽しめるのだから、756万円というプライスは十分納得できるものだ。
(文=生方 聡/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
アウディRS 3スポーツバック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4345×1800×1440mm
ホイールベース:2630mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ
トランスミッション:7AT
最高出力:367ps(270kW)/5500-6800rpm
最大トルク:47.4kgm(465Nm)/1625-5550rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(ピレリP-ZERO)
燃費:13.1km/リッター(JC08モード)
価格:756万円/テスト車=778万円
オプション装備:アルミホイール 5アームローターデザイン マットチタンルック ポリッシュト8J×19(4万円)/Sスポーツシート(フロント)(10万円)/カラードブレーキキャリパー レッド(5万円)/プライバシーガラス(6万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:3890km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:274.0km
使用燃料:27.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.1km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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