三菱eKカスタムT Safety Package(FF/CVT)
“飛び道具”が欲しい 2015.12.22 試乗記 発売から約2年を経て、燃費、走り、装備、デザインと全方位的な大幅改良を受けた「三菱eKワゴン/カスタム」。競争が激化する軽市場において、独自の存在感をどれだけ示せるか。絶対的な性能だけではなく、市場における“立ち位置”も含めてチェックしてみた。【総評】着実に進化しているものの……★★★☆☆<3>
「Just Your Partner」、これがこのクルマが発売された際の商品コンセプトだ。ダイハツやスズキ、さらにホンダが擁する巨大艦隊に挑むとなれば、日産と手を組むのが最もふさわしいということで立ち上げたNMKV(Nissan Mitsubishi Kei Vehicle)だが、企業規模から考えても、ライバルのように多品種を送り出す体力はまだない。しばらくは、このeKワゴン/カスタムとスーパーハイトワゴンの「eKスペース」だけで勝負をしていかなければならない。
それでも、度重なる改良によってNMKVが実直にクルマをレベルアップさせてきたのは事実だ。せっかくいいものを出しても、他社がすぐにそれを超えるものを出すのでキリがない。そんなイタチごっこは今に始まったわけではないが、eKシリーズはもう少し評価されてもいいと思う。
特に今回の大幅改良では、デザイン、燃費、そして安全機能を進化させてきた。すでにアクティブセーフティーの領域では「FCM-City」(低車速域衝突被害軽減ブレーキシステム)やオートライトコントロール、マルチアラウンドモニターなどが採用済みだったが、今回は軽自動車初となる、夜間走行時にハイビームからロービームへの切り替え、ハイビームへの復帰を自動で行う「オートマチックハイビーム」を搭載。この領域における着実な進歩を見せた。
走りに関しては、自然吸気(NA)モデルであっても普段の買い物の足としては不足なく、ターボモデルであれば動力性能に余裕があるのでダウンサイザーの要望にも応えてくれる。乗り味も初期モデルと比べてかなり向上しており、コーナリング時の路面に対するタイヤの接地感を向上させつつ、路面からの突き上げについては“角が取れた”仕上がりになっている。
このように、冒頭で触れた商品コンセプトの通りに日々のパートナーとしては十分な出来栄えのeKワゴン/カスタムだが、ライバルとの関係を考えると、もうひと押しできる「飛び道具」、つまり「セリングポイント」が欲しい。スポーティーな装備を備えたスペシャルモデルでもいいし、他社を確実にリードできる先進安全技術でもいい。デザインについて今以上の大きな進化が望めないのであればなおのこと、こうした部分をより強化してほしいと感じた。
<編集部注>各項目の採点は5点(★★★★★)が満点です。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
三菱自動車と日産自動車が50%ずつ出資して誕生したNMKVの第1弾モデルとして、2013年6月に発売されたのがeKワゴン/カスタムである。NMKVはクルマの企画と開発を行う会社で、両社から人材を集め、それぞれが持つ技術や知見を集約させることで、効率よく優れた軽自動車を世に送り出し、好調な市場に打って出ようという狙いがあった。
パートナーとなる日産自動車も「デイズ」という名で商品を展開しているが、両モデルの間に大きな違いはない。ちなみに日産は軽自動車の生産ラインを持っていないので、生産自体は三菱の水島製作所で行われる。
過去に細かな改良が行われてきたeKワゴン/カスタムだが、今回はエクステリアや安全装備を大幅に改良。かねて要望の高かったeKワゴンにターボモデルを設定するなど、商品力を大幅に強化させている。
(グレード概要)
今回試乗したのは、eKカスタムの最上級グレードとなる「カスタムT Safety Package」。現在、デザイン面でも改革を行っている三菱は、2015年6月の「アウトランダー」のビッグマイナーチェンジから新しいフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」を採用しており、eKカスタムでも同様の手法を取り入れることで、フロントまわりの意匠を大きく変更した。バンパー左右下部に配置されたLEDイルミネーションやクロムメッキの積極的な採用などは、昨今よく見られる手法ではあるが、従来以上に押し出し感が強くなり、存在感はかなり増したと言っていいだろう。またアルミホイールのデザインも変更となっており、今回試乗したカスタムT Safety Packageには、ダークグレーの塗装と光輝切削処理を組み合わせたスポーティーな意匠のものが装備されている。
【車内&荷室】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★☆☆<3>
前席のカップホルダーなど、収納スペースはひと通りそろっている。また意外と気づかれていないところだが、今回の改良ではセンタークラスターの下にオープントレーを設置。気楽にスマートフォンなどの小物が置けるようになったあたりは、時代の流れなのだろう。試乗したT Safety Packageのステアリングホイールには、部分的ではあるがピアノブラック&メッキ塗装でアクセントを加えるなど、他グレードとの差別化を図っている。
また、eKシリーズといえばタッチ式の空調パネルが売りのひとつ。各スイッチの大きさを統一したコンソールの見た目は美しいのだが、操作を考えると、使用頻度に応じてもう少しスイッチのサイズに差をつけてもいいのではないかと思う。これ自体は発売された時から気になっていた点であり、現行モデルが販売されている間には変更はないだろうが、次世代モデルでは期待したい部分ではある。
(前席)……★★★☆☆<3>
eKカスタムの室内は、人気のブラックを基調としたデザインとなっている。今回の改良では、シート生地自体をスエード調に変更。今回テストしたeKカスタムはブラックのファブリックだが、eKワゴンではブラウン&アイボリーのトリコットを採用している。また今回からeKワゴンでもブラックインテリアをメーカーオプションで選択できるようになった(除く「E」グレード)。
シート自体はベンチタイプで、ハイトアジャスターやアームレストなども装備されている。座面サイズはほぼ標準的なもので、腰部周辺のサポート性も可もなく不可もなく、というところだろうか。
(後席)……★★★☆☆<3>
後席は170mmのシートスライド量を持ち、最後端まで下げれば足元にはかなりの余裕ができる。ただしスライド自体は一体式、つまり左右の席を独立して動かすことができない。兄弟関係にあるeKスペースはもちろん、他社のライバルも分割式を採用してシートアレンジの多彩さをアピールしていることを考えると、商品力はやや不足気味だ。
一方で、リクライニングのピッチは細かく、自分の体形や好みに応じて背もたれを適切な角度に調整できる。
細かく言えば、少しフロアが高いので、座ると大腿(だいたい)部が持ち上がり気味になるのが気になるところだが、それ以外は快適。寸法に制約のある軽自動車では仕方のないことだが、サスペンションのほぼ真上に後席がきてしまうこともあり路面からの突き上げはやや大きい。それでも、普段使いであれば乗り心地は十分である。
(荷室)……★★★☆☆<3>
地面から荷室床面までの高さは標準的で、重いものを積載する場合でもそれほど苦労はしないはずだ。リアシートにはワンタッチフォールディング機構が付いており、リアゲート側から簡単に荷室を拡大できるのが便利。それでも完全なフラットにはならないのが少し残念だ。サスペンションの出っ張りが少ないので、室内幅をほぼいっぱいに使える点は良いと感じた。
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【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)…………★★★☆☆<3>
ターボエンジンを搭載する今回の試乗車は、普段使いから高速道路を使った遠出までカバーできるだけの必要十分な動力性能を有している。エンジンマネジメント制御の見直しによるアクセルオン/オフ時のギクシャク感の解消などは、前回の改良時に済んでいるものなので、今回は大きな変化はない。アクセルに対するレスポンスは十分。遮音性能も標準的と言ったら失礼かもしれないが、高速走行時も快適で、スロットルを大きく開いた際のノイズの侵入も及第点だ。
(乗り心地+ハンドリング)…………★★★☆☆<3>
フロント/ストラット式、リア/トルクアーム式3リンクというサスペンション形式は変更なし。ターボ車ではフロントブレーキがベンチレーテッドタイプになる点も同じだ。今回、ショックアブソーバーの減衰力を最適化したことにより、高速道路のギャップを乗り越えた際などに前席で感じる突き上げが少なく感じられるようになった。またステアリングの重さや切り込んでいった際の感触は素直なもので、誰もが使いやすい。
(燃費)…………★★★☆☆<3>
オートストップ&ゴー、いわゆるアイドリングストップ機能を今回4WD車とターボ車に新たに設定した点は評価したい。もともとこの機構には、減速していって車速が約13km/h以下になるとアイドリングストップが作動し、さらにエネルギー回生により発生した電気を電装品へ供給するアシストバッテリーも装着されている。アイドリングストップからの再始動時の音もそれほど気にならないレベルだし、機能としては優れているのだからもっと積極的にアピールすればいいと常に感じている。
この機構の搭載により、ターボモデルのFF車に関しては燃費がこれまでより2.8km/リッター高い26.2km/リッターへと大きく向上した(いずれもJC08モード)。今回の試乗では、2名乗車&撮影機材の積載という条件のもとに高速道路をひた走った結果、実燃費はドラコンで16.6km/リッター、満タン法で16.0km/リッターとなった。走り方がかなりハイペースだったこともあるので、実際の使用ではもう少し燃費を伸ばせるだろう。
(文=高山正寛/写真=荒川正幸)
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テスト車のデータ
三菱eKカスタムT Safety Package
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1620mm
ホイールベース:2430mm
車重:870kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.0kgm(98Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:26.2km/リッター(JC08モード)
価格:160万560円/テスト車=181万1310円
オプション装備:メーカーオプションなし ※以下、販売店装着オプション ETC車載器(2万4451円)/フロアマット(1万9569円)/専用ワイド2DINナビゲーション<ハイスペック>(16万6730円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2171km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:268.0km
使用燃料:16.7リッター
参考燃費:16.0km/リッター(満タン法)/16.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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高山 正寛
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