プジョー208GTi by PEUGEOT SPORT(FF/6MT)
“武闘派”じゃなくても 2016.03.21 試乗記 プジョーのBセグメントホットハッチ「208GTi」に、同社のモータースポーツ部門が鍛えた「by PEUGEOT SPORT」が登場。“実戦”のノウハウが投入されて、208GTiのフットワークはどう変わったか? 専用チューンの足まわりがかなえた走りをリポートする。プジョーのモータースポーツ部門が鍛えたGTi
プジョー広報部のあるフロアで簡単なレクチャーを受け、1階の駐車場に案内される。エッ、銀色なの!? ボディー後部だけを赤に塗り分けた派手な黒/赤ツートーンを期待していたので、ガッカリした。すぐペースカーに使えそうなイメージカラー“クープフランシュ”はまだ導入されていないという。
だが、試乗車の「アイス・シルバー」もタダモノではない。スゴみのあるつや消しのグレーである。先代「スマート・ブラバス」に一時、つや消し塗装があった。コンパクトクラスではそれ以来ではないだろうか。
208GTi by PEUGEOT SPORT。昨年のフェイスリフトで新設されたこのモデルは、プジョーのモータースポーツ部門、プジョースポールがプロデュースする208GTiである。
200psから車名と同じ208psに微増した1.6リッター4気筒ターボはストックのままだが、トルセンLSDを組み込み、サスペンションやブレーキをGTiよりさらに強化した。ミュールーズ工場でライン生産されるのは同じだが、プジョースポールのテイストに染まったとっておきのGTiである。
右側のドアを開けたら、ステアリングがなかった。運転席は左側。右ハンドルは生産されていない。「ルノー・ルーテシア」の「ルノースポール」は2ペダルのデュアルクラッチ変速機だが、208GTiは6段MT。左ハンドル/マニュアルの“本国仕様”で乗れるのもGTiスポールの“引き”になるだろう。
乗り心地は硬いが、荒っぽさはない
208GTiは全然ガチガチではない。ホットハッチとしてはむしろしなやかと言っていい足まわりがノーマルGTiの魅力のひとつである。
しかし、さすがにスポールは硬いのだろうな、という期待は、走りだすなりかるく裏切られた。たしかにサスペンションはよりスポーティーに固められている。17から18にインチアップされたタイヤのせいもあり、シャシーのカロリーが高くなった感じは歴然だが、かといって乗り心地に荒っぽさはない。上等なダンパーが付いていることをうかがわせる上質な硬さである。
シートは体の当たり面にアルカンターラを張った特装品。このスポーツシートも乗り心地のよさにひと役買っている。サイドサポートはしっかりしているが、窮屈ではない。リフターも付いている。
GTiを含めて右ハンドル208のドライビングポジションに不満を感じたことはないが、今回、初めて左ハンドルに乗ってみると、やはりオリジナル設計はこちらだと思った。体の左側に余裕があって、よりゆったりしたポジションがとれるのだ。特に全長4mをきる208はBセグメントコンパクトハッチのなかでもコックピットの小さいクルマだから、こうしたわずかな余裕が効く。大柄なドライバーなら、アメニティーの点では間違いなく左ハンドルを好むはずだ。
エンジンには手が入っていないはずだが……
BMWと共同開発した1.6リッター4気筒ターボを208psまでチューンしたエンジンは、ノーマルGTiと同じである。下からトルクがあって、高回転も好む。レブリミットまで回すと、ローで58km/h、セカンドでは109km/hまで伸びる。6段MTのギア比やファイナルにも変更はない。
だがワインディングロードへ踏み入れると、そのテンロクターボにもプジョースポールの手が入っているように感じた。シャシーの強化とトルセンLSDのおかげでトラクションが増し、コーナリングスピード、特に脱出速度が速くなったからだ。スポールの真骨頂である。
しかし、トラクションが向上したおかげで、わずかだがトルクステアも感じられるようになった。ステアリングも重くなった。ひとことで言うと、「パワフルなFF」っぽくなった。まさにそれがプジョースポールの狙ったところだろうが、一方でノーマルGTiのかろやかで爽やかなコーナリングマナーも捨てがたい。エモーションを楽しみたいなら、普通のGTiを積極的に選ぶ価値があると思う。
田舎道でUターンした時、アレっ、小回りがきかなくなったと思って調べたら、GTiでは5.4mだった最小回転半径がスポールは5.6mに増えていた。フルサイズのスペアタイヤが、パンク修理キットに取って代わったのも残念である。サーキットユースが増えそうなスポールこそスペアタイヤを積んでもらいたい。
絶妙なセッティングの足まわり
「205GTi」に始まる歴代プジョー200シリーズのホットハッチのなかで、最もトンがっていたのは、「206」の後期にあった「RC」である。楽しいクルマだったが、足まわりはおそろしく硬かった。
GTiスポールもあれくらいのガチガチ足を想像していたが、乗ってみると違った。平日のタウンユースも週末のサーキットランも両立できるうまいセッティングだ。常に肩をイカらせていた206RCと比べると、プジョーのホットハッチづくりは進化したなあと痛感する。
208スポールは368万6600円。タダのGTiより47万円ほど高い。エンジンに手を入れないわりにはお高いと思うかもしれないが、プジョースポールの仕事が、結果としてエンジンをチューンしたようにも感じさせてくれることは先述したとおりである。たまにサーキットも走ってみたいという武闘派でなくとも、208GTi食らわばスポールまで、という選択はアリである。
カテゴリー上のガチンコライバル、ルノー・ルーテシア ルノースポールとの比較ではどうか。ルーテシアは5ドアで2ペダル、そして右ハンドルという親切スペックだから、実際のところ208スポールと比べる人はいないのではないか。個人的には、見るならルーテシア、乗って楽しいのは208だと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
プジョー208GTi by PEUGEOT SPORT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3975×1740×1460mm
ホイールベース:2540mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:208ps(153kW)/6000rpm
最大トルク:30.6kgm(300Nm)/3000rpm
タイヤ:(前)205/45R18 86Y/(後)205/45R18 86Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:15.6km/リッター(JC08モード)
価格:368万6600円/テスト車=395万1860円
オプション装備:208専用SDカードメモリーナビゲーション(18万3600円)/ETC車載器(1万260円)/テクスチャーペイント(7万1400円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1948km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:478.0km
使用燃料:36.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.1km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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