第443回:“荷台付き”にモテ期到来!?
これが欧州のピックアップトラック事情だ!
2016.04.01
マッキナ あらモーダ!
サニトラの魅力、ふたたび!?
長寿車ファンのボクにとって、2代目「日産サニートラック」、通称サニトラは、好きなクルマのひとつだ。
東京の自動車雑誌の編集部で働き始めた頃のことだ。1971年に登場した2代目サニートラックは、当時すでに18年目を迎えていた。
ある日、ボクは仕事中に「サニトラといえば、米屋さんっすよねえ」と何気なくつぶやいた。すると、それを聞いていた先輩がいきなりボクに向かってたんかを切った。「米屋で悪かったな!」。あわてて仲裁に入ってくれた上司によると、先輩は米穀店の御子息だった。
当時は、世の人々が「シーマ」や「フィガロ」をちやほやしていた時代だ。そうした中、同じメーカーの製品と信じられないくらい朴訥(ぼくとつ)かつ実直な姿で、米屋さんをはじめさまざまな仕事を支えるサニトラの姿に、ボクは引かれていたのである。後輪の脇から半楕円(だえん)リーフスプリングがちらつくたび、見てはいけないものを見てしまったかのように、萌(も)えたものだった。
その2代目サニートラックは、ボクがイタリアに移り住んだあとも、2008年に37年のモデルサイクルに幕を閉じるまで生産され続けた。
「そうしたピックアップトラックが、近い将来イタリアでブームになるんじゃないか?」というのが、今回のお話である。
欧州はいまピックアップ・ラッシュ
2016年3月のジュネーブモーターショーで、FCAの商用車部門であるフィアット・プロフェッショナルは、ピックアップトラック「フルバック」を展示した。2015年11月のドバイモーターショーで発表されたもので、2016年5月からは、欧州、北アフリカおよび中近東地区での販売が予定されている。
フルバックは「三菱トライトン」の姉妹車だ。2014年9月に締結されたOEM生産契約により、三菱自動車のタイ工場で生産される。
同車には、「シングルキャブ」「エクステンド」「ダブルキャブ」のボディータイプがあり、最も積載量が多いモデルは1.1トン積み。ジュネーブで公開されたダブルキャブのショーカーは、最高出力180psの2.4リッターディーゼルターボエンジンが搭載された4WD、5段AT仕様だった。フィアット・プロフェッショナルは、このフルバックを「都市部のユーザーが郊外でレジャーを楽しむためのツール」として、プロモーション展開する考えだ。
ライバルもピックアップに大きな期待を寄せている。フォルクスワーゲンは、アルゼンチン工場で生産を開始し、のちにドイツのハノーバーでも作られるようになった「アマロック」を、欧州市場に投入している。
ルノー日産グループのダチアは、2015年6月にブエノスアイレスショーで「ダスター オロチ ピックアップ」を発表した。それに続けて、ルノーブランドもコンセプトカー「アラスカン」を2015年9月に公開している。ダイムラーもまた、ルノー日産のコンポーネンツを活用したピックアップを開発すると、2015年春発表した。
SUVブーム/クロスオーバーブームの次は、ピックアップトラックが流行するのか? と思わせる勢いである。アメリカ自動車カルチャーの風が、大西洋を越えて欧州にもやってきたのだろうか?
イタリアならではのピックアップ事情
ところがイタリアでは、ピックアップの立ち位置は、やや微妙であるという。詳しい話を聞くべく、スズキと三菱を扱っている地元ディーラーに足を運んだ。
イタリアでピックアップトラックは、原則として“アウトカッロ”という商用車登録が適用される。ちなみに、このアウトカッロに相当するかどうかは、最高出力と最大積載量、車両重量を元にした計算結果で判断される。
ディーラーのおじさんは説明する。
「アウトカッロ登録のメリットとしては、法人や自営業者の場合、購入費用のうち、付加価値税分の経費として還付される割合が、極めて大きい点が挙げられます」。業務用のみの使用と認められれば、100%還付される。イタリアの付加価値税率は22%。それが免税になるわけで、相当ありがたい。もちろん、法人や自営業者でなくてもピックアップを購入できる。ただし、後日知人の税理士に確認したところ、その場合は「付加価値税の控除は適用されない」とのことだった。
ディーラーのおじさんは、こうも語る。
「アウトカッロだと、年1回払う自動車税も、乗用車のおよそ半額になるんだよ」
自営業者が多いイタリアで、こうした恩恵を受けられる人は多いはずだ。ただ、その一方でデメリットもある。
「自動車保険は割高になるんだ。業務用の場合、家族ではなく、複数の従業員が使用するとみなされるからね」。
さらに、こんな法的制約もある。イタリアではピックアップを業務用として登録した場合、「厳密にいうと、社長が社員でない奥さんを乗せるのは、業務目的外の使用ということでアウト」。子供の学校送迎に使うのもアウトだ。
いっぽうで、社員が借りてレクリエーションに用いるのはぎりぎりセーフ、という。実際には、それも、いくつかの解釈や判例が入り乱れてのこと。なんとも難しいのである。
なにかと取り締まりを強化して反則金を稼ごうとする関係当局が少なくないイタリアで、こうした状況のアウトカッロと付き合うのは、精神衛生上あまりよろしくない。
条件がそろえばブームの予感
ボク自身、イタリアにおける自動車環境を考えてみると、盗難の問題は無視できない。多くの国で共通するピックアップトラックのメリットは、さまざまなものを気兼ねなく荷台に搭載できることだ。
だが、イタリアでマウンテンバイクなどレジャー用品を搭載して駐車しておけば、たちまちイタズラされたり、盗まれたりしてしまうだろう。イタリアで自分のクルマのホイールキャップやワイパー(2回)、最近はアンテナまで盗まれたボクとしては、想像するだけでもビビってしまう。
ディーラーのおじさんによれば、現在のところピックアップのメインユーザーは、農園、造園業者、そして運送業者などとのことだが、あらゆるプロユースに向くわけではないようだ。以前、第309回に「プジョー206」のバン仕様愛用者として紹介したエレベーター保守管理業のシモーネ氏も、「工具を盗まれるのが怖いから、ピックアップはわが社には向かない」と言っていた。
イタリアでピックアップがファッションになるには、そうしたさまざまな要素が克服されなければならない。だが逆に、メーカーによる当局への働きかけ次第では、そして前述のややこしい法律がクリアになれば、ピックアップブームに火がつく可能性もあろう。
ちなみに、映画のシーンで真っ先に思い出すピックアップトラックは、『マディソン郡の橋』で『ナショナル・ジオグラフィック』のフォトグラファー役だったクリント・イーストウッドが乗る、1960年製の「GMC 1500」である。
日本の自動車雑誌界では、「売れっ子カメラマンかどうかは、乗っているクルマでわかる」という不文律が、かなり前からあるのではないかと思う。でも、ボクの中では、ラブストーリーの中の、ちょっと枯れたイーストウッドと、同様にちょっと枯れたピックアップが、この世で最もカッコいいカメラマンとクルマの組み合わせなのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA> /写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、日産自動車、FCA、ルノー)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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