スバルBRZ S(FR/6MT)/スバルBRZ GTプロトタイプ(FR/6MT)
エンジニアに敬意を表したい
2016.07.05
試乗記
スバルのFRスポーツカー「BRZ」が、デビュー5年目にしてビッグマイナーチェンジを受けた。エンジン、ボディー、足まわりと、いたるところに改良を施したエンジニアのもくろみとは? クローズドコースで試した走りの実力を報告する。
スポーツカーとは“心で乗る”もの
「ん?」「あれ?」とやや驚き気味の自分だったのは、スバルBRZのステアリングを握るのが、年単位で久しぶりだったからだ。
2012年の2月に発売前の最終試作車に試乗させてもらって以来、僕はBRZにとてもいい印象を持ち続けていた。サイズ的にも重量的にもライトウェイトスポーツカーとは呼べないが、それらと同じくらい気軽に乗ってでることのできる扱いやすさと実用性があり、それでいてスポーツカーとしての懐が思いのほか深く、走らせることそのものが楽しい。とりわけ持て余さない程度のパフォーマンスの高さ、そして結構な領域まで踏み込んでいったときのコントロールする楽しさと簡単には破綻しない安心感の絶妙なバランスは見事だな、と感じさせられたものだった。
それに、これはとても僕個人として尊重したいことなのだけど、作り手の「こうしたい!」がちゃんとそうなっていて、ドライバーに楽しさや気持ちよさを感じさせてくれるクルマに仕上がっていたのがよかった。現在の自動車メーカーに“作り手の顔が見える”ことを望むのは難しいけれど、それだけに“作り手の意志が感じ取れる”ことは大切であるように思う。スポーツカーは“心で乗る”ものなのだから。
ビッグマイナーチェンジが加えられた新しいBRZを走らせて「ん?」「あれ?」と感じたのは、もともと持っていた好印象が違和感に転じたからではなく、むしろ「ここがこんなふうに進化したのか」と感じることができたからだ。スペックの上では従来型と劇的な違いはないようだったが、“心で乗る”スポーツカーにとって何よりも重要な感覚的な部分が、さらに煮詰められていたように思えたのだ。エンジニアたちの「こうしたい!」が「もっとこうしたい!」に膨らんで、それがカタチになったのだろうな、とうれしくなった。
──と話を飛躍させるのはこれくらいにして、2016年7月5日に発表されたビッグマイナーチェンジ版について、説明しながら進めるべきだろう。
速さよりもドライブフィール
まずはエクステリアだが、もちろん基本的なシルエットに変更はない。印象が少し変わっているのは、航空機の翼端板にも似たフィンを左右の開口部に見ることができる、新デザインのバンパーのおかげだろう。顔つきが少し引き締まって、大人っぽく感じられる。個人的には、この新しい顔つきの方が好みだ。前後の灯火(とうか)類がLED化されているので、夜になるとさらに印象は変わるかもしれない。またフェンダーガーニッシュもよりシャープなデザインに変更され、アルミホイールやリアスポイラーにも手が加えられている。
インテリアに目を移すと、ここもそれほど派手に目を引く変更はないが、全体的に上質さを増した印象だ。当日の試乗車であり、この時点での最上級グレードとなる「S」では、メーターバイザーをはじめとした各部がレザー調となり、ややしっとりとした雰囲気を得たように感じられる。ステアリングホイールは径が少し小さくなり、形状も変わった。記憶が曖昧なので従来型との比較はできないが、握りやすく操作しやすいものに感じられたのは確かだ。上級グレードのメーターパネルには、4.2インチのマルチインフォメーションディスプレイが採用されている。これも情報がよく整理され、視認性にも優れていると思う。僕のような古いタイプには「ここまでデジタルじゃなくていい」とも感じられるが、これも時代の要求なのだろう。
単純にスペックシートを眺めて最も分かりやすいのは、6段MT仕様に搭載される2リッターのフラット4エンジンのパワーとトルクが、わずかだが向上していることだろう。最高出力は発生回転数こそ7000rpmのままだが、200psから207psへ。最大トルクも発生回転域を6400-6800rpmと上側に200rpm広げながら、20.9kgmから21.6kgmへと向上させている。この数値の変化は、マニホールドの長さやポートの拡大、吸気ダクトや吸気ブーツの形状変更など、主として吸気系の効率アップとそれに合わせた排気系の改良が施されたことによるもの。同時にエンジンブロックやピストンなど、各部の強化も行われている。
そうしたところからも推測できるように、今回のエンジンに加えられた改良はパワーやトルクの向上を狙ったものではない。それらの出方を変えることでフィーリングをさらによくすることを目指したものであり、数値はあくまでもその結果、と見る方が正しいだろう。
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いろいろなところが、より気持ちよく
実際に走らせてみても、その+7ps、+0.7kgmの差は僕にはあまり感じとれなかった。むしろサウンドがこれまでよりわずかに雄々しく歯切れよくなったように思えたこと、低速域での扱いやすいトルク特性はそのままに、トップエンド付近まで回していったときのトルクの落ち込みが小さくなって、元気よく走るときの楽しさが従来型以上に膨らんだことの方が印象深い。それでも加速がやや鋭くなった感じがあるのは、ファイナルのギア比が4.1から4.3へとローギアード化されていることが効いているからだろう。いや、相乗効果というべきか。加えられた改良のひとつひとつは大掛かりとはいえないが、それらの集大成で、エンジンとトランスミッションだけでも「ん?」とか「あれ?」がクチをつくぐらい、BRZはさらに気持ちいいスポーツカーに進化していたのである。
シャシーとボディーに加えられた改良も同様、地味なものばかりだ。エンジンルーム内のタワーバーの取り付け部を強化したり、リアのホイールハウスに補強を加えたりすることで車体の剛性を上げているということだが、もともとBRZのボディーはかなりシッカリしていたわけだから、それらはサスペンションの改良をより効果的に生かすためのものと考えていいだろう。ダンパーは内部のバルブ構造を変えるとともに減衰力も変更、スプリングのレートを変えて、リアのスタビを少し太く。サスペンションに加えられた改良も、地道といえば地道だ。
けれど、それらはちゃんと実を結んでいる。まず、乗り心地がいい。BRZはもとよりガチガチな乗り味とは程遠かったけれど、従来型よりよくなってるんじゃないか? と思えるほどにしなやかだ。その上質な感じが、また「ん?」だったり「あれ?」だったりしたわけだ。もうひとつは、ステアリングの操作に対してクルマがより敏感に反応してくれること。コーナーでは従来型同様適度にロールしてくれるのだが、そこに至るまでの、またそこから戻るときの反応がいい。しなやかだけど軽快という、イタリアやフランス辺りの欧州製スポーツモデルを思い起こさせるようなフィーリング。それが素直に気持ちいい。
エンジニアの意志が感じられる
もうひとつ「ん?」というより「お!」だったのは、元気よく走っているときのVDC(ヴィークルダイナミクスコントロール)の制御が、より遊べる方向にシフトしたことだ。もちろん「トヨタ86」と比べれば基本的にはアンダーステア方向というか安定方向にセットされているのだが、後輪駆動の特権でリアタイヤをコントロールしながら走る楽しみが得られるのもBRZの醍醐味(だいごみ)。その幅が広がった。従来型よりも制御が入るタイミングが奥に行き、以前なら「もう入っちゃったの?」という辺りを超えてスライドを許容してくれる。さらに新たに“TRACK”モードが加わって、そちらではもう少し深いところまで介入を待ってくれる。
タイヤがグリップを手放そうとするときの動きは従来型同様とても分かりやすいし、VDCが介入して安全な方向に引き戻してくれるときの動きにヤル気をそぐような感じもないから、あくまでも楽しめる幅が広がったと考えてもらっていいだろう。後ろを滑らせることばかりが後輪駆動の楽しみだとも思わないけれど、楽しさが膨らむのは素晴らしいことであり、飽きずに乗り続けられるひとつの要素であるのも確かだ。
0-100km/h加速がどれくらい速くなったのかは分からない。コーナリングスピードがどれほど上がっているのかも分からない。おそらく目を見張るほどの違いはないんじゃないか? と思う。けれど、ドライバーとしてクルマから与えられる感覚的なものは、結構変わっている。要はより気持ちよく、より楽しさを濃く感じられるようになったのだ。それがエンジニアたちの「もっとこうしたい!」だったのだろう。地道な作業を積み重ねてBRZを奇麗に熟成させてきたスバルのエンジニアたちに、僕は敬意を表したい。……本当にクルマが好きな人たちなんだな、という思いとともに。
これぞベスト・オブBRZ
そしてもう一台、2016年の秋に発売される予定になっているモデル「BRZ GT」のプロトタイプにも触れることができた。GTはSの上に置かれる最上級グレードとなるモデルということだが、グレードアップが図られている部分が足まわりとブレーキ、というのがスポーツカーらしい。具体的にはSをベースにザックスのダンパーとブレンボのブレーキ、専用のホイールが組み込まれている。
ここでも「ん?」ではなく「お!」と思わされたのは、乗り心地が想像していたよりも断然よかったこと。ダンパーを換えてくるなら当然ガッチリと締め上げる方向にシフトしていることを想像するわけで、走らせてみたらもちろん通常のモデルよりも引き締められている感覚があるのも確かなのだが、その脚が滑らかによく伸び縮みしてくれるおかげで不快さのようなものがない。路面の凹凸を巧みに吸収しながら伝えてくれる感じで、乗り味の上質感が増した印象だ。パキパキした子供っぽさのようなものはみじんもない。
コーナリング時の立ち居振る舞いも、Sよりさらにいい。ロールはBRZらしく柔軟性を伴っているが、ロール量はSよりも小さくロールスピードも速くなっている感覚。クルマの動きもさらにつかみやすくなり、操作に対するクルマの反応もさらに素早くなっているから、“自在感”がより強く感じられる。ブレンボのブレーキは制動力はもちろん、踏力(とうりょく)調整をしやすい=荷重調整をしやすいのが最も大きなメリットで、ブレーキングで狙ったとおりに曲げていくための姿勢を作りやすい。
つまりGTは乗り心地もハンドリングも一段階高いところを狙ったモデル、といえる。現段階ではプロトタイプではあるが、このモデルこそがベスト・オブBRZなんじゃないか? と思わされた。夏を越えて秋を迎え、いよいよ発売という日までの間にこのプロトタイプがさらにどう進化していくのか、とても興味深い。
(文=嶋田智之/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
スバルBRZ S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1775×1320mm
ホイールベース:2570mm
車重:1240kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:207ps(152kW)/7000rpm
最大トルク:21.6kgm(212Nm)/6400-6800rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:11.8km/リッター
価格:297万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:693km
テスト形態:トラックインプレッション、ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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スバルBRZ GTプロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:--mm
車重:--kg
駆動方式:--
エンジン:--
トランスミッション:--
最高出力:--ps/--rpm
最大トルク:--kgm/--rpm
タイヤ:(前)215/45R17 87W/(後)215/45R17 87W(ミシュラン・プライマシーHP)
燃費:--km/リッター
価格:331万5600円(市販車の予定販売価格)/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:736km
テスト形態:トラックインプレッション、ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

嶋田 智之
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