アストンマーティンDB11(FR/8AT)
次世代を見据えて 2016.08.06 試乗記 2016年3月のジュネーブショーで世界初公開された、アストンマーティンの新しい基幹モデル「DB11」。完全新設計のアルミプラットフォームに独自開発の5.2リッターV12ツインターボエンジンを搭載した、新世代のグランドツアラーの出来栄えを確かめた。複雑に見えて実はシンプル
つい先日も「ヴァンテージGT8」と「ヴァンキッシュ ザガート」というリミテッドモデルが日本でお披露目されたアストンマーティン。一体どのモデルが何を目指しているのかがよくわからないという読者も少なからずいらっしゃるかもしれない。
実は彼らのモデルレンジはすっきりと3つのカテゴリーにくくられる。「スポーツ」としてくくられるのはショートホイールベースでコンパクトな体躯(たいく)に収められた「ヴァンテージ」系。ダイナミックなスタイリングとポテンシャルを与えられた「ヴァンキッシュ」系は「スーパー」としてくくられ、スーパーカーカテゴリーにいるあまたのライバルと対峙(たいじ)する。そして、その間を取り持つ「GT」系として据えられるのが「DB」系だ。
このカテゴライズは21世紀に入るや否や、初代ヴァンキッシュの登場とともに確定し、以降、揺らいだことはない。「DBS」だの「V12ヴァンテージS」だのと展開された派生車種もすべてこの趣旨にのっとっている。時に「ヴィラージュ」だの「ラピード」だのとセグメントしづらいモデルもあったが、これらはDBの系譜に属するとみていいだろう。あるいは時折現れる「One−77」のような“とんでもモデル”は、フェラーリでいうところの「スペチアーレ」に同義で、これはスーパーカービジネスにおいて周辺への示威として欠かせないものだ。
ラインナップの中核に位置するモデル
ちなみに今回、試乗会に来ていたボードメンバーに今後のポートフォリオを尋ねてみたが、この三本柱は今後も変わることはないとのことだった。そしてラピードを超える高級4ドアサルーンを「ラゴンダ」名義で、さらにうわさの絶えないSUVも開発を継続しており、2020年前後の上市をもくろんでいるという。
それでも氏が強調するのは、DBこそがアストンマーティンのセンターピラーだということだ。後述するメカニズムに関しても然(しか)りながら、最も重要なのはそのコンセプトに関してである。巷間(こうかん)のスーパースポーツと対峙する速さを秘めながら、あくまでアストンマーティンのクーペとしての美観と豪奢(ごうしゃ)を達成することが優先され、運動性能においてもライドコンフォートを犠牲にすることはなく……と、つまりはアンダーステートメントの象徴としてDB11は君臨している。ジェームズ・ボンドが劇中で、同じアストンマーティンでも羽根を背負ってやる気満々のGT8に乗ることはないだろう。イギリスの伝統や文化をその向こうに垣間見るオーナーたちにとっても、DBが本筋であるという意向に異論はあるまい。
新しいDBとなるDB11の車台は、ボンディングやリベットで構成されるVHアーキテクチャーの最新型で、アルミ鋳造や三次元プレス成形の部品の使用領域は見るからに拡大している。特にカウルからAピラーまわりにかけて、そしてリアサスまわりの剛性が高められているが、武骨なブレースの類いが這(は)いまわることもなく、骨格設計は今後の発展性もうかがえるスッキリとした印象だ。サスペンションは前ダブルウイッシュボーン、後ろマルチリンクで、アダプティブ型のダンパーはビルシュタインのダンプトロニックを継承するが、最新世代のそれは「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」と3モードのダンピングレートが選択できる。
インテリアに見るアライアンスの影響
搭載されるエンジンは新設計の60度バンク5.2リッターV12直噴ツインターボとなり、両バンクの下部に用いられるタービンは三菱重工製、電子制御式のウエストゲートを備えたそれは608psを6500rpmという高回転域で発する一方、71.4kgmの最大トルクを1500rpmから発生する特性となっている。シリンダーは負荷状況や触媒温度に応じて片バンクを休止するアクティベーションが備えられており、巡航時の燃費向上に大きく寄与する。この新型エンジンの生産は従来通りケルンのプラントで行われ、これまでの自然吸気ユニットも当面は継続生産されるという。開発に関しては100%自社製とされ、他社の関与については「ピストンはマーレだけどね」程度のコメントしか取ることができなかった。以前からのコスワースとの関係や、AMGとの技術協力など察するところもあるが、完全自社設計・生産の12気筒ユニットだとすれば、これはアストンマーティンにとっては画期的な投資ということになる。
一方で、アライアンスにまつわる影響がはっきりと見て取れるのが内装まわりだ。電動アシストのステアリングシステムについてダイムラーから技術供与を受けていることは明言されているが、それを裏付けるものとして、コラムまわりのレバーやスイッチ類、加えてインフォテインメントの操作系や階層デザインなど、メルセデスでなじみ深いそれが端々に見られる。察するに車内通信に関してもダイムラーのアーキテクチャーが多用されていることだろう。これにより整理されたハーネス類の減量効果も期待できるはずだ。ちなみにDB11の前後重量配分はエンジンをよりバルクヘッド側に押し込んだこともあって51:49とほぼ中立。トランスアクスルレイアウトも継承され、後軸側にはZF製の8段ATが収められている。乾燥重量は1770kgで、これは装備差等を勘案すれば「DB9」と変わらないところに収められているとのことだった。
エンジンのパフォーマンスは文句なし
内外装の意匠的な印象は大きく改められたが、そのプロファイルは誰が見てもアストンマーティンのそれ。DB9に比べるとメリハリは強いが、現代の自動車デザイン的な平均からみればギリギリのつつましさといえるだろう。一方でそのクオーターウィンドウ部にはエアインレットを付加、ここから導かれるエアは後端の可動式ガーニーフラップの後ろ側を流れ、高速域での整流に寄与するという。空力的意匠を極力表に晒(さら)さず、絶世のFRプロポーションを保っているというわけだ。
初出ともあって興味深かったエンジンのパフォーマンスは、ほぼ文句のつけようのないものだった。12気筒ならではのごく低回転域からの滑らかさに加えて、そこから湧き上がるトルクの分厚さ、そして自然吸気ユニットでは谷間にあたる3000~4000rpmの力強さは強烈で、これまでのモデルとはその速さが完全に一線を画していることがわかる。この辺りは、排気量低下と過給器の採用を単なるダウンサイジングとせず、トルク向上に主眼をおいたという彼らの狙いがしっかりと現れたところだろう。そこから向こう、レッドゾーンとなる7000rpm付近までの吹け上がりやパワーの乗り方にも頭打ちやネムさは感じられず、スッキリとしたサウンドと共に回す気持ちよさも十分に備わっている。また、この強力なパワーを支えるトランスミッションもタイトなしつけとなっており、そのダイレクトな駆動感はトルコンATとは思えないほどだ。今後のアストンマーティンを支えるまったく新しいパワー&ドライブトレインとして見ても、その出来は十分に合格点を与えられる。
今なおV12を搭載することの意義
一方で、やや煮詰め不足の感がうかがえたのがシャシーの側だ。コーナリングそのものは車格を思わせないほど軽やかで、その際のロール推移やブレーキングの姿勢変化もしっかりしている。つまり、その気になれば安心して飛ばせるクチであることは容易に察することができた。が、いかんせん強大なパワーを受け止めるロードホールディング性能は今ひとつで、全開時は3速でもホイールスピンを引き起こす。また、コンフォートモード時の乗り心地も若干ながら粗めに感じるのは、アルミフレームのアコースティック環境も影響しているかもしれない。いずれもサスペンションやトラクションコントロールのキャリブレーションで修正できる範囲だろう。特に電子制御に関してはモデルのキャラクター上、もう少し積極的に介入をさせてもいいのではないかと思う。が、アストンマーティンは常々、運動性能の構築に関しては頑固なところがあって、特に駆動系の電制縛りには慎重だ。それもまた、イギリスらしいといえばイギリスらしいが。
自動車を取り巻く次世代の環境が不透明な中、アストンマーティンはよくも12気筒にこだわったものだと思う。もはやそれはモータースポーツでも必要とされない、言ってしまえば単なる伝統工芸だ。もちろん速さうんぬんを抜きにして12気筒を嗜好(しこう)の最上に置くバンカラなクルマ好きもいるが、その数は時の移ろいとともに減ることになるだろう。それに反するように、趣味的な価値観において12気筒の意味合いは徐々に高まっていく。アストンマーティンは何もかもが新しいこのDB11の投入で、ハイブランドとしてのポジションを再びガッチリと固めたのではないだろうか。
(文=渡辺敏史/写真=アストンマーティン)
テスト車のデータ
アストンマーティンDB11
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4739×1940×1279mm
ホイールベース:2805mm
車重:1770kg
駆動方式:FR
エンジン:5.2リッターV12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:608ps(447kW)/6500rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1500-5000rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20/(後)295/35ZR20(ブリヂストン・ポテンザS007)
燃費:--km/リッター
価格:2380万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※価格は日本での販売価格、諸元は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。






























