トヨタ・プリウスPHV 開発者インタビュー
唯一無二のThe PHV 2016.09.04 試乗記 トヨタ自動車製品企画本部
ZF チーフエンジニア
豊島浩二(とよしま こうじ)さん
トヨタのプラグインハイブリッド車「プリウスPHV」がフルモデルチェンジ。2代目となる新たなエコカーに込められた思いとは? 発売を前に、開発責任者に話を聞いた。
初代の欠点はわかっていた
豊島浩二さんには、2015年の11月にもお話を聞いた。トヨタの次世代を担う技術「Toyota New Global Architecture」(TNGA)を初採用した4代目「プリウス」(プロトタイプ)の試乗会が行われ、驚異的な燃費とスポーティーな走りを実現したモデルについて語ってもらったのだ。自信にあふれていたが、「今回はあくまで1号車で、完成形ではありません」とも話していた。「プリウスPHV」が完成形なのだろうか。
「プリウスの3代目から4代目は“変化”、プリウスPHVは“進化”」だと言っています。燃料電池車(FCV)の「ミライ」も含めた環境3兄弟の中で、次世代の柱はPHVになると考えています。ミライはインフラの壁がありますから、まだ急速には普及しない。PHVは今のインフラで大丈夫なんです。ハイブリッドは変化したことで普通のクルマとして選んでもらえるものになりました。これで一段落だと思っています。2代目PHVは、プリウスがどちらの方向に行こうとしているのかがわかるモデルになりましたから、これでプリウスが完結したと言えます。
――4代目プリウスの時は、3代目のここがダメということをはっきり言っていましたね。今回は……。
初代PHVのダメな点も明確に言えますよ(笑)。1つ目は、ハイブリッドのプリウスとの違いが見えなかったこと。PHVのほうが高いんですが、パッと見てわからないというのは日本人的には絶対ダメなんです。外観も内装も上級だということがはっきりわかることを意識しました。
単なるワガママでないデザイン
(初代PHVのダメな点の)2つ目は、24.6kmのEV航続距離です。電気で走るのは楽しいけれど、ドーンと踏めば電気はなくなる。冬場になったら充電満タンなのにエンジンがかかっちゃうというのは、EVの走りを求める方にとっては納得できないことなんですね。暖房のために必要なことなのですが、それはわれわれの常識であってお客さんは冬でもEVで走りたいんです。
――内外装の差別化と電池容量の強化がカギだったんでしょうか。
もう1つあります。興味を持って販売店に買いにこられても、家で充電するには工事が必要だと知ると、お客さんは少し引きますね。販売員の方がひとつひとつ説明するんですが、すごく時間がかかって売れにくい。大いに反省しました。
――見た目ではリアのダブルバブルウィンドウがかなりのインパクトですね。
デザイナーの児玉がどうしてもやりたいと(笑)。理由はあるんです。フロントデザインは目を変えると違いが出ますよね。プリウスPHVはハイブリッドのプリウスよりミライに近い顔をしています。同時期に並行して開発していたので、同じものを使っているんですよ。リアはフロントに比べると差別化がしにくい。それで、ダブルバブルウィンドウという彼の案に乗ってしまいました。
――曲率が大きいので、生産技術的には難しかったのでは?
本当はもっと曲げたかったんですが、あれが限界でした。ガラスメーカーさんと一緒に試作品を作って、バランスを見つけるのに2年以上かかりましたね。視界がゆがまないことと生産できるということを考えて、あの形になりました。造形だけでなく、空力的な効果もあるんですよ。単なるデザイナーのワガママならば却下します。個人的な好みではなく、意味付けをして説明できることが大切です。まあ、ワガママをいかにモチベーションにつなげるかというのが僕の仕事なんですが(笑)。
重量増で上質感を演出
――バックドアはCFRP(炭素繊維強化樹脂)製ですが、ほかの部分にも使えなかったんですか?
CFRPも内製で、豊田市にある元町工場で作っているんです。「レクサスLFA」用の工房だったところですね。ほぼ一品料理、手作業なので、量産すること自体が生産技術的にも革新なんです。今回はバックドアでやってみました。CFRPを使ったことで、内側のトリムをなくしています。CFRPがむき出しになっているんですよ。そのままだとまだら模様になってしまうので、シボの形状もゼロから検討して最適なものを選びました。
――内装ではタテ型のディスプレイが目立ちますね。
タテ型かヨコ型かでは議論がありました。タテにした理由は2つです。ナビで使う場合は、タテのほうが進路の先のほうまで見通せますよね。もう1つはドライバーが手で触れるのに有利なこと。タッチ式ですから、手が届かなくてはいけません。実はこのディスプレイを4代目プリウスに装備することもできたんです。でも、差別化のためにグッと我慢してPHVまで待ちました。
――意匠は異なっていても、使い勝手は変わりませんね。
環境車というのは普及させなければ意味がないんです。操作方法が特殊だと、ごく一部の人には好かれるかもしれませんが、間口が狭くなってしまう。使い勝手に関しては、今までの普通の使いやすいものを提供する。外観はとっぴでも見慣れてくるものなんですよ。でも、使い勝手が悪いと慣れることはありません。
――プリウスとプリウスPHVでは走りの味付けは変えているんですか?
2台とも同じTNGAのプラットフォームで、ボディー剛性も変わりません。電池を多く積むので重くなるんですが、重量増を走りのよさにつなげようと考えました。電池は後ろにあるので前後の重量配分は2%ほど改善します。その分回頭性がよくなり、タイヤの接地感も上がります。重いと、ボディーはゆーっくり動くんですよ。軽いボディーだと軽快にキュキュっと。
――PHVはプリウスよりもミライの乗り味に似ている気がしました。
ミライも重量をうまく使って上質感を出しているんですね。物理的な法則で、ゆっくりした動きにするにはある程度の重さが必要なんです。コーナリングでの印象は重厚だし、荒れた路面ではゆるやかに動く。重いんですけど、EVで真っすぐ走っている時には軽さを感じるんですよ。
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未知数の魅力は白井選手と同じ
前回お話を聞いた時、豊島さんは「プリウスが目指したのは内村航平」と話していた。リオ五輪で個人総合2連覇を果たした日本体操界の至宝である。プリウスは燃費で一番になるとともに総合的な基本性能を向上させて総合優勝を目指す、という意味を込めた。ならば、プリウスPHVはどうなるのか。
難しいですね、えーっと……。今回は考えていなかったので(笑)。そうだ、あえて体操で言えば、“ひねり王子”の白井健三選手ですね。白井選手には未知数の魅力があります。プリウスPHVも可能性を秘めたクルマで、新しいクルマとして新たな道を開いていくわけですから。ただ、今回のコンセプトは「The PHV」という言葉でした。
――ずいぶんシンプルですね。
「the」という冠詞が付けられるのは唯一無二のものです。われわれは2003年からずっとPHVをやり続けていて、The PHVとしての姿を2代目で作り上げたいという思いがありました。PHVが主流になるべきというか、なってほしい。電気とガソリンで走るから、選択肢がある。電気だって事故があったりするし、仮に今すべての自動車が電気で走るようになったら、日本だけでも最新鋭の発電所を10基以上新設しなければなりません。電気も有限、石油も有限だから、バランスを取りながらちょっとずつ使うというのが社会のためになるんだと思います。
――欧米でもPHVが注目されていて、日本にも入ってきていますね。
ハイブリッドをすっ飛ばしていきなりPHVにきました。PHVで競争を始めようということでしょうから、われわれも受けて立ちます。アメリカの例で言うと、3万5000ドルから4万ドルを超えるあたりの価格帯が主戦場になっています。どのメーカーもそこに集まってくるでしょう。これから、本当の厳しい戦いになりますね。
白井選手が成功させた新技5つに「シライ」という名が付けられている。オリジナルであることの証明だ。The PHVであるために、豊島さんもたくさんの新技術に挑んでいくのだろう。
(インタビューとまとめ=鈴木真人/写真=田村 弥)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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