第368回:作り手も買い手もみんな笑顔!
「マーチ ボレロA30」に“幸せの法則”を見た
2016.09.23
エディターから一言
拡大 |
オーテックジャパンの創立30周年記念モデル「マーチ ボレロA30」が、いよいよオーナーのもとへ! 生産は3~4日で1台、職人が7人がかりで手作りするという、まさにオーテックでしか作れないこのクルマに、作り手と買い手の幸せな関係を見た。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
クルマを介して、作り手と買い手が幸せを共有する
「幸せなイベントだな」と思わず口にしてしまった。2016年9月16日金曜日に開催された「マーチ ボレロA30出荷式」を見ていたときだ。
このイベントは名称にもあるように、オーテックジャパンがこの春に発売したマーチ ボレロA30の出荷を見守るもの。何をするわけでもなく、できあがった完成車が工場を出ていくのを見るだけだ。それでも、このクルマを購入する予定の17組28人が、平日の日中だというのに、関東だけでなく山形や福島、三重、岡山、高知などから駆けつけたのだ。文字通りの熱心なファンである。
迎えたのは、マーチ ボレロA30の開発に携わった約60人のスタッフ。場所は、普段、出荷前の最終検査を行う作業場である。ほとんど倉庫のような急ごしらえの会場で出荷式は執り行われたのだ。
まずはオーテックジャパンの社長のあいさつ。次いで開発・生産担当者のあいさつへと続く。巨大なキーをオーテックジャパンの社長からユーザーへ渡すというセレモニーがあって、その後は完成車を前に記念撮影。最後に「3、2、1」のかけ声にあわせて始動したマーチ ボレロA30が会場を出て行くのを、皆で見送った。ここまでわずか20分ほど。
音楽も流れてなければ、派手な演出はなにもない。セレモニーに使った大きなカギはスタッフの手作り。会場も質素そのもの。それでも会場にいる誰もが笑顔である。駆けつけたファン、迎えたオーテックジャパン、そして取材するメディアのわれわれ。クルマという工業製品を間に、作り手と買い手が思いを共有する。素朴ではあったが、そんな素晴らしいイベントであった。
その体制は、まるで小さな自動車会社
オーテックジャパンは、非常にユニークな会社だ。日産の子会社として、日産の福祉車両(ライフケアビークル)やカスタムカーを年間5万台規模で生産している。自動車メーカーの生産委託を担う会社は他にもいろいろあるが、オーテックジャパンほどユーザーに親しまれている会社はないだろう。
創立は1986年。今年の9月17日に30周年を迎えた。特装車の専門会社としてスタートすると、イタリアの名門カロッツェリアであるザガート社との共同開発「オーテック ザガート ステルビオ」(1989年)など、魅力的なカスタムカーを数多くリリース。90年代には現在の日産ミニバンの人気シリーズ「ハイウェイスター」の原点となる「ラルゴ ハイウェイスター」を生み出す。その発展形である「ライダー」シリーズは、今もオーテックジャパンが生産を担当している。さらに「NISMO」シリーズの量産もオーテックジャパンの仕事だ。
一方、福祉車両(ライフケアビークル)も同社の看板のひとつ。日産で販売される福祉車両は開発から生産・販売&アフターフォローまで、オーテックジャパンが一手に担っている。
日産とは別会社であるという独自性を持ちながらも、日産グループの一員として連携を保ち、その上で少量モデルの開発・生産のノウハウを持つ。そんな特徴があるため、湘南にある本社工場には、板金や金属加工、組み立てといった工程だけでなく、ハーネス製作やシートの縫製部門、さらにデザインやエンジン実験といった開発部門までがそろう。開発から生産まで行える、小さな自動車会社ともいえる体制となっているのだ。
強い個性があればこそ、熱心なファンが生まれる
そんなオーテックジャパンが、自社の創立30周年を記念して、この春に発売したのが「マーチ ボレロA30」だ。オーテックジャパンの持つ、開発力、デザイン力、生産力のすべてを注いだスペシャルなマーチである。レースエンジニアが1基ずつ手組みする1.6リッターエンジンは、最高出力150ps(110kW)までブラッシュアップされた。巨大なオーバーフェンダーの下には、205/45R16サイズのタイヤと鍛造切削のオリジナルホールが収まる。もちろん走りの面でもオーテックジャパンの名を汚すことのないように、しっかりとシャシーもチューニング。同車専用のシートも用意されている。
そんなスペシャルな一台の価格は356万4000円。ベース車の2倍以上のプライスタグがつけられた。しかし、わずか30台という販売台数に対し、1カ月ほどの予約期間中に約20倍もの応募が殺到。厳正なる抽選を経て、30人のオーナーが生まれることとなった。オーテックジャパンというユニークな会社ならではの個性あふれるモデルであるからこそ、その魅力を認めるコアなファンが誕生するのだろう。
作り手と買い手の関係の土台には、常に個性的で魅力的なモデルがある。そして、それを生み出すオーテックジャパンのユニークさが、すべての幸せの根本となるのだろう。
(文=鈴木ケンイチ/写真=鈴木ケンイチ、webCG)

鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
-
第871回:今年もグリーンヘルは熱かった! ニュルブルクリンク24時間レース観戦記 2026.5.27 “世界一過酷な草レース”として知られ、今年も波乱が巻き起こったニュルブルクリンク24時間レース。F1王者のフェルスタッペンも参戦するとあって、大いに盛り上がったその様子を、世界を飛び回るモータースポーツカメラマンが臨場感満点でリポートする。
-
第870回:熱きホンダをとことん楽しむ これが「Honda All Type R World Meeting 2026」だ! 2026.5.15 「シビック タイプR」をはじめ、“タイプR”の車名を持つホンダの高性能車ばかりが集う、激アツのイベントが開催された。気になるその内容は? 会場となったモビリティリゾートもてぎの様子を詳しくリポートする。
-
第869回:思わぬサプライズもいっぱい! クルマ好きのための祭典「シン・モーターファンフェスタ2026」で“最旬ニューモデル”に触れる 2026.4.24 日本最大級の“クルマ好きのための祭典”「シン・モーターファンフェスタ2026」に、発売を間近に控えるさまざまな注目モデルが終結! 会場の様子や、そこで得られた最新情報をお伝えしよう。
-
第868回:ウエット路面での実力は? ブリヂストンの新スタンダードタイヤ「フィネッサ」を試す 2026.4.22 2026年1月に発表されたブリヂストンの「FINESSA(フィネッサ)」は、次世代の商品設計基盤技術「ENLITEN(エンライトン)」を搭載する最新のスタンダードタイヤだ。ドライ路面での試走報告に続き、今回は自慢のウエット性能をクローズドコースで確かめた。
-
第867回:ハイエースオーナー必見! スマホで操作できる可変ダンパー「KYBアクトライド」を試す 2026.4.22 KYBからスマートフォンのアプリで操作できる可変ダンパーシステム「ActRide(アクトライド)」が登場。まずは「トヨタ・ハイエース/レジアスエース」用からの展開となるこのシステムの仕上がりを、実際に試乗して確かめた。
-
NEW
第290回:商用バンで砂漠を行く親子が向かうのは天国か地獄か 『シラート』
2026.6.4読んでますカー、観てますカー失踪した娘を探して親子はモロッコの砂漠へ。砂漠で開催されていたレイブパーティーが最高潮に達した頃、軍隊がやってきて中止させられる。親子が乗るFFの商用バンは次のパーティー会場にたどり着けるのか……。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(前編)
2026.6.4あの多田哲哉の自動車放談ひさびさに日本市場に戻ってきた、ホンダを代表するSUV「CR-V」。最新世代の仕上がりを、トヨタの車両開発者だった多田哲哉さんはどう評価する? まずは、ワインディングロードを走らせた第一印象から。 -
NEW
第964回:フィアットグッズのコレクターから学ぶ人生訓
2026.6.4マッキナ あらモーダ!イタリア在住の大矢アキオが、トリノで著名なフィアットグッズのコレクターを取材。若き日の苦労を経て大成した人物が語る、人生で大切なものとは? フィアットやイタリアの歴史を物語る、貴重なコレクションの数々とともに紹介する。 -
NEW
気づけばすでに4モデル スバルのBEV戦略と水平対向エンジンの未来を考える
2026.6.4デイリーコラム「ソルテラ」に続き、「トレイルシーカー」「アンチャーテッド」「ゲッタウェイ」と、いつの間にか4モデルが顔をそろえたスバルのBEV。伝統的な水平対向エンジンやシンメトリカルAWDはこの先どうなるのか? スバルの未来戦略を探る。 -
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。





























