ルノー・トゥインゴ インテンス(RR/6AT)/スマート・フォーフォー ターボ(RR/6AT)(後編)
似て非なる兄弟 2016.10.11 試乗記 「ルノー・トゥインゴ」と「スマート・フォーフォー」、もともとは国籍もメーカーも違うコンパクトカーだが、この新型から基本構造を共有する“兄弟車”になったのはご承知のとおり。2台試乗の後編は比較テストである。トゥインゴとフォーフォーを乗り比べ、それぞれの特徴を明らかにする。タイヤが生む大きな違い
トゥインゴからスマートに乗り換えると、まったく別の車に乗り換えたように感じる。外観や内装の好みは選ぶ人それぞれに主張があるだろうが、言葉で表すならば、やはりドイツ車とフランス車の違いということになる。写真でご覧のように、一見してスマートの方が凸凹と立体的で豪華かつ強壮な感じがする。トゥインゴはあっさりとシンプルな処理が軽妙とも受け取れる。
走らせてみた感覚的な違いは装着タイヤの差に寄るところが大きい。ボディーの重量差は1010kg対1060kgと人間1人分ぐらいのもので、スマートは見た目ほど重くはない。しかし大径で太いタイヤのグリップ感は大きく異なりハンドルはグイッと切れるし、パワーを掛けた強引なコーナリングをしても安心感がある。タイヤだけ大きくしたような足元の華奢(きゃしゃ)な感覚はなく、サスペンションもボディーもしっかりした剛性が確保されており、この辺は大きなドイツ車と変わりない。
もっとも同じ骨格とパーツを共用するトゥインゴとて足元に華奢な部分はなく、そこはフランス車ゆえ直進性と乗り心地を重視したチューンとはいえ、折れ曲がった山道でスマートと攻守ところを変えて前後入れ替わり追尾しても、後れをとるようなことはない。強いてニュアンスの違いを探すならば、トゥインゴのタイヤ配置がロングホイールベース的縦長感覚なのに対して、スマートは横幅の広いワイドトレッドでホイールベースも短く感じる。だからジムカーナ的な走り方をするならばスマートの方が速いだろう。
フォーフォーはハンドリングマシン
カタログ数字の上ではスマートの方がホイールベースは長いし(+5mm)トレッドは逆に狭い。ホイールベース(WB)はトゥインゴ2490mmに対して2495mmで、トレッドは前1455/後ろ1445mmのトゥインゴに対してスマートはそれぞれ10mmずつ狭い。WBについては後輪のサスペンションがトレーリングアームゆえ、若干の車高の違いなどでおきる認証時測定誤差の範囲であろう。トレッドはまさにタイヤサイズの違いを外側にはみ出させないためにホイールのオフセットで調整したものだ。よってスクラブ半径も小さくなってキックバックのようなものは太いサイズに反して少ない。
それでも前185/50R16、後ろ205/45R16という絶対的にグリップの勝るタイヤによって、スマート・フォーフォーがグイッと旋回していくさまは、まさにコーナリングマシンそのもの。16インチへの大径化とあいまって全高1540mmの背の高さなどものともしないロールセンターの高さにより、高いところから重心がつり下げられている安定感覚も十分である。だから両車は全然違う操縦感覚ながら、どちらも個性的でスマートは豪快、トゥインゴは繊細な性格を持っていて、どちらかを選ぶのはひとえにドライバーの好みにかかっている。
このタイヤ/ホイールを両セット持っていれば両方の特性を楽しめるということになるが、バラバラに前後を組み合わせることはお勧めしない。でも個人的には前16インチで後15インチと前後を同じ185にして、相対的にリアトレッドを広げてアンダーステアを軽くして乗ってみたい気もする。
燃費はトゥインゴに軍配
車検証の原動機の型式は異なるけれども、パワー/トルクの表記はトゥインゴもスマートも同じく90psと135Nm(13.8kgm)であるが、体感パワーはスマートの方が音の大きさも加わり、元気がありそうに感じられる。それも15インチから16インチになったタイヤのグリップやバネ下重量差ということも含めてなのだが、スマートはそれらがマイナス要因とは思えないほど全体に活気がみなぎる。
その分燃費に影響しているが、その差は思ったほど大きくはない。きっちり同時に満タンにして同じルートを走った区間で比較すると、大磯から大観山へ抜けて箱根を走って湯河原へ下りる、といういわゆる山道を、エンジンを回して走った区間約90kmの平均燃費は、トゥインゴが9.1km/リッター、スマートが7.9km/リッターとなった。モード燃費ではどちらも20km/リッターを超えており、ドライブコンピューター数値で見る通常の実用燃費では、どちらも12~17km/リッター程度は走ると思われる。燃料タンク容量は35リッターと少な目。燃費がいいからという理由だろうが、ガソリンスタンドに寄る回数を減らすという考え方をするならば40リッター欲しい。
また、小型車ゆえの経済性という観点からは、前後サイズの異なるタイヤはローテーションが行えず不利と思われるかもしれないが、前2輪だけの交換とか後ろ2輪だけとか、出費が分散できるメリットもある。前後を入れ替える手間も省ける。磨耗は使い方次第で大きく異なる結果が出そうだ。加速などのパワーを楽しんでしまうとリアが減るし、コーナリングを楽しんでしまうとアンダーステア傾向ゆえ前輪の磨耗が大きくなりそうだ。重量やパワーを受け止める容量的な見方をするならばスマートの方が磨耗は少ないだろうが、タイヤ1本の単価は高い。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
ライトウェイトスポーツカーのような楽しさ
一度止まって再スタートさせるとトゥインゴはエコモードに戻ってしまうが、それゆえの被害意識はない。そのまま乗っていても加速など動力性能上の不満はないし、スロットルの操作に対して過敏なことなく落ち着いて乗っていられる。この点どちらかといえばスマートは常時臨戦態勢下にあるようで、活気はあるがのんびり流したいようなときにはやや意識が必要。エンジンのチューンも額面数値では同じながら、味付けが異なるのはトゥインゴのエコボタンだけでなく、CPUのロムチューンなど軽微な違いを与えているのかもしれない。そうした意味ではスマートは若者に歓迎されるだろうし、トゥインゴはシニアドライバーに向くともいえる。どちらもMT仕様で乗ればそんなところも使い手の意思でいかようにでも扱える。
自動運転化などでどんどん「車を操縦する」という楽しみからはかけ離されていくような時流でもある中で、トゥインゴもスマートもライトウェイトスポーツカーのような操る楽しさを持つ。こうした「面白い車」がどんどんこれからも登場してくるといいナー。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ルノー・トゥインゴ インテンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3620×1650×1545mm
ホイールベース:2490mm
車重:1010kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81T/(後)185/60R15 84T(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:21.7km/リッター(JC08モード)
価格:189万円/テスト車=192万7800円
オプション装備:フロアマット(1万9440円)/スマートフォンクレードル(5400円)/ETC車載器(1万2960円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1469km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:277.4km
使用燃料:25.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)
スマート・フォーフォー ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3550×1665×1545mm
ホイールベース:2495mm
車重:1060kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:90ps(66kW)/5500rpm
最大トルク:13.8kgm(135Nm)/2500rpm
タイヤ:(前)185/50R16 81H /(後)205/45R16 83H(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:22.0km/リッター(JC08モード)
価格:256万円/テスト車=272万5900円
オプション装備:メタリックペイント<サファイアレッド×ブラック>(3万4000円) ※以下、販売店オプション スマートベーシックキット(ETC車載器+フロアマット+スマートカラビナ<オレンジ/ブルー2個セット>)(3万2000円)/ポータブルナビ(9万9900円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:846km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:198.6km
使用燃料:20.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)

笹目 二朗
-
ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT ABS(6AT)【レビュー】 2025.9.20 日本のモーターサイクルのなかでも、屈指のハイテクマシンである「ヤマハ・トレーサー9 GT+ Y-AMT」に試乗。高度な運転支援システムに、電子制御トランスミッション「Y-AMT」まで備えた先進のスポーツツアラーは、ライダーを旅へといざなう一台に仕上がっていた。
-
プジョー408 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2025.9.19 プジョーのクーペSUV「408」に1.2リッター直3ターボエンジンを核とするマイルドハイブリッド車(MHEV)が追加された。ステランティスが搭載を推進する最新のパワーユニットと、スタイリッシュなフレンチクロスオーバーが織りなす走りを確かめた。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
NEW
“いいシート”はどう選べばいい?
2025.9.23あの多田哲哉のクルマQ&A運転している間、座り続けることになるシートは、ドライバーの快適性や操縦性を左右する重要な装備のひとつ。では“いいシート”を選ぶにはどうしたらいいのか? 自身がその開発に苦労したという、元トヨタの多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
マクラーレン750Sスパイダー(MR/7AT)/アルトゥーラ(MR/8AT)/GTS(MR/7AT)【試乗記】
2025.9.23試乗記晩夏の軽井沢でマクラーレンの高性能スポーツモデル「750S」「アルトゥーラ」「GTS」に一挙試乗。乗ればキャラクターの違いがわかる、ていねいなつくり分けに感嘆するとともに、変革の時を迎えたブランドの未来に思いをはせた。 -
プジョー3008 GTアルカンターラパッケージ ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2025.9.22試乗記世界130カ国で累計132万台を売り上げたプジョーのベストセラーSUV「3008」がフルモデルチェンジ。見た目はキープコンセプトながら、シャシーやパワートレインが刷新され、採用技術のほぼすべてが新しい。その進化した走りやいかに。 -
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな
2025.9.22カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている? -
世界中で人気上昇中! 名車を生かしたクルマ趣味「レストモッド」の今を知る
2025.9.22デイリーコラム名車として知られるクラシックカーを、現代的に進化させつつ再生する「レストモッド」。それが今、世界的に流行しているのはなぜか? アメリカの自動車イベントで盛況を目にした西川 淳が、思いを語る。 -
ランボルギーニ・ウルスSE(前編)
2025.9.21思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・ウルスSE」に試乗。時代の要請を受け、ブランド史上最大のヒットモデルをプラグインハイブリッド車に仕立て直した最新モデルだ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。