ホンダ・フリードG Honda SENSING(FF/CVT)
ますますちょうどいい 2016.10.21 試乗記 8年ぶりのフルモデルチェンジで2代目となった、ホンダのコンパクトミニバン「フリード」に試乗。7人乗り仕様のガソリンエンジン車を連れ出して、新型の走りや乗り心地、使い勝手をチェックした。キープコンセプトのまま一新
ホンダの人気コンパクトミニバン、フリードが8年ぶりにモデルチェンジした。テレビコマーシャルのBGMはファレル・ウィリアムスの「ハッピー」。世界中でそのミュージックビデオをまねた自作動画が作られて話題になったダンスミュージックだ。「ちょうどいい」と言っていたジョン・レノン ジュニア(一応、ミュージシャン)はどうなったのだろう。
「フィット」顔になったフロントや、スカした切れ込みの入ったリアスタイルは、ひとめで新型とわかるが、ボディーサイズはほとんど変わっていない。フィットより30cm長い敷地に、最大3列7人乗りのシートを配したハイトなキャビンを持つ。
プラットフォーム(車台)は新設計だが、1.5リッターのハイブリッドと、純ガソリン1.5リッターの2本立てというラインナップはこれまで通りである。といっても、先代のキャリーオーバーではなく、両方ともエンジンは「シャトル」と同じ直噴4バルブDOHCの新世代i-VTECである。
今度の「ステップワゴン」は1.5リッター4気筒ターボへいわゆるダウンサイジングターボ化された。それにならって、フリードには新しい1リッター3気筒ターボが搭載される、といううわさがあったが、発表会では3気筒のサの字も出なかった。
今回試乗したのは、ハイブリッドではないフリードの上級モデル「G Honda SENSING」の7人乗り(212万2000円)。プレス試乗会に先立って、これだけが広報車として準備できたという知らせを受けての初モノ試乗である。
キビキビ走るガソリン車
先代モデル中盤にハイブリッドが出てから、フリードのメインはハイブリッドである。新型でも受注の過半数がハイブリッドだという。
ちなみに、FFのG Honda SENSING 7人乗り同士で比べると、ハイブリッドは約40万円高い。一方、JC08モード燃費は、26.6km/リッター対19.0km/リッターで、ハイブリッドのほうが4割いい。これだけ燃料価格が低値で安定していても、みなさんハイブリッドをお選びになります、というわけだ。
つまりナマエンジンのフリードは少数派なのだが、まったく不満なしである。先代より13psアップした131psのパワーは十分以上で、こう見えてけっこう速い。CVTだから、ムチを入れると高回転に張りつくが、雑味なくよく回る。山道ではパドルシフトがあってもいいかなと感じるようなエンジンである。
パワートレインやエアコンを省燃費モードにする“ECON”スイッチが付いているが、試乗中はオンのままで、なんら不都合はなかった。ハイブリッドには乗っていないから、比べようはないが、シャトルのエンジンを思い出すと、キビキビ感はむしろこちらのほうが上かもしれない。
2日間で約270kmを走り、燃費は満タン法で13.6km/リッターだった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
座面の低さが気になる
フリードの販売は6人乗りが7割以上を占めるという。イエローナンバーに対する白ナンバーミニバンの最後の砦(とりで)ともいうべきキャプテンシートを2列目に据えるモデルだ。
試乗車は、2列目席が分割可倒式ベンチシートになる7人乗り。フリードでこれを選ぶのは、主にセカンドシートをベビールームとして活用したい人だという。前後に10cmほどスライドするから、レッグルームは広く取れるが、座面は低めだ。もう少しイスの脚を長くしたほうがゆったり座れるはずだが、そうしなかったのは、ママさんが作業をしやすいようにという配慮なのだろうか。
4.3mの全長を考えると、3列目席のレッグルームは健闘している。見晴らしも悪くないが、イスの脚はさらに短くなって、大人だとほとんど体育座りの感じになる。
7人乗りのメリットは、2列目、3列目のシートを片づけて、広い荷室が取れることである。大きなオフロード自転車を入れてみた。低床で荷室の天地もたっぷりあるから、積み降ろしはラクだが、フリード伝統の(?)左右側壁に吊るすサードシートは、間口を狭くしている。いまや強敵になった「トヨタ・シエンタ」は、本来、ホンダのオハコの床下ダイブダウン方式を採用し、正味で広い空間を作っている。と、比較テストでは指摘されるだろう。
好感の持てるやつ
テレビのCMでも、カタログの表紙でも、今度のフリードは上から撮影している。屋根のほうへ大きく食い込んだフロントウィンドウを見せるためだ。イメージカラーはブルーだし、「シトロエンC4ピカソ」のような大空が見えるミニバンになったのか!? と思ったら、それほどでもなかった。
たしかに先代よりも上方視界のきくクルマになったが、C4ピカソのように極端ではない。夏は炎熱地獄になる国なのだから、それで正解だ。延長分のガラスには濃いアンバーの日射対策も施されている。
上だけでなく、前方の視界も広い。ウエストラインが低いので、真横の直近もよく見える。おかげで、運転しやすい。邪魔にならない5ナンバーミニバンというキャラクターは変わっていない。
内装はベージュで、ダッシュボードには白木のような風合いの樹脂パネルが貼られている。触るとソフトで、見た目にも清潔だ。こういう落ち着いた雰囲気のインテリアは、軽のミニバンではまねできないところである。
ノンハイブリッドの7人乗りという、フリードとしてはマイノリティーなグレードだったが、乗っているとプレーンな感じがして好感が持てた。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ホンダ・フリードG Honda SENSING
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1695×1710mm
ホイールベース:2740mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:131ps(96kW)/6600rpm
最大トルク:15.8kgm(155Nm)/4600rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:19.0km/リッター(JC08モード)
価格:212万1600円/テスト車=249万1886円
オプション装備:ナビ装着用スペシャルパッケージ<ETC付き>+コンフォートビューパッケージ+LEDヘッドライト+アクティブコーナリングライト+Cパッケージ+2列目ベンチシート(16万2000円) ※以下、販売店オプション Honda純正ナビゲーションシステム<スタンダードインターナビ>(17万0486円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(3万7800円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:986km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:267.1km
使用燃料:19.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.6km/リッター(満タン法)/14.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
NEW
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(前編)
2025.9.7ミスター・スバル 辰己英治の目利き「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のなかでも、走りのパフォーマンスを突き詰めたモデルとなるのが「ゴルフR」だ。かつて自身が鍛えた「スバルWRX」と同じく、高出力の4気筒ターボエンジンと4WDを組み合わせたこのマシンを、辰己英治氏はどう見るか? -
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】
2025.9.6試乗記空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。 -
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。