BMW X1 xDrive18d Mスポーツ(4WD/8AT)
こんなBMWに乗る日が来るとは! 2016.12.05 試乗記 「BMW X1」に、ディーゼルエンジンを搭載した4WDモデル「xDrive18d」が追加された。BMW SUVラインナップのエントリーレベルを担うコンパクトモデルの実力を、ガソリンエンジン搭載車に対するアドバンテージとともにリポートする。潜在的ニーズが高まる4WDのSUV
水の中を走る場合は、水深25cm以下までにすること。X1のトリセツには、そんな注意書きがあった。ランドローバー車は、「レンジローバー イヴォーク」のコンバーチブルでも水深50cmを保証しているが、その半分とはいえ、X1もなかなかだ。アンダーパスのボトムが冠水してしまうような夏のゲリラ豪雨のときでも、並の乗用車よりは心強いだろう。まだ11月なのに、東京多摩西部にあるウチの庭には、いま雪が積もっているし、日本全国、地震ばっかりだし。なんてことを深刻に受け止めると、潜在的ニーズが高まる一方に思えるのが、四駆SUVである。
昨年、FFプラットフォームに切り替わったX1に2リッタークリーンディーゼルの四駆モデル“xDrive 18d”が加わった。BMWで一番コンパクトなSUV、X1シリーズにディーゼルが導入されるのはこれが初めて。日本仕様のX1には、ガソリン1.5リッター3気筒を積むFFモデルもあるが、18dは電子制御多板クラッチのスタンバイ四駆「xDrive」との組み合わせのみになる。
グレードは素の18d(440万円)、xライン(468万円)、Mスポーツ(486万円)の3つ。今回乗ったのは、一番高いMスポーツである。
ディーゼルならではのアドバンテージ
X1初のディーゼルといっても、そのエンジンは、「2シリーズ」の「アクティブツアラー」や「グランツアラー」などですでにおなじみの横置き4気筒2リッターターボディーゼルである。150psの最高出力、33.7kgmの最大トルクといったアウトプットも同じなら、8段ATの変速機も同じである。
縦置きにされて「118d」にも使われているこのクリーンディーゼル、昔からエンジン自慢のBMWにあって、フツーにいいエンジンである。アイドリングしているときに外で聞くと、カラカラいう乾いた音はする。けれど、べつに耳障りではないし、高圧の燃料噴射ポンプからと思われるこういう音は、最近のガソリンBMWでも聞き覚えがある。
1660kg(車検証記載)の車重は、2リッターガソリンの「xDrive20i Mスポーツ」と同じ。ガソリンは192psもあるが、トルクは28.6kgmだから、ディーゼルに軍配が上がる。
実際、ふだんの出足や、ふとしたダッシュでの力強さは、トルクに勝るディーゼルのほうがうわてだ。“生活加速”が速いのだ。行きたいときにスッと行けるから、ストレスがなくて、気持ちいい。駆けぬける歓びというほど大げさではないものの、ふだんからちょいちょい楽しいのがX1ディーゼルである。逆に2リッターガソリンモデルのほうに明確なアドバンテージがあるとしたら、高速でのスピードの伸びくらいだろうか。
500万円に迫る高級車なのに……
スポーツサスペンションを備えるMスポーツでも、アシはそれほど硬くない。乗り心地は上等で、フトコロが深く、粘りがある。BMWなのに、FRのメルセデス的なよさがあると思った。
前席にはMスポーツ専用のシートが備わる。電動調節式で、座面だけをチルトさせるような凝ったこともできれば、手動でサイサポートを10cmほど延ばすこともできる。試してみたら、脚が水平に伸びて、ペダルが踏めなくなった。日本人離れして脚の長いドライバーでも理想のポジションがとれそうなシートである。
リアシートも快適だ。フロアにはセンタートンネルの山脈が通るが、FRプラットフォーム時代より高さも幅も小さくなった。後席の床が、前席のそれより低いのも特徴で、そのため、シート座面が高くて座りやすい。バックレストは7段階にわたって傾きが変えられる。
荷車として使うときに便利なのは、後席バックレストリリース機構である。荷室側壁にあるスイッチを引くと、ヒュンヒュンヒュンとモーターが小さくうなり、3分割バックレストが右から順に倒れてフラットフロアを広げる。でもこれは、電動テールゲートなどと合わせて、8万4000円のオプションだった。500万円近いクルマでもなお、「取るよねえ」と言いたくなる旺盛なオプション商法はBMWグループの特徴である。
先の読めない世の中だけど
X1の18dシリーズは、日本でのBMW 10モデル目のクリーンディーゼル車になるそうだ。
スーパーカーの「M1」や「633CSi」や、「3シリーズ」なら初代モデルからを、いずれも新車の時代に試乗している(ような年寄りの)立場から言わせてもらうと、まさかBMWがこの日本でこんなにディーゼルで乗られるクルマになろうとは想像だにしなかった。昔のBMWといえば、昔の日本人が持っているディーゼル車のイメージからは一番遠いところにあった乗用車だったからだ。
クリーンディーゼル人気の大きな理由である好燃費は、X1ディーゼルでも同じだ。今回、約420kmを走って、15.3km/リッターを記録する。315kmを走っても、燃料計の針はまだ4分の1しか動いていなかった。しかも軽油は無鉛ハイオクより2ランク安い。このときのセルフスタンドは、ハイオクガソリンの127円に対して、93円だった。
ドナルド・トランプが勝つと、株価は暴落し、大きく円高に振れると言っていたのに、フタを開けたら、株は上がり、円安が進んでいる。当然、これからはガソリンスタンドの商品も値上がりするだろう。先が見えない世の中だが、たしかなのは、日本では今後も軽油の(税金の)優遇が続くことである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW X1 xDrive18d Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4455×1820×1600mm
ホイールベース:2670mm
車重:1660kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150ps(110kW)/4000rpm
最大トルク:33.7kgm(330Nm)/1750-2250rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95W/(後)225/50R18 95W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:19.6km/リッター(JC08モード)
価格:486万円/テスト車=525万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ミネラル・グレー>(9万3000円)/BMWコネクテッドドライブ・プレミアム(6万1000円)/アドバンスアクティブセーフティーパッケージ(15万5000円)/コンフォート・パッケージ(8万4000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:847km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:417.0km
使用燃料:27.3リッター(軽油)
参考燃費:15.3km/リッター(満タン法)/15.3km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
NEW
「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのか
2025.11.19デイリーコラムジャパンモビリティショー2025に展示された「レクサスLSコンセプト」は、「次のLSはミニバンになっちゃうの?」と人々を驚かせると同時に、リア4輪の6輪化でも話題を振りまいた。次世代のレクサスのフラッグシップが6輪を必要とするのはなぜだろうか。 -
NEW
第92回:ジャパンモビリティショー大総括!(その1) ―新型「日産エルグランド」は「トヨタ・アルファード」に勝てるのか!?―
2025.11.19カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」をカーデザイン視点で大総括! 1回目は、webCGでも一番のアクセスを集めた「日産エルグランド」をフィーチャーする。16年ぶりに登場した新型は、あの“高級ミニバンの絶対王者”を破れるのか!? -
NEW
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】
2025.11.19試乗記最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。 -
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録
2025.11.18エディターから一言世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。 -
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃!











































