スズキ・ソリオ ハイブリッドSZ デュアルカメラブレーキサポート装着車(FF/5AT)
地味だけどスゴいヤツ 2016.12.10 試乗記 スズキがコンパクトハイトワゴン「ソリオ」シリーズに、フルハイブリッドシステム搭載車を設定。既存のリソースを積み重ねて実現したスズキ独自開発のハイブリッドには、32.0km/リッターという燃費以外にも注目すべきポイントがあった。「S」が付いたらフルハイブリッド
スズキのソリオ(ソリオ バンディット)に追加されたハイブリッドシステム搭載モデルは、その名もズバリ、ソリオ(ソリオ バンディット)ハイブリッドである。2015年8月のフルモデルチェンジと同時にラインナップされたマイルドハイブリッドモデルと車名が同一であるため少々ややこしいが、今回追加されたフルハイブリッドモデルは「SZ」と「SX」、マイルドハイブリッドモデルは「MZ」と「MX」、ガソリンエンジン車は「G」と、それぞれグレード名でパワーユニットを言い当てることができる。
フル(ストロング)ハイブリッドモデルのグレード名には頭にS、マイルドハイブリッドモデルは頭にMが付き、ガソリンエンジンモデルはGというネーミング法則を意識すればラインナップを覚えやすい。これは「バンディット」でも同様である。ただし、バンディットにはガソリンエンジンモデルはラインナップされていない。外観ではブルーのクリアパーツにメッキを組み合わせたフロントグリルや、ブルークリアレンズを採用したリアコンビネーションライトでフルハイブリッドかそうでないかを識別しやすい。
フルハイブリッドモデルが登場したことによってマイルドハイブリッドモデルはてっきりディスコンとなり、上級移行したものだと勝手に思い込んでいたが、さにあらず。フルハイブリッドモデルはあくまでもトップモデルとしての追加ラインナップであり、マイルドハイブリッドモデルもしっかりとカタログモデルとして残されている。フルハイブリッドモデルがある以上マイルドハイブリッドモデルはお役御免では? というのは浅はかであり、存在意義もしっかり残されている。このあたりは後述。
システムは“スズキオリジナル”
さてフルハイブリッドモデルである。最大の特徴は発表時のニュースに詳しいが、やはりJC08モードで27.8km/リッターを誇ったマイルドハイブリッド車を約15%も上回る32.0km/リッターの燃費であろう。モーターをエンジン走行のサポートとして用いるマイルドハイブリッド車に対して、こちらは短いとはいえモーターのみのEV走行も可能。さすがフルハイブリッドモデルである。
JC08モードで32.0km/リッターをマークするとはいえ、実際の燃費はおよそ7掛けあたりが妥当。となれば22.4km/リッターぐらいがリアルな数値だろうが、それでも20km/リッター超えはなかなか立派。画期的というほど大きな違いではないかもしれないが、マイルドハイブリッド車に対するメリットは日常でジワリと感じ取れるはずだ。フルハイブリッドモデルになってますます燃費も向上して良かったね、とハナシを終えたいところだが、このソリオ ハイブリッド(もちろんフルハイブリッドの方)は、それだけでは終わらないユニークなメカニズムの採用が「そうきたか!」と、クルマ好きをうならせてくれる。
そもそも今回登場した「ソリオ ハイブリッド」のフルハイブリッドシステムは、既存のリソースをフル活用したものだ。エンジンは1.2リッターの直列4気筒。最高出力は91ps(67kW)、最大トルクは12.0kgm(118Nm)で、これはマイルドハイブリッドモデルもガソリンエンジンモデルも共通。それに発電とアイドリングストップ後のエンジン再始動、そしてエンジンのパワーをアシストする機能を持つ「ISG(=Integrated Starter Generator)」を加えたのがマイルドハイブリッドだ。
今回のフルハイブリッドシステムは、そのマイルドハイブリッドシステムに「MGU(=Motor Generator Unit)」と呼ばれる走行用のモーターと、100V高圧リチウムイオンバッテリー、インバーターを組み合わせている。スズキが「他社から供給されたハイブリッドシステムをアレンジしたものなどではなく、既存の技術の積み重ねによって自社で開発」と胸を張りたくなるのもうなずける。ガソリンエンジンにまずはマイルドハイブリッドを組み合わせ、そしてそれに走行用モーターとバッテリーを加え、進化に進化を加え実現したフルハイブリッドは100%の自社開発技術なのである。
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変速ショックをモーター制御で解消
さらにもうひとつ、ユニークな積み重ねがある。それがトランスミッションだ。フルハイブリッドモデルは、既存のモデルと同じCVTではない。5段ロボタイズドMT「AGS」を採用しているのだ。“積み重ね技術”であればCVTを使いそうなものだが、ここだけは違う。誰もが疑問に思うこの「AGS」が採用されたその答えは、フルハイブリッドにした場合、CVTだとボンネット内に収まらないから。実に単純明快である。
そこで検討されたのが、「アルト」系に使用されている軽量・コンパクトで伝達効率に優れた「AGS」。つまりCVTの採用こそ既存のソリオとは同じではないが、こちらも紛れもなく既存技術の積み重ねである。ただし、ご存じのようにそのまま使うとギアチェンジの際の空走感やギクシャクした動きがハイブリッドにそぐわない。そこで、スズキはどうしたか。そのギアチェンジの谷間をモーターがアシストし、加速/変速時のパワーを途切れないようにした、というワケである。ハイブリッドのモーターを単なるエンジンの補助として使うだけでなく、シフトスケジュールのアルゴリズムを解析し、ギアチェンジの谷間にモーターを持ってくるとは。これを画期的と言わずしてなんと言おうか。まさかモーターのアシストをギアの切り替え時にも使うとは、かのポルシェ博士にもなかったアイデアである。これを思いついたスズキの開発者は、この際天才と言ってしまっていいだろう。フォルクスワーゲンやFCAにぜひとも売り込んでいただきたい技術だ。
おかげでシングルクラッチのロボタイズドMTにもかかわらず、加速時に例のイヤなパワーの継ぎ目などなく、バッテリーの残量がない時にあえてラフなアクセル操作さえ行わなければフィーリングは極めてシームレス。言われなければ、これを誰がロボタイズドMTだと思うだろうか。懸念されたパーキングスピード時に嫌われるギクシャク感や、ドライバーの感覚と合わない不自然な動きもなく、クリープも極めて自然で使いやすい。AT車やCVT車からの乗り換えでも心配はいらない。ことは「そもそもフルハイブリッド化する際にCVTが入らなかったから」と単純だが、ロボタイズドMTをここまでに仕上げたその執念には頭が下がる。
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最もエコで最もパワフル
燃費向上策として用意される走行モードは、「標準モード」と「エコモード」の2種類。ステアリングホイール右下のパネルに用意されているスイッチによってオン/オフを操作するが、これがいささか見づらく使いづらい。どちらかのモードに決めて運転するようなドライビングスタイルであれば問題ないが、シーンによってモードを使い分けるようなドライバーには、スイッチの使い勝手は、正直気になる部分である。
エコモード選択時では、標準モードよりも明らかにアクセルペダルの踏み込みシロに対して加速が抑制され、さらにはより積極的にアイドリングストップ機構が作動する。バッテリー容量が4.4Ahと決して大きくはないため、両モードとも期待したほどEV走行は多くはないが、強いて言えばエコモードの方がEV走行自体は多かったような気がする。バッテリーの残量など条件がそろえばメーター読みで50km/hオーバーまでEVモードが使え、短時間に限定はされるが、なるほどとフルハイブリッドモデルに乗っている気分は十分味わえるのだ。EVモードからエンジン始動へのプロセスも自然。「あ、エンジンが掛かった」とは分かるものの、ギクシャク感を覚えたり違和感を覚えたりするほどのものではない。
「ソリオ」自体の使い勝手は従来モデルと何ら変わらないので割愛するが、ハイブリッド化によって増えた重量はパワーアップで相殺される。それどころかパワーアップがプラスに働いている。よって実際にはこのフルハイブリッドモデルが最もパワフルなソリオであるのは間違いないところ。というワケでこのフルハイブリッドモデルを死角のない完璧なモデル……とイチオシしたいところだが、ビハインドもある。
それは、フルハイブリッドモデルにはFFしかラインナップがないということである。降雪地であれば、使い勝手の良いコンパクトトールワゴンにも4WDは欲しい。だがリアにバッテリーを積むフルハイブリッドモデルでは後輪を駆動させるメカニズムを積むスペースが足りず、物理的に4WDモデルが作れない。と、そこで登場するのが(いやそもそもフルモデルチェンジの時からラインナップされていたのだが)、マイルドハイブリッドモデルである。
“3社連合軍”を真っ向から迎え撃つ
ガソリンモデルとともに、マイルドハイブリッドモデルには当初より4WDがあり、こちら両モデルはFFと4WDが各グレードで選択可能。これが、マイルドハイブリッドモデルが残されている大きな理由のひとつであり、マイルドハイブリッドモデルの存在意義でもあるのだ。
FFのフルハイブリッドモデルが装備の違いで2グレード、マイルドハイブリッドは2グレードにFFと4WDを用意し、ガソリンモデルも同じくFFと4WDをラインナップするソリオは、「ダイハツ・トール」「トヨタ・ルーミー/タンク」「スバル・ジャスティ」の3社4車種連合軍が期せずして仕掛けた勝負に、フルハイブリッドモデルをフラッグシップとして万全の態勢で立ち向かう。敵はターボだが、こちらはハイブリッド。量的優位でこのクラスの市場を狙うトヨタ連合チームの登場で、あらためてソリオの偉大さとスズキの目の付けどころの良さがキラリと光ったとは、逆説的ではあるが真実であるに違いない。
たとえ試合(さすがに4車種の総合販売数では分が悪いだろう)に負けても、勝負には勝ってほしいと思うのは、そもそも2010年に登場した先代「ソリオ」をもって、このクラスで最高に使い勝手の良いクルマを作ろうと考えたスズキのアイデアと、そして既存の技術を最大限に利用し積み重ねでロボタイズドMTを使ってまでフルハイブリッドを作ろうとした意気込みを応援したいからだ。無論、初試乗でこのクルマの持つポテンシャルに、満足したというのは大前提である。装備、使い勝手、デザイン、走りと、ソリオ ハイブリッドはなかなか高レベル。実は地味にスゴイのである。
(文=櫻井健一/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
スズキ・ソリオ ハイブリッドSZ デュアルカメラブレーキサポート装着車
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3710×1625×1745mm
ホイールベース:2480mm
車重:990kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:5AT
エンジン最高出力:91ps(67kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:12.0kgm(118Nm)/4400rpm
モーター最高出力:13.6ps(10kW)/3185-8000rpm
モーター最大トルク:3.1kgm(30Nm)/1000-3185rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81S/(後)165/65R15 81S(ヨコハマ・ブルーアース)
燃費:32.0km/リッター(JC08モード)
価格:212万2200円/テスト車=232万3426円
オプション装備:全方位モニター付きメモリーナビゲーション(12万7440円)/ピュアホワイトパール(2万1600円) 以下、販売店オプション フロアマット(2万8782円)/ETC車載器<工賃込み>(2万3404円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:521km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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