メルセデス・ベンツE220dステーションワゴン アバンギャルド スポーツ(本革仕様)(FR/9AT)
隙がない 2017.02.20 試乗記 高い実用性を誇るのはもちろん、「Eクラス セダン」と同様の安全性と快適性を実現したとうたわれる「Eクラス ステーションワゴン」。2リッター直4ディーゼルターボエンジンを搭載する「E220dステーションワゴン アバンギャルド スポーツ」に試乗し、その実力を試した。揺るがぬスタンダード
最近、日本の自動車メーカーの開発部門がW124型メルセデスを購入したという話を聞いた(しかも2社)。オークションなどで手を尽くしてコンディションの良いものを探したのだという。初めてEクラスを名乗った30年あまりも前のミディアムメルセデスをいまさら、と思う向きもあるだろうが、どうやらまっすぐ走るスタビリティーや乗り心地のコンフォート性とは何かという点で、依然として学ぶべきものがあるということらしい。その姿勢やよし、である。そもそも当時を知らない若いエンジニアにとっては、人から伝え聞いたり文章で読んだりしただけの車を実際に乗って検証することは大きな意味があるはずだ。古い人気車はクルマ好きの間では伝説化されがちだが、エンジニアであればお手本としてどうなのかを冷静に見極めなければならない。当時のメルセデスにしてももちろん完全無欠ではなく、試行錯誤を繰り返し(シングルブレードのワイパーやリアのマルチリンク・サスペンションも見直された)、その時代時代でベストな技術を追求してきた。そうでなくては長年、スタンダードとして認められることはなかっただろう。
新型(W213型)Eクラス セダンに続いて昨年11月末に発売されたEクラス ワゴンのラインナップはセダンと基本的に同じだが、アバンギャルド スポーツの本革仕様が独立して設定されたせいでセダンより3モデル多い11モデルが設定されている。このE220dアバンギャルド スポーツ(本革仕様)の価格は832万円だ。
新世代ディーゼルの第1弾
220dというモデルナンバーこそ従来型と同じだが、新型エンジンは排気量が2.2リッターから2リッター(1949cc)に縮小された新世代の4気筒ディーゼルエンジン(OM654型)だ。新型はアルミブロックとスチール製ピストンを採用して軽量コンパクト化を進め、シリンダーウォールにはメルセデスが「NANOSLIDE」と呼ぶ特殊コーティングが施されている。これはカーボンスチールをプラズマ溶射してコーティングする技術で、フリクションを大きく減らす効果があるという。ポルシェやAMG、新型「NSX」「GT-R」といった特別な車にのみ採用されている技術である。
また可変ジオメトリーターボだけでなく、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルター)と尿素を使用するSCR触媒も排気マニフォールドと一体化されてエンジン本体にほとんど直接装着されており、軽量コンパクトで効率的な設計となっている。より現実に即し、高速域までカバーした新たな排ガス規制にも対応した新型ディーゼルであり、間もなく「Sクラス」に載って登場する予定の直列6気筒ユニットと同じモジュラーエンジンの第1弾だ。そう、新たな6気筒はVではなく直列になる。かつては前後長を抑えられるV6が有利とされたが、現在では補機類を簡潔にまとめられる直列のほうがメリットが大きい。欧州メーカーが一斉に電動化に舵を切ったと主張する人々は、新世代の直列エンジンをどう説明するのだろうか。
セダンと同じ2リッター直4ディーゼルターボは194ps(143kW)/3800rpm、40.8kgm(400Nm)/1600-2800rpmを発生、どんなにじんわりとスロットルペダルを踏んでも100km/hではトップ9速には入らないほどのハイギアリングだが、アイドリング+αぐらいの低回転でもトルクは十分すぎるほどだから、クルーズ状態から加速する際も少しももたつきを見せないし、キックダウンが必要な場面でも迅速滑らかだ。シフトショックなどという言葉は少なくとも最新型多段AT車ではもはや死語と言っていい。JC08モード燃費は20.0km/リッターである。ちなみに3.5リッターV6ツインターボ(333ps/5250-6000rpm、48.9kgm/1200-4000rpm)を搭載する「E400エクスクルーシブ」はセダン同様4WDのみの設定で1050万円、これはもうSクラスのベーシックモデルと同レベルになる。
スタビリティー第一
全長はもはや5m近く、ミディアムクラスというには少々大きすぎるサイズになり、車重も1.9tもある(セダンとの差は70kg)せいで、さすがにピッピッと鋭く鼻先を振る敏しょうさは持ち合わせていないが、狙いを定めたらそのままずれることなくラインをトレースする正確なハンドリングと抜群のスタビリティーは実に頼もしい。メルセデスのワゴンに求められる性能はまさしくそれだと思う。
Eクラスのステーションワゴンにはリアのみ荷重を問わず車高を一定に保つセルフレベリング付きのエアサスペンションが装備される(フロントはメカニカル切り替えダンパー)。E400と「AMG E43」については、エアボリュームも切り替える例のエアボディーコントロール・サスペンションとなる。前245/40R19、後ろ275/35R19という前後でサイズの異なるランフラットタイヤを装着しているせいもあるのか、ビシッと締まった乗り心地が特徴で速度を上げてもびくともしない。重いガッシリとしたブーツで地面を踏みしめるような頑丈な足まわりである。いっぽうでエアサスペンションのE400エクスクルーシブは、明らかにソフトでストロークを許す設定だ。もちろんただフワフワするのではなく、テンピュール枕のようにスッとエネルギーを吸収してくれる。以前にも書いたかもしれないが、日本仕様のベーシックなトリムがアバンギャルド(しかもクーペ顔)になってしまう品ぞろえが私はどうも気に入らない。いかにAMGパッケージのような走り屋ルックスが日本では好まれるとはいっても、メルセデスとしての責任でスタンダード仕様も設定してほしい。とにかく大きなホイールを履いて足を固めたようなアバンギャルド スポーツよりも、そちらのほうがEクラスの性格に合っているのではないかと思う。
そろそろ落ち着いて考えよう
“自動運転もやっちゃえ”的なテレビCMもひと息ついたので、そろそろ大手メディアも一般ユーザーも冷静にメリットとデメリットを見極めるムードになったのではないか。行き先を告げるだけで玄関先まで送り届けてくれる完全自動運転などは技術的にも法律的にもまだまだ先の話だが、新型メルセデスEクラスが最新かつ最も洗練された安全運転支援システムを備えているのは疑いなく、その意味では自動運転に一番近いかもしれない。
その種のシステムは車の頭脳に当たるコントロールユニットの能力、演算速度、さらにはネットワークのデータ通信性能に大きく左右される。カメラやレーダーセンサーを多数取り付けても、処理が追い付かなければ意味がない。30km/hまでなら道路状況や他の車両を認識・判断できても、100km/hになると適切な制御が追いつかないということが起こるのだ。アシストの細やかさ、滑らかさ、カバーする範囲の広さ、そして正確で違和感のない制御はやはりコストがかかる。威勢のいい宣伝文句に惑わされず、自動運転以前に運転支援システムでもそのレベルは大きく違うということを認識し、本当に役に立つ機能かどうかを冷静に見極めるのは私たちユーザーの仕事である。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE220dステーションワゴン アバンギャルド スポーツ(本革仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4960×1850×1465mm
ホイールベース:2940mm
車重:1890kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:194ps(143kW)/3800rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/1600-2800rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)275/35R19 100Y(ミシュラン・プライマシー3 ZP<ランフラット>)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:832万円/テスト車=860万4800円
オプション装備:ボディーカラー ヒヤシンスレッド(19万3000円)/フロアマット プレミアム(9万1800円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1805km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:180.1km
使用燃料:11.4リッター(軽油)
参考燃費:15.8km/リッター(満タン法)/15.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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