マツダ・デミオ 13-SKYACTIV/ホンダ・フィットハイブリッド スマートセレクション【試乗記(後編)】
「みんな」と「ひとり」(後編) 2011.10.03 試乗記 マツダ・デミオ 13-SKYACTIV(FF/CVT)/ホンダ・フィットハイブリッド スマートセレクション(FF/CVT)……150万円/201万6500円
エンジン+モーターの「フィットハイブリッド」とエンジンのみで燃費向上を実現した「デミオ 13-SKYACTIV」を乗り比べると、パワートレインの違いだけじゃない、それぞれの特徴が見えてきた。
軽やかで自然なスポーティさ
(前編からのつづき)
「ホンダ・フィットハイブリッド」から「マツダ・デミオ 13-SKYACTIV」に乗り換えると、クルマがひと回り小さくなったように感じる。実際にはほとんど同じサイズなのに、なぜかタイトな印象を与えるのだ。そして、運転感覚がダイレクトだ。アクセル、ステアリングへの入力に対し、クルマの反応が素直で素早い。スポーツカー然とした神経質な俊敏さや絶対的な速さはないものの、軽やかで自然な動きが好ましい。
新エンジンの最大のアピール点は14.0という常識はずれの圧縮比だが、もちろん運転していてそれを感じることはできない。各部の軽量化や摩擦抵抗の低減も、直接実感するのは不可能だ。ただ、それらの省燃費策が走りをスポイルする方向に働いていないことはよくわかる。エンジンの高効率化は、クルマにとってネガティブな面があるはずもない。
動きのしなやかさは、誰にも感じ取れるはずだ。単に柔らかいというのではなく、クルマと路面との関係をうまく調整し、媒介してくれるイメージである。1010kgの車両重量から想像される動きよりもずっと軽快で、乗り心地の良さも軽さの延長上にある。過剰なアピールがなく、ナチュラルなスポーティーさを持っている。
フィットハイブリッドと同様に、デミオ 13-SKYACTIVも画面でエコドライブを促す仕掛けがある。このi-DMにはリアルタイムで運転のエコ度や滑らかさを示す機能もあり、もちろん瞬間燃費も表示できる。制限速度の走行では、平坦路でも18km/リッターに達しない。中央道河口湖ICを出たところでディスプレイを見ると、平均燃費は18.1km/リッターだった。フィットハイブリッドは18.7km/リッターで、中間計測よりは差が縮まった。やはり、乗員が1人か2人かは大きいようだ。
ハイブリッドでも広い荷室
駐車場に2台を並べて止め、眺めてみた。万人受けしそうなフィットハイブリッドのおとなしい造形と、デミオの前のめりの意匠が好対照だ。このデザインの姿勢の違いが、クルマの性格の違いをわかりやすく示している。デミオは、一部の人に好かれればいいという割り切りが前面に出ている。デザイナーは楽しく仕事をしたのではないだろうか。
その反面、実用性はどうしたって二の次ということになってしまう。フィットのスペース効率の良さには、今さらながら感心するしかない。タワーパーキングに収めるという条件をクリアしながら、車内の広さは十分に確保する。ホンダMM思想の真骨頂だ。ハイブリッドモデルでも電池を搭載することによる荷室への影響は最小限にとどめ、大きく開けられたハッチからはフラットな空間へのアクセスは容易だ。イケア対応は万全である。
デミオに乗るなら、荷物運びはある程度制約されることを覚悟しなくてはならない。後席は人を載せるには厳しい狭さなので、シートを倒して荷室にするのをデフォルトにしてもいい。それにしても、開口部の狭いハッチから荷物を上げ下ろしするのは、結構な労働になりそうだ。
河口湖からは、一般道を使って東名高速道路の富士川SAを目指した。再びフィットハイブリッドに乗り換えてしばらく運転すると、平均燃費がみるみるうちに好転していく。河口湖は標高が高く、海に向かって走るのだからルートは大きく見れば長い下りとなる。アクセルを踏む場面は少なく、たまに平坦路があってもバッテリーは満充電になっているからガソリンの消費は少なくて済むのだ。ハイブリッドカーにとっては、存分にポテンシャルを発揮できるステージである。この区間では、最大で28.9km/リッターまで記録が伸びた。
両車ともアイドリングストップ機構を持っているが、渋滞にはほとんど遭遇しなかったので実力を測ることはできずじまい。ただ、振る舞いの穏やかさではフィットが一歩リードしていた。「日産セレナ」「トヨタ・ヴィッツ」ほどではないけれど、エンジンの休止・始動を行儀よくこなす。グギュギュギュっという音を伴ってエンジンがかかるデミオは、ちょっと勇ましい。
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性格は違うが燃費はいい勝負
デミオは、下りの好条件をフィットハイブリッドほどには生かすことができなかった。走行中、必ず減速しなければならない場面に遭遇するが、ガソリン車の場合はブレーキを踏むと単純に損をするだけだ。ハイブリッドカーにとっては、減速はエネルギーを補給するありがたい機会となる。ドライバーにとっても、回生ブレーキのことも考えて燃費運転をするのは頭を使うから、楽しさが大きいのだ。攻めの要素があることによって、ストレスを生じない。
富士川SAのスマートETCゲートから東名高速に乗り、都内へと帰還した。2台のトリップメーターに少々差が生じたが、走行距離は340kmを少し超えた。燃費計によると、フィットハイブリッドの平均燃費は19.2km/リッター、デミオ 13-SKYACTIVは18.7km/リッターだった。ただ、満タン法で計測した値は、フィットハイブリッドが17.41km/リッター、デミオ13-SKYACTIVが17.77km/リッターと逆転する。厳密なところはわからないが、いい勝負だったということだ。そして、どちらも優秀な数値である。
フィットハイブリッドの前席には、センターに2つ、ダッシュボードの両側に1つずつ、計4つのカップホルダーがある。デミオ13-SKYACTIVはセンターに1つあるほかは、ドアポケットを使うしかない。1人で運転するのなら、これで何の不自由もないだろう。あくまでドライバーズカーとして考えられている。家族でドライブするのなら、フィットハイブリッドのほうが圧倒的に便利だ。「インサイト」が標榜(ひょうぼう)した「みんなのハイブリッド」といううたい文句は、このクルマにこそ似つかわしい。
エコカーというジャンルがある、と前編の最初に書いたが、むしろエコカーであることが当たり前になってきた、と言い換えたほうがいいかもしれない。そうであるなら、エコカーが多様な顔を持つのは自然なことだ。今回の2台もずいぶん違うクルマだったが、これからさまざまなタイプのエコカーが現れることになるだろう。クルマ選びの際に、まずエコカーであるかどうかを判断の基準にする人は、ますます増えていくはずなのだから。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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