フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTSIハイライン(FF/7AT)
定番の進化に思う 2017.06.05 試乗記 「フォルクスワーゲン・ゴルフ」が動けばCセグメントの基準が動く。マイナーチェンジを受けて、デジタルインターフェイスと先進運転支援システムの両面で進化を遂げた同車だが、その完成度は“Cセグ”の常識を揺るがすか? ワゴンモデル「ゴルフヴァリアント」に試乗してチェックした。デジタル化が進んだ
新型ゴルフヴァリアントに乗った。マイナーチェンジの範囲とはいえ、今度の改良点は前後ランプ類やバンパーの意匠変更など外観にまで及び、一見して新しくなったと見分けることができる。車内ではジェスチャーコントロール機能のインフォテインメントシステムや、直感的な操作を可能にするデジタルインターフェイスが採用され、現代の若者の好む電子機器の流れに沿った情報提供が行われる。要はメーター類やナビ画面などに新しい試みがなされている。
安全機能面では渋滞時追従支援システムや、歩行者検知機能が追加されたプリクラッシュブレーキシステムなどの半自動運転技術が採用された。われわれシニアドライバーにとっては、なかなか操作を覚えきれない分野でもあるが、最初によく学習しておけば便利であり、安全性のマージンは広がる。
面白いと思ったのはジェスチャーコントロールだ。液晶画面にタッチして選んでゆく電子機器にありがちな、オフにした時に指跡が残る汚らしさは気になるところ。今度は画面から少し離れたところで指を動かし、直接触れないで操作できる点がいい。しかしこれもコツというか慣れを必要とする。
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ヴァリアントならではの美点
ハッチバックの「ゴルフ」とワゴン型のヴァリアントでは、走行感覚に大きな違いはないものの、やはりリアシートを畳んで荷物を運ぶ機会もあるヴァリアントのアシはやや硬い設定になっている。これは高速道路などの平たんで滑らかな舗装路では、姿勢変化が少なくフラットな姿勢を保つ傾向を強めてくれるので好ましくもある。今回の試乗車には国産ブリヂストンタイヤが純正装着されていたが、この感触も悪くはない。ただしこのタイヤは路面の状態によりロードノイズなどの音の変化が大きく、他の走行音が静かなだけにタイヤからの音が、やけに目立って聞こえる場合がある。もっとも、いわゆる良路では十分な静けさを保つので問題はないし、音の変化は路面が変わって状況が違うことを知る手がかりともなるので、この点では歓迎すべき特性なのかもしれない。一般的にはどんな路面でも静かで目立たない特性こそ求められるわけではあるが、今回は乗り始めた最初がそんな路面だった。
またラフな路面ではやや硬いと感じる乗り心地も、リアシートに人を乗せるとか、荷室に物を積むとかすればさらに落ち着くことは言うまでもない。段差をゆっくり乗り越える際に見せるストローク感も量的にたっぷりしており、ハッチバックより荷重変化に対する許容度の大きさが感じられる。といって、ヴァリアントは1人で乗ると乗り心地が悪いわけでもない。アシを固めた車にありがちのサスペンション作動初期の硬さがなく、最初からストロークしてショックを吸収しようとする動きはチューニングが進んできた証拠である。ゆったりした室内空間の余裕はセダンやハッチバックの比ではないから、日常的に人や物を運ぶような用途に使うだけでなく、1人で広々空間を占有したい人にも向く。
軽やかでソリッドな走り
あらためて再認識した美点はボディー重量が軽く感じられる点だ。動きは軽快だしボディー剛性も高くソリッドで一体感ある挙動は、ステアリングの操舵やブレーキ/アクセルなどの微妙な操作に敏感に反応し、また減衰するのも速く無駄な動きが残らないので全体にスッキリしている。この大きなボディーにして車両重量は1380kgしかなく、重量配分は前58%、後ろ42%と空車で乗っても前後バランスの良さを感じさせる。
ノーズに積む1.4リッターエンジンと7段DSGギアボックスは、2リッターエンジン以上に軽やかに吹け上がる。その上で回頭性のいい身軽さも得ている。強いて言うならば2段一気に落としても、エンジンブレーキに期待する減速Gを得るにはやや物足りないところもある。時には2速まで落とすこともあった。そんな時にはやはりエンジン排気量ゆえの効果が思い出される。長く続く下り坂や重いものを運ぶ時には、このエンジンブレーキの甘さが、大きなボディーと小排気量エンジンの組み合わせによる、数少ない弱点ということになろうか。もちろんフットブレーキはよく利いて信頼性も高いから、減速に対する不安感はまったくない。
本当に必要な自動化とは?
自動運転の分野については、他の同類システムとさほどの優位差はないと思う。作動レスポンスなども大同小異で、意思に即応してやってくれるわけではなく、作動を待つ時間は必要。今の段階では自動で作動するところを見守って、ああちゃんと働いているな……と確認してから安心する感覚である。それ以上のテストは公道ではムリ。車線を読んではみ出すと舵角修正してくれるシステムは有効のように思われるが、本当に眠ってしまって確かめたわけではないし、車間距離の確保も隣からいきなり割り込まれたような場合の対応など心配もある。疑えばきりがないし、確かめる手だてもない。だから現状ではまだ実験段階ということを理解し、100%の信頼は置けないものの日常生活の中にどれだけ自然な形で介入を許すか、という段階だと思う。
ということは、任せても大丈夫かなー……と心配しつつ見守るよりも、最初からオフにしてしまって自分で管理するほうが結果としてラクともいえる。ハンドルを軽く保持するだけでちゃんと直進するし、ブレーキも自分で踏めば確実に利く。車間の保持にしても流れは絶えず変化しており一定ではないから、頻繁にセットしなおす手間より自分でやったほうが速くて簡単。スロットルもブレーキもハンドル操作も、自分で動かすこと自体が車を運転していると自覚できるし、それが楽しくもある。だから普段の平穏時までの介入ではなく、本当に必要なのは誤操作とか正常な操作が行われないような、緊急事態が起こった時に助けてくれる技術なのだと思う。
何をもってすればラクになるかと考えると、それは操作力を軽くするとか、レスポンスの遅れを少なくするとか、感覚のズレをなくすとか、これまで努力されてきたことの延長であり、操作そのものを丸投げしてしまうことが自動化ではないと思う。運転することに飽きたり眠くなったりした時には、安全なところに駐車して休むとか運転を代わってもらうことが有効。フォルクスワーゲンの安全システムとしては余計なお世話的にでしゃばることはないが、さらなる労力の低減を求めることもなさそう。そう考えると、あえて自動化部分を使うチャンスはなさそうではあるが、逆に慣れないわれわれシニアにとっては、このシステムを監視することが眠気を覚ます刺激を与えてくれるかもしれない。
今回の試乗区間は373kmほどで、高速道路は約半分強、曲がりくねった山間部と一般道がその残りの半分くらいであったが、燃費はドラコンの数字で17.8km/リッター、満タン法で16.2km/リッターだった。大きなボディーと走りっぷりから見て良好な結果であると思われる。なおゴルフには「GTI」や「R」に、2リッターエンジンに6段MTを組み合わせた仕様があるし、1.8リッターの4MOTIONもカタログから選べる。個人的にはシンプルで安価な標準車が一番魅力的なお買い得車だと思う。
(文=笹目二朗/写真=峰 昌宏/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントTSIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4575×1800×1485mm
ホイールベース:2635mm
車重:1380kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:140ps(103kW)/4500-6000rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:17.3km/リッター(JC08モード)
価格:339万9000円/テスト車=384万1800円
オプション装備:Discover Proパッケージ(22万6800円)/テクノロジーパッケージ(17万2800円) ※以下、販売店オプション フロアマット<プレミアムクリーン>(4万3200円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1345km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:372.7km
使用燃料:23.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:16.2km/リッター(満タン法)/17.8km/リッター(車載燃費計計測値)

笹目 二朗
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