アウディA5クーペ2.0 TFSIクワトロ スポーツ(4WD/7AT)
感銘を覚える 2017.06.22 試乗記 アウディがラインナップする“大人の4座クーペ”こと「A5クーペ」が、2代目にフルモデルチェンジ。次世代プラットフォーム「MLBエボ」が採用された新型の出来栄えを、静的質感と動的質感の両面から確かめた。日本仕様のグレードは一択
いわば「アウディA4」の低全高オシャレ版たる「A5」には現在、伝統的な2ドアの「クーペ」と5ドアの「スポーツバック」の2種がある。
A5はそもそもアウディ久々の本格クーペとして、先代A4のハードウエアをベースに、2007年に欧州で新発売(日本発売は翌2008年)された。つまり、A5は今回が2代目となる。
スポーツバックはクーペから約2年遅れた2009年(日本発売は2010年)に提案型商品……というか、おそらく「メルセデス・ベンツCLSクラス」あたりをヒントにした新種として登場した。それ以降、A5のメイン機種はおおかたの予測どおりにスポーツバックに移って、この2代目はクーペとスポーツバックが同時デビューとあいなった。
で、欧州ではクーペ(アウディ的にはスポーツバックもクーペの一種という解釈)はあくまでセダンより格上だから、A4にある1.4リッターターボはA5には搭載されず、全車が2リッターターボのみとなる。この点は日本だけでなく、ドイツ本国でも同様だ。
ただ、A5における販売上の主力は前記のとおりスポーツバックなので、量販が期待できるFF車が用意されるのはスポーツバックだけ。というわけで、日本で販売されるA5クーペは2リッターターボに4WDを組み合わせた「2.0 TFSIクワトロ スポーツ」というグレードの一択となる。
ちなみに、これについては日本市場特有の判断で、ドイツ本国はクーペのラインナップも基本的にはスポーツバックと共通。クーペにもFFがあるし、いくつかのトリムグレードも用意される。
存在価値はデザインにある
日本で販売される日本車では、いまや2ドア=暑苦しい体育会系スポーツカー……というのが相場で、この種の洒脱な2ドア車はほとんど絶滅しかけている。唯一の例外は「レクサスRC」くらい。同じレクサスでも「LC」はブッ飛んだ別格的な存在だし、新型「インフィニティQ60」=「日産スカイラインクーペ」の新型を含む日本ブランドの非体育会系クーペは、すべて海外専用車になってしまっている。
だいたいマナーにうるさい欧米でも、いまや公式行事にSUVで乗りつけてもしかられない時代になりつつある。A5にしてもスポーツバックが売れ筋なのは、なにも日本にかぎったことではない。
それでも、高級を自認するブランドを中心に2ドアクーペの火がギリギリのところで消えないのは「4ドアは本来、みずからステアリングを握ってハレの場に乗りつけるにふさわしくない実用品」という様式美をかたくなにくずさない保守的な人たち、あるいは「一番カッコイイのは、やっぱ2ドアっしょ!」と信じてやまない好事家が、世界には根強く存在するからだろう。
A5クーペは素の本体価格でも700万円にせまる高額車ゆえに、A4よりは充実した装備が与えられているものの、A5にあってA4にない技術的新機軸はとくにない。
A5クーペの存在価値は一も二もなく、このスタイルである。写真では単純に「ドアが2枚少ないA4」にしか見えないかもしれないが、実際のA5クーペはA4とまるで別物だ。
このA5クーペを清水草一さんが「テスラ・モデルS」のように……とたとえていたのは、まさに言い得て妙。ベタッと低いうえに、ホリ深くプレスされたボンネットの先のおちょぼ口……というフロントの造形は“カッコいいクルマ”の文法に忠実である。
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「クーペにしてよかった」と思える
なかでも、ゆるやかな波を描くサイドのプレスラインは、A5クーペの外観造形における最大のハイライト。フロントフェンダー部分ではパネル分割で表現される「線」は、そのままドアからリアフェンダーにかけて、 スチールパネルを手が切れそうなくらいシャープに成形したプレスラインにつながる。このあたりはまさにアウディの真骨頂である。
このプレスラインは、実物で見ると、ちょっと感動する。とくにリアホイールアーチ周辺は「これ以上だと塗料がのらない折り曲げ度合い」なんだとか。なるほど、この部分はレーシングカーなどの空力付加物“カナード”ばりに鋭角にトンがっているのだ。
「でも、いくらカッコよくても、オーナーになってクルマに乗っちゃうと見えないし……」と斜に構える向きもあろうが、その点はあえて心配無用と申し上げておきたい。
このリアホイールアーチ部分の飛び出しはちょうどドアミラーに映りこむ位置にある。よって、ドアミラーからの斜め後方の景色が、イカのエンペラ、もしくはサリーちゃんパパの髪形……のごとく、リアフェンダーの鋭角なエッジ越しに見えるのだ。
新型A5クーペのオーナーになれば、乗降時に愛車を外からながめても、また運転中に斜め後方を確認しても、そのたびに「クーペにしてよかったなあ」とシミジミできる寸法である。これはA5担当のデザイナーとエンジニアが意図した高度な計算だろう。
A5クーペのホイールベースが、スポーツバックやA4のそれより短縮されるのも先代同様である。
それでも、A5クーペの後席は乗りこんでしまえば十二分に実用的。さすがにヘッドルームは最低限だが、身長178cmの筆者が頭が天井に当たらない程度にお尻を前だししても、ひざ前にはわずかに余裕が残る。ルーフもクーペとしては長めで、脳天に直射日光がふり注ぐこともない。
心理的な閉所感をひとまず横によければ、A5クーペにおける後席乗員ひとりあたりの占有空間は、Cセグメントハッチバック(の室内がさほど広くないタイプ)のそれと同等くらいには確保されている。しかも、後席にも、エアコン吹き出し口、アームレスト、そして人数分となる2口の12V電源が用意されるなど、A5クーペは大人のフル4シーターとしてつくられている。
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予想を上回る走りの完成度
前記のようにA4比で特別な新機軸のないA5だが、このクーペはA4よりホイールベースで60mm、全長で40mm短くて、全高は45mm低い。全幅のちがいはほぼ誤差の範囲内(5mm)。トレッドと車両重量はA4で同じパワートレインとタイヤを選べば同じである。
……といった諸元数値に加えて、運転席はA4より明らかに低いから、走りは自然とA4よりよくなるのがモノの道理だ。
しかし、今回のA5クーペの走りは、そうした予想より1~2ランクは上をいくステキなものだった。
「アウディドライブセレクト」という統合コントロールを「コンフォート」モードにセットすると、A5クーペは都心の荒れた舗装路でも滑るように快適だった。今回の取材車はオプションの「ダンピングコントロール付きスポーツサスペンション」を備えていたので、ドライブセレクトに応じて減衰力も変わる。
コンフォートモードでもわずかなゴトツキが残るのは40偏平タイヤの影響もあろうし、厳密にいえば上屋の上下動が小さくはないのだが、それにしても、この“たおやか”な肌ざわりには、思わず笑みがこぼれてしまう。
ただ、高速に乗って法定速度上限に達すると、コンフォートモードのままでは、上屋がちょっと動きすぎて、ステアリング反応も マイルドすぎる傾向が出はじめる。その場合はひとつの上の「オート」モードにすると、上屋がピタリと止まり、レスポンスもちょうどよくなる。
おそらく真正フルタイム4WDの縦置きクワトロの恩恵もあって、オートモードでのA5の高速マナーは完璧に近い。シツコイようだが、上屋はムダな動きがまるでなくピタリと安定し、矢のように直進し、走行ラインは常にピタリと安定しきっている。多少の横風や路面の うねりなどモノともしない。
常にシャシーが勝っている
このオートモードの守備範囲の広さは素晴らしい。冷静に判断すれば、低速の市街地でも、フラット感という意味では、オートモードの乗り心地はコンフォートモードより高度な仕上がりともいえる。
オートモードは山坂道でも不足ない俊敏性を見せてくれるが、そこではやはり「ダイナミック」モードがいい。
このダイナミックモードのデキがまた素晴らしい。ダイナミックモードでは高機動状態でのムダな姿勢変化が見事になくなるが、かといってガチガチでもない。細かい突き上げにも飛んだり跳ねたりはまるでなく、前後左右の荷重移動にあわせて「タイヤが食ってまっせ!」というリアルな感触を乗り手に鮮明に伝えてくれる。
さらに、コーナーでは後輪優勢トルク配分のクワトロがなんともいい仕事をしてくれるので、わずかでも出口が見えたら、あとは積極的に踏んでいけば、最終的にきれいなコーナリングラインを描く。
山坂道で際立つダイナミックモードだが、あくまでアダプティブな連続可変なので、じつは守備範囲はオートモードに次いで広い。低速でも多少は突き上げが強まるが、不快感はなく、コンフォートモードより快適と思う向きも少なくないだろう。
ただ、人によってはダイナミックモードだとパワステが重すぎると感じるかもしれない。その場合は「個別設定」のカスタマイズ機能を使えば、ある程度は好みにあわせられる。
2リッターターボと7段ツインクラッチ変速機は、エンジンチューンもギア比もA4のそれと共通で、それこそ自然吸気3.5リッター級の怪力で、6500rpmまでズバッと 回ってくれる。それでも、今回のA5クーペに乗っている間は“モアパワー、モアトルク”という欲求が消えることはなかった。
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オプションは可変ダンパーをお忘れなく
……と、今回のA5クーペの走りがちょっと感銘するレベルだったのは、勝手に予想するに「A5だから」とか「A4より新しいから」だけではない。おそらく、最大の理由は、新アーキテクチャーの「MLBエボ」では個人的に初体験だった「ダンピングコントロール付きスポーツサスペンション」の恩恵だろう。
今回のA5クーペでは、同じくA4の固定減衰スポーツサスペンションにあった「タイヤが過剰?」とか「バネに対してダンピングが足りない?」といったクセがまるで感じられなかった。
これまでに何度か体験したA4における(乗り心地や操縦性にまつわる)不満が、今回のA5クーペでは見事に払しょくされていた。どのモードも守備範囲の広さは印象的だが、それでいて、それぞれのモードにきちんとスイートスポットがある。バネレート固定のコイルスプリングとの減衰力のマッチングも巧妙。この可変ダンパーのデキはちょっとしたものだ。
そんな可変ダンパー付きスポーツサスのオプション価格は、A5では14万円。安くはないが、それだけの価値は十二分にあると思う。
ちなみにA4でも、同オプションが同じ価格で選択可能である。あくまで私の勝手な予想ではあるが、「そうはいっても、やっぱり2ドアは無理」と、A4やA5スポーツバック(の2.0 TFSIクワトロ)を選ぼうとしている向きも、ダンピングコントロール付きスポーツサスペンションだけは、ぜひとも考慮していただきたい。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
アウディA5クーペ2.0 TFSIクワトロ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1845×1365mm
ホイールベース:2765mm
車重:1570kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/5000-6000rpm
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1600-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 93Y/(後)245/40R18 93Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:16.5km/リッター(JC08モード)
価格:686万円/テスト車=813万5000円
オプション装備:オプションカラー<グレイシアホワイトメタリック>(8万5000円)/セーフティーパッケージ<サイドアシスト+プレセンスリア+パークアシスト+サラウンドビューカメラ+コントロールコード>(16万円)/S lineパッケージ<S lineバンパー+ドアシルトリムS lineロゴ+S lineエクステリアロゴ+ヘッドライニングブラック+デコラティブパネルマット ブラッシュトアルミニウム+アルミホイール 5ツインスポークスターデザイン8.5J×18+スプリントクロス・レザーS lineロゴ+マトリクスLEDヘッドライト+LEDリアコンビネーションライト+ヘッドライトウオッシャー+コントロールコード>(44万円)/ダンピングコントロール付きスポーツサスペンション(14万円)/バーチャルコックピット(7万円)/Bang & Olufsen 3D アドバンストサラウンドシステム(17万円)/ヘッドアップディスプレイ(14万円)/プライバシーガラス(7万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1736km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:394.1km
使用燃料:33.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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