メルセデスAMG E63 S 4MATIC+(4WD/9AT)
やさしい悪魔 2017.10.20 試乗記 最高出力600psオーバーのターボエンジンを搭載する「メルセデスAMG E63 S 4MATIC+」に試乗。メルセデスが送り出してきたミッドサイズセダンの中で最速とされる、高性能モデルの走りを報告する。尋常ならざるスペック
メルセデス・ベンツEクラス史上最速モデル! 最高出力612ps! 0-100km/h加速3.4秒! 2017年5月に日本で発売となったE63 S 4MATIC+はどんだけモンスターであるのか。筆者はそのことを思うと大変ワクワクした。
その昔、「300SEL 6.3」と、その後継の「450SEL 6.9」という高性能モデルがメルセデスにあった。筆者は450SEL 6.9の助手席に乗ったことがあるだけだけれど、のちに聞いた話によれば、1960~70年代に登場したこの2台、排気量の大きな6.9のほうがより“ものすごい”と思いきや、6.3のほうが豪快だった。アクセルの踏み加減でタイヤのトレッドがアッという間になくなったという。
真実かどうかは不明ながら、技術の進歩が450SEL 6.9をよりまっとうにした、という想像はできる。300SEL 6.3は当時のメルセデスの標準ボディーに「600」のV8エンジンを押し込んだ元祖モンスターであり、AMGはこの300SEL 6.3をレースカーに仕立てて、1972年のスパ・フランコルシャン24時間に参戦、クラス優勝を飾ったことから伝説の第一歩を踏み出した。その血脈に連なる最新AMGがE63 S 4MATIC+なのである。
それにしても612psというのはスゴイ。スーパーカーの「ポルシェ911ターボS」でさえ580psである。それを30ps以上も上回る。さすがに0-100km/h加速ではターボSに負けるものの、同3.9秒の「カレラS(PDK)」を置き去りにする。
ちなみにカレラSは1584万1000円。E63 S 4MATIC+は1785万円で、「カレラGTS」の後輪駆動の1788万円よりもちょっぴりお求めやすい。それでいてE63 S 4MATIC+は、0-100km/h 3.7秒のカレラGTSよりも速いのである。机上の比較にすぎないとはいえ、もうどんだけ速いのか、と期待は高まるばかり。
意外なほど静かに走れる
テスト日当日、純白のE63 S 4MATIC+の実物を目の当たりにし、ドアを開けて乗り込むと、見慣れたAMGのパンと張った黒革のシート、クロームに輝くダッシュパネルのスイッチ類に歓迎される。フラットボトムのステアリングホイールは円形であることをやめて、四角くなりたいと思っている。3時と9時の位置のみ、アルカンターラになっていて、ちょっとこそばゆいその感触にうっとりする。でもって、ダッシュボードのスターターボタンがドクンドクンと心臓が鼓動するように点滅している。押してもらうのを待っている。
押すと爆裂音が控えめにして、エンジンに火が入る。例によってドライビングモードが付いており、センターコンソールにあるスイッチをカチャカチャ(と音はしないけれど)動かすことで、コンフォート(C)、スポーツ(S)、スポーツプラス(S+)、そしてレースと各モードに切り替えできる。もうひとつ、エンジン、排気音、サスペンション、ステアリング、トランスミッション、3ステージESP、電子制御AMGリミテッド・スリップ・デフの制御を個別に設定できるインディビジュアルというのもあるけれど、それを選ぶのはオーナーになってからにしよう。なんちゃって。
まずはCモードにて、関越自動車道を軽井沢方面へと走らせる。物足りないぐらい静かだ。V8のビートを期待していると、まったくもって。63シリーズ初組み合わせとなる9段オートマチック「AMGスピードシフトMCT」は、4リッターV8直噴ツインターボの豊かなトルクを生かして、100km/h巡航を1400rpm程度でこなす。このとき、世界はごくごく平穏で、自分が612psのモンスターをドライブしていることを忘れる。実はこのV8、Cモードで走行中、回転数が1000-3250rpmで低負荷のとき、4気筒が勝手にお休みして燃費を稼いでいる。
「S+」を選ぶと別人に
AMGダイレクトセレクトをSモードにするとややタイトな感じになるけれど、豪快なV8サウンドを奏で始めるのはS+に切り替えてからだ。同時に乗り心地ががぜん硬くなる。
メルセデスAMGが「E400」に装備されるエアサスをベースに専用開発した「AMG RIDE CONTROLスポーツサスペンション」は、Cモードでもあたりは硬い。何しろタイヤが、ZR20で、前265/35、後ろ295/30と極薄である。銘柄は、というとスーパーカー御用達の「ピレリPゼロ」。靴底に鉄板が入っているようなものだ。スプリングレートはC、S、S+と3段階あって、S+にすると、前述したように極端に硬くなる。高速道路ではいいけれど、荒れた一般道ではそうとう脳みそが揺すられて、剛毅(ごうき)な心持ちになる。S+は平滑な路面のサーキット用と心得るべし。
「メルセデスAMG GT」用と基本設計を共通とするAMG 4リッターV8直噴ツインターボエンジン「M177」のサウンドは、AMGが初めて一から設計した6.3(ホントの排気量は6.2リッターだったけれど)V8自然吸気によく似ている。地獄の底に潜む怪物のうめき声にも似た低音が魅力だ。4000rpm以上になるとグオーッと咆哮(ほうこう)をあげ、ギアの上下に従って、ゴロゴロ、グアングアングアンッ、とヘビメタのドラムのような音をとどろかせる。
なんせ、何度も書くけれど最高出力612psである。最大トルクは850Nm、それが2500-4500rpm で生み出される。車重は実に2110kgと、SUV並みにある。この端正な容姿にしてスーパーヘビー級なのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
アウトバーンが欲しくなる
それは、テスト車がエクスクルーシブパッケージというぜいたくオプションを装備していることもある。パノラミックスライディングルーフ、アクティブマルチコントロールシートバック、シートベンチレーター、ドライビングダイナミックシートがセットになっている。このうち、横Gや舵角に応じて遠心力で押される側のサイドサポート内の空気圧を高め、自分が曲がっていることをリアルに意識させてくれて、しかも姿勢を保ってくれるドライビングダイナミックシートが私は好きですが、これらはぜんぶひっくるめて50万円のオプションであって、重くなっているといってもたかがしれている。
E63 S 4MATIC+がかくも重いのはV8ツインターボと4WDシステムを組み合わせているからである。強力なエンジンと余分なシャフトとデフを必要とする四駆はどうしたって重くなる。例えば、4気筒、後輪駆動の「E200」のカタログ車重は1670kg。それと比べると、2070kgのE63 S 4MATIC+は400kgも重い。
路上の魔王はよろいのごとき筋肉でもって、軽々と加速する。法さえ許せば200km/h巡航も可能だ。これぞお金で時間を買うビジネスマンズ・エクスプレスである。上越自動車道に入ってのアップダウンをともなったワインディングは水を得た魚のごとし。飛ばさないといけないような強迫観念にかられる。アウトバーンが極東にもあったらなぁ。
速度が増すと、Cモードを選んでいても、ステアリングがじんわりと重くなる。S+にすればなおさら。この重さが安心感にもつながっている。でも、この安心感は操舵感覚だけによるものではない。実際に安定しているのである。なにしろ、4WDなのだ。「AMG 4MATIC+」と呼ばれるこのクルマのシステムは、前後トルク配分50:50から0:100の範囲で可変トルク配分を行う。後輪駆動のAMGのように、スタート時にステアリングを切ってアクセルを開けると、簡単にリアがスキッドするというような状況には絶対にならない。
ホンモノのドリフト野郎のために、0:100で固定するドリフトモードという新趣向も用意されている。V8ツインターボの大パワーが後輪のみに与えられ、白煙が盛大にふきあがる、らしい。私はやってないですが、E63 S 4MATIC+はザッツ・エンターテインメントなマシンとして構想されている。もしも筆者が情熱と野心と冒険心に満ちたお金持ちであったなら、サーキットに持ち込んで思う存分走らせてみたいと思うだけでなく、実際に走らせるにちがいない。
技術にしつけられた怪物
筆者はしかし、ドリフトモードを試そうという腕も度胸も根性も3拍子そろってない。カネもないから4拍子ない。そのような筆者が下した結論は、サーキットではない現実世界において、メルセデスAMGがつくりだしたこの怪物セダンは、「E400 4MATIC」とそう違わない使い方しかできない、というものである。性能がすごすぎて、公道上でこれを楽しむには夢のような技量と権力がいる。それだったら、E400 4MATICで十分。E400 4MATICだって333psという過剰な性能を持っている。
と思ったところで、ちょっと待ってください。E400 4MATIC って、3.5リッターV6ツインターボだけど、333psなのである。E63 4MATIC+は612psもあって、Eクラス史上最速、天下布武的高性能を備えている。にもかかわらず、S+モードを選んでアクセルを開けなければその片りんぐらいしか見せない。仮にアクセルを踏んだとしても、それこそドリフトモードは別にして(実際には試していないので想像ですが)、制御不能の極悪凶暴ぶりはみじんも見せない。AMGとしてはジェントルマンなクルマなのだ。
で、そのことに筆者はガッカリしている。そういう自分に気づき、考え直した。これこそ技術の進歩なのだ。なぜにかくもジェントルマンなのかといえば、例えば、「AMGダイナミックエンジンマウント」である。磁性体封入の液体マウントを使ったエンジンマウント、というとポルシェのそれを先行例として思い出すかたもおられるだろう。あのシステムと同様、通常走行ではマウントを柔らかくしてドライブトレインからのノイズと振動を遮断し、ぶっとばすときにはマウントを硬くしてドライブトレインの揺れを減少する。1967年の創立から50年。ジェントルなAMG、「やさしい悪魔」が誕生した裏には、技術革新の積み重ねがある。史上最速でありながら極めて快適で乗りやすいことをテクノロジーの勝利として称賛すべきなのである。
一方で、なにをしでかすかわからないような無頼の雰囲気をこのクルマは依然として持っている。単純に見た目、例えばE63 S 4MATIC+の場合はスタンダードよりフロントのトレッドが広げられていて、ビッグでファットなタイヤを収納するためにフェンダーが膨らんでいる。隠そうとしても隠しきれない、はみ出しそうなほどの圧倒的大パワーが、ただならぬ色気をつくり出している。ドリフトモードもある! AMGほど男っぽいブランドはない。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデスAMG E63 S 4MATIC+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1905×1460mm
ホイールベース:2940mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:612ps(450kW)/5750-6500rpm
最大トルク:850Nm(86.7kgm)/2500-4500rpm
タイヤ:(前)265/35R20 99Y/(後)295/30R20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.1km/リッター(JC08モード)
価格:1785万円/テスト車=2087万1000円
オプション装備:エクスクルーシブパッケージ<パノラミックスライディングルーフ[挟み込み防止機能付き]+アクティブマルチコントロールシートパック+シートベンチレーター[前席]+ドライビングダイナミックシート[リラクゼーション機能]>(50万円)/AMGカーボンパッケージ<AMGカーボンフロントスポイラーリップ+AMGカーボンフロントフェンダーアクセント+AMGカーボン付きサイドスカート+AMGカーボンドアミラー+AMGカーボントランクリッドスポイラーリップ+AMGカーボンリアディフューザー+AMGカーボンインテリアトリム>(120万円)/AMGカーボンセラミックブレーキ(110万円)/メタリックペイント<ダイヤモンドホワイト>(11万3000円) ※以下、販売店オプション AMGフロアマットプレミアム(10万8000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:4041km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:424.3km
使用燃料:52.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.0km/リッター(満タン法)/7.4km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】 2026.3.5 スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。
-
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】 2026.3.4 メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
NEW
実力検証! SUV向けプレミアムタイヤ「ブリヂストンALENZA LX200」を試す
2026.3.62026 Spring webCGタイヤセレクション<AD>目指したのは、人気車種となっているSUVとのベストマッチ。ブリヂストンが開発した新プレミアムタイヤ「ALENZA(アレンザ)LX200」は、どんな乗り味をもたらすのか? モータージャーナリスト石井昌道が試乗を通して確かめた。 -
NEW
BYDシーライオン6(FF)
2026.3.6JAIA輸入車試乗会2026“中国の新興ブランド”BYDにあこがれは抱かずとも、高コスパの評判が気になる人は多いだろう。では、日本に初導入されたプラグインハイブリッド車のデキは? 初めて触れたwebCGスタッフがリポートする。 -
NEW
実に3年半ぶりのカムバック 「ホンダCR-V」はなぜ日本で復活を果たしたのか?
2026.3.6デイリーコラム5代目の販売終了から3年半のブランクを経て、日本での販売が開始された6代目「ホンダCR-V」。世界的なホンダの基幹車種は、なぜこのタイミングで日本復活を果たしたのか? CR-Vを再販に至らしめたユーザーの声と、複雑なメーカーの事情をリポートする。 -
「ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド」発表会の会場から
2026.3.5画像・写真ジープブランドのコンパクトSUV「アベンジャー」に、4WDのハイブリッドバージョン「アベンジャー4xeハイブリッド」が追加された。その発表会(2026年3月5日開催)の場に展示された同モデルの外装・内装を写真で紹介する。 -
スバル・トレイルシーカーET-HS プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.3.5試乗記スバルから本格的な電気自動車の第2弾となる「トレイルシーカー」が登場。前後のモーターから繰り出すシステム最高出力はドーンと380PS。ただし、それをひけらかすような設定にはしていないのがスバルらしいところだ。スノードライブの印象をお届けする。 -
ホンダ・インサイト
2026.3.5画像・写真4代目はまさかの電気自動車(BEV)! ハイブリッドからBEVへ、4ドアセダンからSUVへと変身して、「ホンダ・インサイト」が復活を遂げた。ドアトリム/ダッシュボードヒーターにアロマディフューザーと、新たな快適装備を満載したその姿を、写真で紹介する。
























































