ホンダ・スーパーカブ50(MR/4MT)/スーパーカブ110(MR/4MT)
偉大なる乗り物 2017.11.18 試乗記 累計生産台数はついに1億台を突破! 世界に冠たる日本の名車「スーパーカブ」が、このほどフルモデルチェンジを受けた。なつかしのスタイリングを取り戻し、生産拠点も日本に戻された新型の試乗を通し、60年におよぶその歴史の片りんに触れた。帰ってきた“日本のカブ”
「スーパーカブの試乗会に行きませんか?」と編集部から言われて、最初に思ったのは、「スーパーカブって試乗会やるんだ」というものだった。
でも、今年10月には累計生産台数1億台という金字塔を達成。同日に実施されたモデルチェンジでは昔のフォルムを取り戻し、生産拠点も日本に戻された。来年にはデビュー60周年、つまり還暦を迎える。ここまでニュースが重なれば、乗ってみたいと思う人は多いはず。「これを機にスーパーカブの魅力を体感してほしい」というホンダのお誘いは絶妙と思えた。もちろん、編集部には2つ返事で参加することを伝えた。
横浜で行われた試乗会では、開発担当者に話を聞くことができた。そこで知ったのだが、今回発売された新型は日本専用車なのだという。海外向けには従来どおり、角形ヘッドランプと直線基調のシルエットからなるモダンなフォルムのスーパーカブが、国外で作り続けられる。
モデルチェンジの最大の理由は平成28年排出ガス規制への適合で、まずエンジンが日本専用となることが決まった。それなら形も専用にしようと話が進み、LEDを使えば小ぶりな丸型ヘッドランプができることもあり、慣れ親しんだスタイリングに変えたという。
当初のOHVがOHCになり、燃料供給がキャブレターからインジェクションに置き換わるなどの進化はしたものの、4ストローク空冷単気筒というエンジンの基本は不変。厳しい排出ガス規制をクリアすべく、排気系にはキャタライザーが2個もおごられている。
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如実に感じる50と110の違い
排気量は従来同様、49ccの「50」と109ccの「110」の2種類。旧型の販売比率は約2:1だったそうだ。普通自動車免許でも乗れる50が圧倒的多数を占めるものの、小型限定普通自動二輪免許が必要となる110も予想以上に健闘しているという印象を受けた。
ちなみに、同じ50ccの「モンキー」は生産終了になったのにスーパーカブが残ったのは、生産台数の違いが大きいとのこと。年産約1000台にすぎないモンキーに対し、スーパーカブは50だけでも1万台以上いくそうだ。
白いレッグシールドからリアフェンダーにかけてのS字ラインを取り戻したスタイリングは、幼い頃から当たり前のように見てきたスーパーカブそのもの。細かく観察していけば、以前は鉄板だったリアフェンダーが樹脂製となるなどの違いがある。フレームは何度も構造変更を受けているそうだが、モデルチェンジのたびにオリジナルの良さが薄れるのが当然という中で、よくぞ先祖返りを果たしたと思う。
どちらのエンジンも始動はセルとキックの両方が選べる。試しにキックで掛けたら、あっけないほど簡単に始動した。筆者が「ヤマハSR」や「カワサキW1」など、キック式のモーターサイクルに乗り続けてきたからではない。そもそも始動に手こずるようでは1億台は達成できなかったはずだ。それ以上にあっけないのがアイドリングで、どちらも「トヨタ・クラウン」みたいに静かで滑らかだ。
加速は、排気量に倍以上の差があるのだから、50と110で大きく違う。50でもスロットルを大きめに開ければ力不足は感じないが、110はかなりの余裕を感じた。音も違っていて、アイドリングの滑らかさを走行中も引き継ぐ50に対し、110は単気筒っぽい鼓動が心地よい。優れた実用品であり続ける50のしつけの良さに感心しつつ、予想以上にモーターサイクルらしさを訴えてくる110に頰が緩んだ。
スピードメーターのスケールも110では120km/hと、50の60km/hから倍になる。しかし110であっても60km/hを超えようかというあたりから振動が多くなってくる。メーターを見なくても“法定速度”に達したことが分かる。
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ロータリー式セミATの奥深さ
自動遠心クラッチを用いたロータリー式トランスミッションは、ギアが3段から4段に増えたことを除けばデビュー時から不変。クラッチはスロットルを戻すと自動的に切れ、左足で操作する変速はステップの前後にペダルがあるシーソー式だ。前を踏んでアップ、後ろを踏んでダウンで、停車中のみトップから前側を踏むとニュートラルに戻る。
これによりそば屋さんの片手運転が可能になった、という宣伝文句は今は使えないけれど、ストップ&ゴーの多い街中が活躍の主舞台になるスーパーカブだからこそ、イージードライブはありがたい。
しかも操ることが楽しい。裏返せばMTと同じかそれ以上に変速の上手下手が出やすい。スロットルを戻すタイミングと変速ペダルを踏み込むタイミングが合わないと、ギアチェンジのたびにギクシャクしてしまう。スロットルはちょっと戻す程度にとどめ、その瞬間にペダルを踏み込むと滑らかにいく。
逆に特性を飲み込めば、シフトダウンの間に中吹かしを入れてスムーズに下のギアに落とすこともできる。こちらは言葉で説明するのは難しいので、とにかくやってみることをお勧めする。うまく決まったときの喜びはMTのヒール・アンド・トウに匹敵するはずだ。
とにかくこのトランスミッション、簡潔なのに奥が深い。この日も必要以上に変速を楽しみながら、いつまでも走り続けていたいという気持ちになってしまった。やはり遠心クラッチを使った「シトロエンDS」の油圧式トランスミッションと並んで、世界一楽しい“クラッチレス”のギアボックスだと思う。
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もはや感謝の言葉しかない
サスペンションの動きは実用車的な素っ気なさを残す。でも快適に感じられるのは設計を見直したシートのおかげだ。このシートもまた走り続けていたいという気持ちにさせてくれた理由。そして大径タイヤとステップがもたらすハンドリングはスクーターとは一線を画しており、モーターサイクルそのものだった。
だから舞台が箱根だったら必要以上に熱くなっていた可能性もあるけれど、横浜だったおかげで別の気持ちを抱くことができた。信号待ちで止まるたびに、開発前の欧州視察旅行で本田宗一郎と藤沢武夫が交わした会話など、書籍や雑誌で目にした約60年のストーリーがフラッシュバックしてきたのだ。
街の景観の一部になっているので実感しにくいけれど、スーパーカブは「クラシック・ミニ」や「フォルクスワーゲン・ビートル」「シトロエン2CV」に並ぶ存在だと思った。信頼できる実用品であるだけでなく、運転の楽しさももたらしてくれ、偉大なる歴史の片りんまで路上で味わえる。そんな貴重な乗り物が日本から生まれ、今なお20万円台で販売され、1億台という金字塔を打ち立てた。
これはもう、感謝の言葉しかない。誰に対する感謝か。もちろんオヤジといわれたあの名経営者に対してである。
(文=森口将之/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
【スペック】
スーパーカブ50
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1860×695×1040mm
ホイールベース:1210mm
シート高:735mm
重量:96kg
エンジン:49cc空冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:3.7ps(2.7kW)/7500rpm
最大トルク:3.8Nm(0.39kgm)/5500rpm
トランスミッション:常時噛合式4段リターン
燃費:105.0km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値<30km/h>)/69.4km/リッター(WMTCモード)
価格:23万2200円
スーパーカブ110
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1860×695×1040mm
ホイールベース:1205mm
シート高:735mm
重量:99kg
エンジン:109cc空冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:8.0ps(5.9kW)/7500rpm
最大トルク:8.5Nm(0.87kgm)/5500rpm
トランスミッション:常時噛合式4段リターン
燃費:62.0km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/67.0km/リッター(WMTCモード)価格:27万5400円

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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