シトロエンC4エクスクルーシブ(FF/6AT)【ブリーフテスト】
シトロエンC4エクスクルーシブ(FF/6AT) 2011.08.25 試乗記 ……299万円総合評価……★★★★
新型「C4」の上級グレード「エクスクルーシブ」をテスト。シトロエンの新しい主力モデルは、強者ぞろいのライバルをしのぐ魅力を持ち得たか?
万人向きとは言えないけれど
近年のシトロエンは、もともと定評のある乗り心地に加えて、ひときわ精彩を放つエクステリアデザインや、ドイツ車顔負けの高い質感を誇るインテリアによって、いっそう魅力を増している。それだけに、新型「C4」には期待を寄せていたのだが、うれしいことにデザインも走りも、私の期待を裏切らなかった。旧型に比べると個性が薄れた部分はあるにせよ、完成度の高いデザインとシトロエンらしい上質かつ機敏な走りには、ファンならずとも魅了されてしまうだろう。
とはいえ、誰にでもお薦めできるかというと、手放しで「イエス」とは言えないのが正直な気持ちだ。ギアボックスやブレーキなどに癖があり、それを承知で受け入れられる人でなければ、長く付き合うのは難しい。もし知人がC4を買おうかどうか迷っていたら、熟成するまでもうしばらく様子を見守るようアドバイスするつもりだ。もっとも、そんな私の意見に聞く耳を持たず、結局買う気にさせるのが、このクルマの魅力なのかもしれないが。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「クサラ」の後継モデルとして2004年に誕生した「C4」。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「ルノー・メガーヌ」「プジョー308」などと同じくCセグメントに属するモデルである。今回の2代目は、2010年のパリサロンでデビュー。個性的なルックスの初代から一転、オーソドックスなデザインに生まれ変わった。
日本での販売グレードは、ベーシックな「セダクション」、上級の「エクスクルーシブ」の2種。パワートレインはそれぞれ、1.6リッターNA+4AT、1.6リッターターボ+6ATの組み合わせとなる。サスペンション形式は前マクファーソンストラット式/後トーションビーム式。
(グレード概要)
今回のテスト車「エクスクルーシブ」は、1.6リッター直4ターボエンジン(156ps、24.5kgm)を搭載。6段の2ペダルMTたる「EGS」(エレクトリックギアボックスシステム)が組み合わされる。パドルシフトでの変速も可能だ。タイヤサイズは17インチとなり(セダクションは16インチ)、インテリジェントトラクションコントロールも装備される。
大きなガラス面積が自慢の「パノラミックガラスルーフ」は標準装備。安全装備としてブラインドスポットモニターシステムが与えられるほか、エレクトリックパーキングブレーキ、ヒルスタートアシスタンスも付与される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
先代のC4が採用したセンターパッド固定式のステアリングホイールや透過型のセンターメーターなど、ユニークな装備は受け継がれず、ある意味ふつうのデザインとなった新型C4のインストゥルメントパネル。しかし、シンプルかつ機能的でありながら、美しいデザインのメーターパネルや、質感の高いダッシュボードなど、その仕上がりの良さは群を抜く。
アナログとデジタルを組み合わせたメーターパネルは白と青のイルミネーションが選択でき、また、ウインカーの作動音も4パターン用意されていて面白い。そこまでやるなら、イルミネーションカラーをさらに増やしてほしいし、作動音は好みの音が自由に設定できるようになるといい。
今回試乗したエクスクルーシブには、サイドミラーの死角をモニターするブラインドスポットモニター、縦列駐車のスペースを検知するパーキングスペースセンサー、フロントソナー/バックソナーなどを標準装着。充実の装備も魅力のひとつだ。
(前席)……★★★★★
座り心地の良さでは定評のあるシトロエンのシート。C4エクスクルーシブには、サイドにレザーとスエード調素材、センターにファブリックをあしらったコンビシートを採用する。バックレスト、クッションともに適度に張りがあり、腰付近のサポートも良好だ。エクスクルーシブでは、ランバーサポートの調節は電動となり、マッサージ機能とまではいかないが、波打つように作動するアクティブランバーサポートも装着される。
ステアリングホイールはチルトとテレスコピック調節が可能。テレスコピックの調整量はもう少しほしいところ。運転席まわりの収納は、シフトレバーの先にある大型のセンターコンソールがとても便利。これぞ、“シフトバイワイヤー”の成せる技だ。
(後席)……★★★★
ホイールベースは旧型と同じだが、足元の広さは大人でも十分。前席の下につま先が収まるので自然な姿勢が取れるし、前席と膝のあいだにも余裕がある。
エクスクルーシブでは広い開口面積を誇るパノラミックルーフが標準で装着される。おかげで後席からの眺めは良好で、開放感も抜群。ただ、ヘッドルームにはあまり余裕がなく、長身の人は多少窮屈な思いをするかもしれない。前席に比べるとボディの上下動が目立つのも気になる部分だ。
(荷室)……★★★★
旧型よりも全長が35mm延びたおかげで、ラゲッジスペースは拡大。VDA法で380リッターのスペースは、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」「プジョー308」などのライバルに対して約30リッターも広い。ラゲッジルーム内はスクエアなデザインで、幅や高さにも不満はない。長尺物が収納できるトランクスルー機能も備えている。リアシートはシートバックのみを倒すタイプで、手軽にシートが倒せるものの、倒したシートと荷室のフロアに大きな段差が生じるのが惜しい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
上級モデルの「エクスクルーシブ」には、1.6リッターの直噴ターボエンジンが搭載されている。「シトロエンC5」や「プジョー508」にも採用されるこのパワーユニットは、よりコンパクトなC4には余裕の性能で、低回転からストレスのない加速をもたらす。レブリミットは6000rpmとやや低めだが、低中速トルクが充実しているので高回転で頑張る必要はないのだ。
組み合わされるギアボックスは、6段マニュアルがベースの2ペダルタイプ。いまや主流のツインクラッチではなく、シングルクラッチを採用するため、低いギアでシフトアップするときなどには加速の途切れが目立つ。トルコン式の6段ATのほうがよかったかもしれない。
ブレーキのフィーリングも気になった部分で、踏みはじめに効きすぎるのでコントロールが難しく、ストップ&ゴーを繰り返す街中では疲れてしまう。他の部分の出来が良いだけに、ギアボックスとブレーキは早急に改善してほしい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
ハイドラクティブではなく、純機械式のサスペンションを採用するC4だが、その乗り味は抜群だ。乗り心地はとてもマイルドで、ボディの挙動はフラット。225/45R17タイヤは、状況によっては硬さを伝えることがあり、個人的には同じ「ミシュラン・プライマシーHP」を16インチで選択したいところ。やや強めのキャスターアクションを示すステアリングはスタビリティ重視の一点張りではなく、ドライバーの操作に対し俊敏なハンドリングを見せてくれる。ロールを抑えてしっかりと路面をホールドするサスペンションがシトロエンらしく、ワインディングロードも楽しい。
(写真=荒川正幸)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2011年7月26日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2011年型
テスト車の走行距離:3115km
タイヤ:(前)225/45R17(後)同じ(いずれも、ミシュラン・プライマシーHP)
オプション装備:なし
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(6)
テスト距離:284km
使用燃料:19.01リッター
参考燃費:14.9km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。






























