アルピーヌA110プルミエールエディシオン(MR/7AT)
新たな伝説がここから始まる 2018.01.30 試乗記 新生「アルピーヌA110」のステアリングを握る時、このブランドの往時の活躍ぶりなど知らなくたって一向にかまわない。なぜなら、新しいA110の軽さ極まるフットワークを体験すれば、このクルマがそんな“伝説”から自由な、一台の普遍的な魅力を備えたスポーツカーであることがすぐに理解できるからだ。南仏マルセイユで試乗した。タイムレスな存在にしたい
アルピーヌA110といえば、まさに伝説のスポーツカー。とはいえ、筆者は残念ながらオリジナルのステアリングを握ったことはなく、正直に言うと、最初にアルピーヌ復活と聞いた時も、それだけで胸が高鳴ったというほどではなかった。
ところが、ひょんなことから日本でのコンセプトモデルのお披露目の前にパリにて開発陣と会う機会があり、そこで興味深い話を聞けたことから、にわかに気持ちが盛り上がりだした。単なるリバイバルにするつもりはなくタイムレスな存在にしたい、忘れかけていた楽しさを思い出せる走りになる……その時に聞いたのは、そんな言葉。そして、あれから1年を経て巡ってきた南仏マルセイユでの試乗の機会に、そうした言葉はすべて現実だったと確認できたのである。
新生A110の実車は、全長4180×全幅1798×全高1252mmという数値以上に小さく感じられる。無論、それは良い意味で。絶対的にも小さいが、その上でオリジナルを想起させるなだらかに下がったリアの造形や、床下でダウンフォースを生み出すため大げさなウイング類が省かれたことなどから、殊更そう感じられるのだろう。
オリジナルA110が1977年以降もモデルチェンジを経ながら今まで続いていたら、というのが、デザインの狙いだったという。過去と未来をつなぐというのは、まさにそういうこと。実際、その役割はしっかり果たされているように思う。
普段使いも余裕でいけそう
コンパクトなこの車体はオールアルミ製とされるなど、軽量化に徹底的に留意している。車両重量は燃料や冷却水等々が入ったすぐに走りだせる状態で、ベースモデルが1080kg。試乗車のプルミエールエディシオン(プレミアエディション)でも1103kgにすぎない。
室内に乗り込むと、キャビンはやはりタイトな雰囲気。特に左右席間はギリギリまで詰められているが、収まってしまえば2人乗車でもどこにも窮屈なところはない。やはり軽量化のため、ガラス面積は相当に狭くされているにもかかわらず、視界は全方位に良く、クルマの四隅が把握しやすいのも好印象だ。
また、体形次第とはいえシートの背後にはブリーフケースくらいは置ける余裕があるし、フロントに機内持ち込みサイズのスーツケース2個がギリギリ収まる100リッターの、リアにも96リッターの荷室が用意されている。これなら普段使いも余裕だろう。
センターコンソールにある大きなボタンをプッシュすると、キャビンのすぐ背後に積まれた直列4気筒1.8リッターターボエンジンが目を覚ます。そう、新型はRRだったオリジナルA110と違って、ミドシップレイアウトを採用する。RRだとハイデッキにならざるを得ずA110らしいエレガンスが表現できないし、ミドシップなら大型ディフューザーを採用できるからウイングなしでも十分な安定性を確保できる。もちろん運動特性的にも有利といったさまざまな理由から導き出されたパッケージングだ。
軽さは万物に効く
ギアボックスは7段DCT。シフトボタンでDレンジを選んでアクセルペダルを踏み込んでいくと、まずその走りだしの軽やかさにうならされた。これは車体の軽さ、エンジンのトルク、トラクションの良さにボディーやシャシーの剛性など、さまざまな要素が相まって実現されているに違いない。
ボディーがとてもしっかりしていて、不快な振動や騒音をほとんど伝えてこないのは正直、予想外だった。「アルファ・ロメオ4C」や「ロータス・エリーゼ」などとは別カテゴリーのクルマだということは、すぐに理解できる。しかも乗り心地が素晴らしく良い。しっかりとしたダンピングを効かせつつもしなやかにストロークするサスペンションは、いかにもフランス車らしい。
エンジンは低速域から力感たっぷりで、しかもアクセルを深々と踏み込めば高回転域まで気持ち良く伸びてもくれる。レブリミットは6700rpm辺り。ギア比もマッチしており、コラム固定式のシフトパドルの操作感も小気味よいから、街中でもついマニュアルモードで走らせてしまう。
最高出力252ps、最大トルク320Nmというスペックは単体で見ればどうということはないが、実際にドライブしてみると、軽さもあって十分にパワフルだし、かといって言葉はおかしいがパワフル過ぎもしないので、アクセルを積極的に開けていく楽しさを、しっかり味わえる。
ちなみにDレンジでもパドルによる変速はできるが、割とすぐにDレンジに復帰してしまう。また後退から前進に切り替える時には、シフトボタンを押すだけでなく、
走りに夢中にさせられる
一般道を流すだけでも、まったく飽きさせない新生アルピーヌA110だが、持てるポテンシャルを引き出すには、やはりサーキットに限る。ノーマル、スポーツ、トラックの3つが用意される走行モードは、ステアリング、エンジン、ギアボックスに加えてESPの設定も切り替わるトラックに設定して、いざコースへ。
まず驚いたのは、200km/hを超える領域からのハードなブレーキングでも、まったく不安感のないスタビリティーだ。前述の通りのアンダーフロアを活用したダウンフォースの確保、前後重量配分の良さなどが効いているのだろう。
そして、ひとたびコーナーへとステアリングを切り込んでいけば、まさに間髪入れずにノーズ……だけでなくクルマ全体が、ありふれた表現だがまるでコマのようにくるりと向きを変えていくのに思い切り頬が緩む。さすが軽量ミドシップ。高すぎないリアのグリップのおかげで、早い段階からテールがじわりと出ていき始めて、実にいい案配の前後バランスで旋回していく。
そこから少しきっかけを与えてやれば、リアをスライドさせて走らせるのもたやすい。滑らせてからのコントロール性も高く、ついもっともっとと攻め込みたい衝動に駆られてしまう。LSDは備わらないが、ミドシップで、しかもサスペンションの接地性が高いから、トラクションには不満は覚えなかった。
ちなみに以前に聞いた話では、開発の際にヨーロッパのラウンドアバウトをずっとドリフトで回れるようなクルマにしたいと、メンバーは盛り上がって喜々としてセットアップを進めていたのだという。子供じみているとも言えるが、それは最近のクルマが“忘れかけていた楽しさ”かもしれない。新生A110は、難しいことを忘れて無邪気に、そんな走りを楽しめるクルマに確かに仕上がっていたのだ。
アルピーヌの伝説を深くよく知る人たちは、きっとその精神を受け継いだ新生A110の登場は喜びに違いない。でも往時の活躍ぶりを知らない、雑誌などで読みかじっただけという筆者のような者にとっても新生アルピーヌA110は、純粋にそのデザインとパフォーマンスで、一台のスポーツカーとして大いに引かれる存在に仕上がっていた。
日本導入は今年のおそらく年末近く。今から待ち遠しくて仕方がない、スポーツカーファン注目の一台である。
(文=島下泰久/写真=アルピーヌ/編集=竹下元太郎)
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テスト車のデータ
アルピーヌA110プルミエールエディシオン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4180×1798×1252mm
ホイールベース:2420mm
車重:1103kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/6000rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/40R18/(後)235/40R18(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:6.1リッター/100km(約16.4km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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