第471回:ボルボの歴史を一望の下に
スウェーデン本社のミュージアムを見学する
2018.01.18
エディターから一言
![]() |
スウェーデン・イエテボリの本社からクルマで10分ほど。カテガット海峡を臨む海沿いに、ボルボの歴史を一望の下に見渡せる博物館が建っているのをご存じだろうか。安全技術にモータースポーツ、あるいは物流と、さまざまな側面を持つボルボを包括的に捉えることができる場所として、ここはお薦め。いざ、ミュージアムツアーに出発!
![]() |
![]() |
「ボルボ」の意味は「私は回る」?
スウェーデン・イエテボリにあるボルボカーズ本社では、前回紹介したセーフティーとデザインのプレゼンテーションの合間に、ミュージアムの見学もあった。ここが予想以上の空間だったので紹介したい。
ボルボは1926年、グスタフ・ラーソンとアッサール・ガブリエルソンの2人が共同で設立した。2人は同じスウェーデンのベアリング製造会社SKFに勤めていたが、SKFは当時から他国の自動車用にベアリングを供給しており、それなら自分たちでクルマを作ろうと思い立ったという。
最初の部屋には、そのあたりのエピソードを紹介するコーナーもある。ここで初めて知ったのは、ラテン語で「私は回る」という意味のボルボという社名が、ベアリングの商品名だったこと。なぜ自動車会社なのに「回る」なのか、疑問が解けた。
同じ部屋には第1号車でオープンボディーの「ÖV4」、これをセダン化した「PV4」、両車に積まれたエンジンなどとともに、トラックやバスも置かれていた。当初は乗用車だけでは経営が難しかったことからトラックやバスにも進出したそうだ。
PV444は近代ボルボの礎
エスカレーターを上がって2階へ。こちらには1931年に登場した初の直列6気筒搭載車「651」、流線形のボディーをまとって500台だけ作られた1935年「PV36ストリームライン」などとともに、戦車も展示してあった。乗用車生産が軌道に乗ったのもつかの間、第2次世界大戦が勃発(ぼっぱつ)したことで軍需生産に従事せざるを得なかったようだ。
そんな中、ボルボは戦後を見据えて小型車の開発を進めていく。スウェーデンは第2次大戦では中立を貫いたが、周辺国は戦争によって疲弊しており、戦後は小型車が人気になると予想したからだ。これが1944年に誕生した「PV444」と後継車の「PV544」である。
戦後のボルボはアメリカへの輸出も積極的にこなすようになる。この過程で外部のコーチビルダーが手がけたオープンカーなどが生まれたが、ボルボはもっと本気のスポーツカーを作ろうとしていた。それが次の部屋に展示されていた「スポーツ(P1900)」と「P1800」だ。
このうちイタリアのカロッツェリア、フルアがデザインを描いた1960年発表のクーペ、P1800は、当初のイギリス・ジェンセン製から3年後にはボルボ自製の「1800S」、インジェクション装備の「1800E」を経て、1972年にはスポーツワゴンの「1800ES」に発展している。
博物館にはP1800、1800S、1800ESの3台をディスプレイ。このうち1800Sは、ロジャー・ムーア主演のテレビドラマ『セイント』に使われて注目を集めたことも紹介してあった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
安全性を飛躍させた実験車VESC
1800ESの隣には、PV444の後継車PV544をベースとしたボルボ・ワゴンのパイオニア、「デュエット(P445~P210)」も置かれていた。そしてこの時期のボルボを語る上で欠かせない、「アマゾン」の愛称でおなじみの「120シリーズ」はパトロールカーを展示してあった。
この頃からボルボはアイデンティティーのひとつである安全性に積極的に取り組むことになる。ミュージアムにはその成果でもある1972年発表の「VESC」が置かれていた。直後にデビューする「240シリーズ」に近い顔つきを備えつつ、キャビンはその後登場する「740シリーズ」を思わせる造形で、デザイン面でも見るべきところがあるコンセプトカーだった。
大きな窓を背にした次の空間は特別展示スペースで、この日は1950年から40年間チーフデザイナーを務めたヤン・ウィルスガールドが手がけた車両が並んでいた。
個人的に目を引かれたのは「262C」。ベルトーネが製作まで担当したボディーは最近のクーペにはない落ち着きが感じられ好ましい。奥にはボルボのイメージを変えた前輪駆動車「850」のスポーツモデル「T-5R」が、クリームイエローのボディーカラーとともに当時を思い出させてくれた。
あの頃のレースシーンがよみがえる
次の部屋はこの850とは逆に、日本ではあまり有名にならなかった小型ボルボたちが並んでいた。オランダDAFの設計を継承した「66」と、後継車の「300/400シリーズ」だ。特に1800ES以来のスポーツワゴンとなる「480」は今見ても魅力的に映った。
モータースポーツコーナーもあった。ラリーに挑んだPV544やアマゾンも展示されていたが、筆者の年代にはやはり「空飛ぶレンガ」の異名を取ったツーリングカーレースの「240」、ワゴンでレースに出た「850エステート」などが刺さる。あの頃のレースシーンがそのままよみがえってくる。
ここからはスロープでトラックが並ぶ1階へと下っていく。通路の脇には数々のコンセプトカーが並んでいた。Aピラーの視認性にも配慮した「SCC」など、安全や環境といった難しいテーマをスタイリッシュにまとめる技にたけていることが伝わってきた。
トラック部門は1999年を境に別会社になっているが、ミュージアムは両社が共同で運営しているようだ。バスや軍用車、ボルボペンタというブランド名を持つ船舶用エンジンも手がけており、ボルボ・カーズ以上にスウェーデンを支える存在であることがうかがえる。
こうして見てくると、少なくとも戦後のボルボに関しては、日本でもポピュラーな輸入車であることをあらためて実感した。今まで目にしたことがないようなクルマが並ぶミュージアムもいいけれど、一台一台を通してその時代を思い出すことができるこの空間は、独特の楽しさがある。
事前の申し込みや予約などは不要。一般の方でも見学可能とのことなので、スウェーデンに行く機会がある人は足を伸ばしてみてはいかがだろうか。
(文と写真=森口将之/編集=竹下元太郎)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して 2025.10.15 レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。