ブッ飛び性能の「フェラーリ488ピスタ」
新たな“跳ね馬”を通はこう見る
2018.03.02
デイリーコラム
このルックスは本気だ!
「フェラーリ488ピスタ」。言うまでもなく、「フェラーリ488GTB」のスペシャルモデルである。つまり「360チャレンジ ストラダーレ」や「430スクーデリア」、「458スペチアーレ」の後継モデルというわけだ。
私はまだ写真を目にしただけだが、なんとも凄(すさ)まじいルックスだ。何より目を引くのは、エアダムから取り入れたクーリングエアを猛烈な勢いで斜め上に向けて排出すべく、大きくえぐられまくったフロントフードの形状ではなかろうか? これほど大げさというか本気というか、「マジかよ!?」と叫びたいほどの造形は、同系統の他モデルには見られない。フェラーリは本当の本気なのだろう。その他どの部分を眺めても、このクルマがほぼレーシングカーであることがわかる。
このルックス、悪くない。悪くないなんて言葉、自動車界の頂点に君臨するフェラーリさまに対してウルトラ失礼な言い草だが、私は488GTBのルックスは「458イタリア」の改悪版だと確信しているので、488ピスタのウルトラレーシィな造形は、その失敗を覆い隠す迫力を持っていて悪くない。そういうことなのだ。ここまでやっちゃえば細かいアラは見えなくなるじゃないですか!
488GTBは、ルックスだけでなく、エンジンの快感に関しても、458イタリアより大幅に劣る。なにしろターボに転換してしまったのだから。高回転高出力型自然吸気V8の突き抜けるような快感を至上の快楽と考えるフェラーリの求道者としては、「スピリットを捨てて効率を選んだ」と指弾したくなるのも仕方なかろう。
もちろん、フェラーリ側の言い分も理解できる。確かに488GTBの3.9リッターV8ツインターボは、まるで自然吸気のような回転フィーリングを実現してはいる。しかしなにしろサウンドが1オクターブ低い。「フェラーリエンジンはパワーより何より、いい音がしてナンボ」と考える自分としては、これは致命的だ。ランボルギーニや「アウディR8」が自然吸気で踏みとどまっているのに、嗚呼(ああ)フェラーリさまが! と天を仰ぎたい。
が、ひょっとして488ピスタのエンジンは、かなり気持ちいいのかもしれない。
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“でっかい男”のためのクルマ
最高出力は670psから720psへとアップされている。ただしトルクは760Nmから770Nmへとわずかなアップ。つまり、回して馬力を稼いでくれているのではないか?
スペックを見ると、最高出力発生回転は8000rpmで488GTBと同じだが、488GTBは、踏んでも踏んでも実質7500rpmちょいあたりでレブリミッターが作動した(タコメーター上)。しかしピスタはそんなことはないのだろう。ひょっとして、フェラーリの伝説的ターボ車「F40」のような、魂の燃焼感があるかもしれない。だといいな!
とは言うものの、わずか1280kg(軽量オプション装着の場合)のボディーに720ps。そんなバケモノのアクセル全開8000rpmを、どうやって楽しめばいいのかを考えると、サーキット走行以外にあるはずがないことは自明である。
488ピスタには、「SSC 6.0(サイド・スリップアングル・コントロール バージョン6.0)」が採用されているという。ドライバーは車両を限界付近で走らせてもヨー角を容易に制御することができ、卓越した性能を体感しながら走りのスリルが味わえるらしい。もちろんサーキットに限られようが。
人間にはスピードへの飽くなき欲望がある。その象徴がスーパーカーだ。フェラーリはその欲望に忠実に進化を続けている。それを否定したらスーパーカーそのものを否定することになる。だから488ピスタはおそらく正しい。
正しいがしかし、「手に負えっこないな」という予感は300%だ。ドリフト維持機能がさらに進化したと言われても、今から宇宙飛行士目指せと言われたみたいなもので、どうにもなりません。つまりこういうクルマは、オレは宇宙飛行士目指す! 火星まで行ってやる! 的なでっかい志を抱くでっかい男か、さもなくば投資目的のでっかい男が目を輝かせるクルマであって、私などは見ただけで、価格を想像しただけで降参なのである。
(文=清水草一/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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