第153回:26歳、まさかのフェラーリ!
2019.12.03 カーマニア人間国宝への道令和初! 大乗フェラーリミーティング
赤の「328GTS」から黒の328GTSという、まれに見るちっちゃな乗り換えを実行した私ですが、では、ごく最近フェラーリを買った皆さまは、いったいどのような車歴をお持ちなのだろうか?
その一端を探るべく、先日行われたワタクシ主催のイベント「大乗フェラーリミーティング」において、令和になってからフェラーリを購入されたという10名さまに、アンケートをお願いしてみました。
私の予想では、過半数の方がフェラーリからフェラーリへの乗り換えで、これが初めてのフェラーリ購入という方は少ないんじゃないかと思っていた。
なにせ、「フェラーリが好き」という趣味嗜好(しこう)自体が、日本ではほぼ中高年特有のものになっている(推測)。しかも中古フェラーリ相場は、ここ8年ほど、海外相場に引っ張られる形で上昇を続けていて、私のミーティングに来てくれるような庶民系オーナーさまには、年々ハードルが高くなっている。
つまり、最近フェラーリを買った方は、相場が安い時期にフェラーリを手に入れて、私同様、フェラーリからフェラーリへの買い換えを実行しているケースが多いんじゃないか……と推測していたのだ。
ところが! 案に相違して、今回が複数台目のフェラーリ購入だと答えた方は、10名中4名さましかいらっしゃらなかったのです。
その4名さまの年齢を見ると、全員が私と同じ50代! 皆さまの通算のフェラーリ購入台数は、6台、4台、2台、2台となっておりました。購入モデルは、「488ピスタ」が2(!)、「512TR」、そして「F430」でした。
皆さま、完全なる成功者でらっしゃいますね……。
最年少「456GT」オーナー
一方、今回が初めてのフェラーリ購入だと答えた6名さまはというと、20代が2名(!)、30代2名、40代2名と全体にとても若い! 購入モデルは、「348」「F355」が2名ずつ、「360モデナ」1名。そして「456GT」が1名という、すべてが「激安ゾーン」に属する中古フェラーリで御座いました! スバラシイ!
それにしても20代が2人もいるとは……。日本の未来は明るいネ!!
中でも最年少の26歳のT青年は、456GTを人生初の自家用車として買ったというから超絶ブッタマゲ!
456GTについては、私は常々「絶対に買ってはいけない中古フェラーリ」と申し上げております。というのも、設計段階から壊れているからです。最初からエンジンルームが狭すぎてオーバーヒートしまくりだし、最初からウィンドウがちゃんと閉まらないし、最初から走ればめっけもんというほどトラブルの宝庫。いや、私は456を買ったことはないので、あまり詳しくは存じませんが、そのように聞いております。そして、ババ抜きのババのように、次から次へと不幸なオーナーさまを生産し続けていると聞いております。なにせ安いんで、つい飛びついちゃうだろうね……。
ところがT青年は、その評判を知った上で、それでも果敢に購入したというのです! いったいナゼ?
T青年「子供の頃から父に、『フェラーリの12気筒が世界で一番エライ』と聞いていましたから。だったらそれを買おうと思って」
ちなみに父上は根っからのカーマニアで、「ランチア・デルタ インテグラーレ エボルツィオーネII」にお乗りとのこと。インテグラーレに乗りつつ、「フェラーリ12気筒が世界で一番エライ」と息子に教えるなんて、なんてスバラシイ教育だ! 涙が出る。
「456」だけはダメ!
T青年本人は、K大学理工学部大学院を卒業後、大手サプライヤーメーカーに就職したエンジニアで、まだ社会人2年目! その間に貯金した600万円をそっくり456GTにブチ込んだという!
12気筒フェラーリなのに600万円くらいで買えるという時点で、456GTの不人気ぶりがうかがえるわけですが、とにもかくにもフェラーリの12気筒モデルだし、その評判を知っていれば、最も購入のハードルの高いおクルマで御座いましょう。それを人生初自家用車として買うなんて、あまりにもウルトラすごすぎる! 尊敬を通り越して感嘆と畏怖(いふ)!
私としては、こういう青年には絶対に不幸になってほしくない!
幸いにして彼が購入した456は、456としては極めてコンディションがいいようで、会場までもしっかり自走して来ていたし、現状、走行には問題がないとのこと。
そこで私は彼に申しました。「V8フェラーリもいいよ」と。「今のうちに456GTを売って、348とか360とか、安くて故障の少ないフェラーリに買い換えたら?」と。
でも、彼みたいな好青年は、そんなにホイホイ乗り換えないんだろうな……。逆に、ダメならダメなほど456GTに限りない愛を注いで、泥沼に落ちてしまいそうな気がする。
いや、でもそれはいけない! 世の中に女はいくらでもいるように、フェラーリは456だけじゃない! つーか456だけはダメ! ゼッタイ! 老婆心ですが……。
とにもかくにも、こんな青年がこの世に実在するということに、涙が出る思いでした。
(文=清水草一/写真=木村博道/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。