ルノー・トゥインゴGT(RR/6AT)
懐かしくて新しい 2018.03.20 試乗記 RRのコンパクトハッチバック「ルノー・トゥインゴ」に、高性能モデルの「GT」が登場! 長らくフランス車を愛好してきた“エンスー”の目に、その走りはどのように映ったのか? 動力性能だけでは語り尽くせない、その魅力をリポートする。アラフィーの心を惑わすリアエンジン
まだ免許取りたてだった1980年代に深夜のデニーズで“エンスー口プロレス”を戦わせた友人から、「最近、なんかおもしろいクルマない?」と振られて、間髪入れずにルノー・トゥインゴの名前を挙げたわけです。なぜって、アラフィーのヨーロッパ車好きは、大体トゥインゴに食いつくから。
なぜアラフィーはトゥインゴにグッとくるのか? それはトゥインゴが、輝かしい1980年代を思い出させてくれるからだ。バック・トゥ・ザ・80’s!
ではトゥインゴのどんなところが80年代を思い出させてくれるのか。まず、リアエンジンというレイアウトを採っていることが挙げられる。
懐かしの80年代、エンジンのレイアウトと駆動方式はバラエティーに富んでいた。自動車部の連中はFRの「トヨタ・スターレット」(KP61)で練習していたし、RR勢だって「ポルシェ911」やオリジナルの「フォルクスワーゲン・ビートル」はもちろん、まだ「フィアット126」もたくさん見かけた。
時は流れ、80年代が終わり、90年代が過ぎ去り、21世紀に入る過程で、RRが駆逐され、FRのコンパクトカーは絶滅し、FFだって2階建てのイシゴニス方式はビデオのベータ規格のように敗れ去り、少なくともコンパクトカーに限ればトランスミッションとエンジンが横一列に並ぶジアコーサ方式の一択となってしまった。
もちろんそれはジアコーサ方式が効率に優れていたということであるけれど、深夜のデニーズでイシゴニス派とジアコーサ派がコーヒーでおなかをちゃぽんちゃぽんにしながら激論を交わす光景は見られなくなってしまった。
若者のクルマ離れの一因はジアコーサ方式の一強体制にある! という説は自分で書きながらかなり無理があると思うけれど、エンジンレイアウトや駆動方式を選ぶ余地がなくなったことで、クルマのメカニズムに対する興味が少し薄れたという人はいるのではないか。
そんな状況で登場したRRのルノー・トゥインゴに、アラフィーは80年代の幻影を見てしまうのだ。「中身はスマートと一緒でしょ、だったらスマートでいいじゃない」という意見もあるでしょう。しかし80年代育ちはメルセデス・ベンツにコンパクトカーがあることにピンとこないので、どうしても興味の対象はトゥインゴになるのだ。
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109psより71psの方がエラい?
トゥインゴがバック・トゥ・ザ・80’sのキャラを持っている理由のひとつに、5段MTが設定されていることがある。80年代育ちのヨーロッパ車好きは、もちろんMT推しだ。「フランスやイタリアだとほとんどMTだぜ」が口グセなのだ。
80年代エンスーの特徴というか嗜好(しこう)のひとつに、「ベーシックグレード好き」というものがある。例えば「アウトビアンキA112」、アバルトに乗ってると「ふ~ん」と言われ、非力な「ジュニア」だと「ほぉ~」と感心される。「シトロエンBX」も、うっかり16バルブなんかに乗ろうものならトーシロ扱い、玄人は非力でふにゃふにゃの「1.6TRS」の5段MTだった。
というわけで何が言いたいかというと、アラフィーの欧州製コンパクトカー好きの注目は、トゥインゴのベーシックグレード、直列3気筒自然吸気(NA)1リッターエンジンと5段MTを組み合わせた「ゼンMT」というグレードに集まった。
エンジンをブン回しても笑っちゃうぐらい遅くて、足まわりがふんわりやわらかくて、しかもリアエンジンでルックスもどことなくレトロ。申し分のないバック・トゥ・ザ・80’sマシンだ。
したがって、ゼンMTより38ps増量の最高出力109psを発生する直列3気筒0.9リッターターボを積むトゥインゴGTは、眼中にない。百歩譲って5段MTならアリかもしれないけれど、6段EDCはない。
あきれるほどに長い前置きになってしまいましたが、そんなことを考えながらルノー・トゥインゴGTの6段EDC仕様のステアリングホイールを握った次第です。
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80km/hで走っていても満足できる
気の利いたビストロのように、高級ではないけれど居心地がいいインテリアに収まってエンジン始動。アクセルペダルを踏み込んで、むむむと思う。1リッターNAでは感じられなかった、後輪がぐぐっと地面を蹴る感触が伝わってきたからだ。後ろから押し出されるこの感じ、「ゼンMT」より“RR感”強し。ちょっとうれしい。
“RR感”が強いのと同時に、加速感も力強い。1リッターNA仕様では感じた非力という印象はみじんもなく、フツーに速い。スペックを見ると、トゥインゴGTは最大トルク170Nmを2000rpmという低い回転域から発生しているいっぽうで、ゼンMTは91Nm/2850rpm。差は歴然。
しかもただ速いだけでなく、高級にも感じられる。エンジン回転を上げなくてもグイッと走るから静かだし、EDCの変速が想像よりはるかにスムーズ&迅速だから、加速フィールもシームレス。街中だけでなく、飛ばしてみてもEDCは楽しめる。マニュアル操作で変速すると前述したようにクラッチ操作の達人並みに素早く、滑らかにギアを変えて、望み通りのエンジン回転数をキープできる。
GTとはいえ、109psだから速さはたかが知れているけれど、少なくとも速く走っているという実感は得られる。80km/hでも「速く走ってるぜ」と感じられる理由はいくつかあって、アクセル操作に対するトルクのツキがいいから、思い通りに操っているという満足感がある。
あと、タコメーターがないので回転数はわからないけれど、あるところから3気筒っぽくない快音が聞こえるのも、速く走っていると感じさせる理由。200km/h出さないと満足できないクルマより、80km/hで満腹になるトゥインゴGTは、ある意味でお得だ。
未来志向のエンスー車
うれしかったのは、足まわりを強化して、前=185/45R17、後ろ=205/40R17という太くて薄いタイヤを履くにもかかわらず、乗り心地がそれほど悪くなっていなかったこと(参考までに「ゼンMT」のタイヤサイズは前=165/65R15、後ろ=185/60R15)。タウンスピードでは路面からのショックを多少伝えるけれど、それでも5分も乗れば体が慣れるくらいのレベル。
そんな突き上げがささいなことに思えるのは、中高速コーナーでの身のこなしを経験したから。軽快感と重厚感が同居した不思議な感覚で、すっと向きを変えるのにどっしり安定している。安定感を感じるのは、4本の脚が柔軟に伸び縮みして、車体の安定を保っているからで、サイズからは想像できないほど足まわりの懐が深い。
軽快といってもキュキュッと向きを変えるのではなく、スムーズにラインをトレースする、オン・ザ・レールの感覚。「GT」という名称から80年代育ちはつい往年のホットハッチを想像してしまうけれど、マナーのよいエンジンとEDCの組み合わせも含めて、このクルマは現代風にソフィスティケイトされている。
乗った瞬間にはホットに感じないけれど、じわじわとスパイスが効いてくるというか。真っ赤っかな激辛カレーではなく、薬膳カレーの味わい深さだ。
というわけで、試乗前の予想とちがって、EDC仕様のトゥインゴGTに引かれてしまう自分がいた。単にスポーティーバージョンというだけでなく、プレミアム仕様であり、新しい時代のモダンなコンパクトカーという印象もある。「ゼンMT」がバック・トゥ・ザ・80’sなら、「GT」はバック・トゥ・ザ・フューチャー。
いつまでも昔を懐かしがっているばかりでなく、未来に目を向けたほうがいいのか。でも、懐かしいという感情は人間だけが持つ特別なものだという説もある。いずれにせよ、200万円前後の値段でこれだけ悩ませてくれるトゥインゴというモデルは、庶民派エンスーの心強い味方だ。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ルノー・トゥインゴGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3630×1660×1545mm
ホイールベース:2490mm
車重:1040kg
駆動方式:RR
エンジン:0.9リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:109ps(80kW)/5750rpm
最大トルク:170Nm(17.3kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)185/45R17 78H/(後)205/40R17 80H(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:--km/リッター
価格:239万円/テスト車=272万3720円
オプション装備:ナビゲーションシステム(27万円)/ETC車載器(1万2960円)/フロアマット(1万9440円)/エマージェンシーキット(3万1320円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1098km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:286.0km
使用燃料:19.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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