アストンマーティン・ヴァンテージ(FR/8AT)
見た目が9割! 2018.04.16 試乗記 スタイルも中身も一新! 攻めのデザインをまとって登場した、新型「アストンマーティン・ヴァンテージ」。アストンきってのリアルスポーツは、どれほどの走りを見せるのか? ポルトガル・アルガルベサーキットで、その実力を解き放った。アグレッシヴさを前面に
「獰猛(どうもう)」、「肉食」、「アグレッシヴ」……そんな形容詞が思わず浮かぶその姿は、英国調の控えめさを感じさせた先代より好き嫌いが分かれるに違いない。けれどアストンマーティンらしさという背骨を通しつつ、モデルごとにキャラクターを明確に分けていくというのが、このブランドの今の戦略。となれば、末弟であるヴァンテージがこうした方向性を選ぶのは当然というものだろう。
全長4465mm×全幅1942mm×全高1273mmというボディーサイズは、従来に比べれば前後左右にひと回りずつ大きいとはいえ、いまだコンパクトと言える範疇(はんちゅう)には収まっている。近づくほどにそれは実感できるけれど、遠目に見たときのインパクトは大きい。伝統的な形状を、多量の空気を導入するという今、求められる機能に鑑みて新たな解釈でまとめたラジエーターグリルや、さながらル・マン参戦車両のような巨大なリアディフューザーといったディテールが効いているのだが、いずれもデザインのためのデザインではないこともあり、見るほどに納得でき、目に馴染(なじ)んでくる印象だ。
インテリアの造形も、やはりこれまでのこのブランドのイメージとはひと味違っている。着座位置はとても低く、異型ステアリングの向こうの全面レザー張りのダッシュボードも、スポーティーな造形とされている。ギアセレクターがボタン式なのはこれまでと同様だが、そのレイアウトはいかにもオトコが好きそうなガジェット感を演出。インテリアというよりコックピット。そう表現したくなる空間に仕上がっているから、ドライバーズシートに収まると自然と気分が高揚してくる。
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試乗はいきなりサーキットから
「DB11」から採用された新しいアルミ接着構造のシャシーは、ホイールベースが2704mmと、DB11より101mm短縮されていることもあり、コンポーネンツの70%が新設計となる。エンジンはメルセデスAMGから供給されるV型8気筒4リッターツインターボを、搭載位置を下げるべく専用のウエットサンプ化して搭載する。最高出力510hp、最大トルク685Nmという大出力は、トランスアクスルレイアウトにより車体後方に置かれる8段トルコンAT、そしてアストンマーティンでは初採用となるE-デフ(電子制御式デファレンシャル)を介して後輪に伝えられる。
今回のプレス向け国際試乗会、プログラムはいきなりサーキット走行から始まった。それだけでも開発陣の、走りに対する自信のほどが伝わってくるようだ。まずはアダプティブサスペンション、エンジンとATのマッピング、操舵力を変更できる走行モードはSPORT/SPORT+/TRACKのうち、舞台となったアルガルベサーキットは路面が荒れているからと推奨されたSPORT+に設定。ESPはオンのままで最初のスティントへと向かった。
まず感じたのは、クルマの動きが非常に素直だということだ。ステアリングはシャープ過ぎず、しかしダルではなく、操舵した通りにクルマがしっかりインに向いていく。リアも落ち着いていて、限界もとても高い。
エンジンは低めの回転域でも素早く分厚いトルクが立ち上がり、加速までのタイムラグがないのがいい。ただし、味付けはあくまでフラットで、高回転域まで回しても快感が増していくという感じではない。8段ATは、あまりに連続して周回しない限りはダイレクト感、変速スピードとも十分に満足させてくれた。
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思い切って踏んでいける
大体の雰囲気はつかめた。2回目以降のスティントでは、ESPスイッチを1度だけ長押ししてESP SPORTモードにセット。すると、発進してコーナーを1~2個抜ける頃には、クルマの印象が随分違うと気づいた。電子制御による抑え込みが弱められたフットワークが、これぞニュートラルステアと言いたい、実に軽やかなものに変化していたからだ。
顕著なのは低速コーナー。前荷重のままステアリングを切り込んでいくとノーズが素直にインに入り、それだけでなくリアが絶妙に回り込んでくる。これだけでも爽快だが、さらに出口に向けてアクセルを踏み込むと、アンダーステア傾向に陥ることなく、むしろステアリングを中立近くまで戻しながらの絶妙な立ち上がりを楽しめるのだ。しかも、クルマが今どんな状態にあるかが、手のひらや腰などからリアルに伝わってくるから、4輪が滑っている状況でも実にコントロールしやすいのがうれしい。
高速コーナーでは、ESPオンの時に比べてターンイン以降もドライバーである自分を中心にクルマが曲がっていく感覚が色濃くなる。けれども決して不安定なわけではなく、前述の通り挙動の先読みがしやすいこともあり思い切って踏んでいける。
この辺り含めて、ロック率を0~100%まで自在に可変できるE-デフの効果は大きそう。しかし何より称賛すべきは、これらの道具を完璧に使いこなす見事なセットアップだろう。初出の「DB11 V12」以降、新しいモデルが出るごとに走りが洗練されていくのを感じていたが、いよいよこの新設計のシャシー、実力完全発揮と言えそうだ。
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ルックス通りのリアルスポーツ
翌日には一般道でもステアリングを握った。サーキットで走らせた車両がカーボンコンポジットブレーキ、スポーツエキゾースト付きだったのに対して、こちらはスチールブレーキ、標準エキゾーストという仕様である。
サスペンションは硬すぎることなく、乗り心地はまずまず。しかしながら率直に言ってロードノイズは大きく車内での会話は少しばかり声を張り上げる必要があるし、ギャップやうねりを通過する際の突き上げも小さくはない。DB11より短いといってもホイールベースは2704mmもあると考えると、もう少しフラット感があってもいい。
総じて、ゴルフバッグ2セットを収めるラゲッジスペースを備えるなど十分な実用性を有するヴァンテージだが、ツーリングやデートには、いささかハードだなというのが率直な印象だ。開発陣は、「ポルシェ911カレラGTS」を性能指標にしたと話していたが、パフォーマンス的にも、そしてドライビングダイナミクスの面でも、このヴァンテージ、むしろ「GT3」の方が近い存在だと評することができる。そう考えれば、この味付けも納得できないではない。GTが欲しいならDB11を選べばいい話。ヴァンテージはリアルスポーツ。それは、まさにルックスからして分かっていたことである。
「獰猛」、「肉食」、「アグレッシヴ」……そんな形容詞を使いたくなる外観の通り、とにかく走りへの欲求をかき立てるクルマに仕上がっている新型ヴァンテージ。そう、見た目だけでなく走らせても、良い意味で従来のイメージを大きく覆す一台の登場だ。
(文=島下泰久/写真=アストンマーティン/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アストンマーティン・ヴァンテージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4465×1942×1273mm(ドアミラー除く)
ホイールベース:2704mm
車重:1530kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6000rpm
最大トルク:685Nm(69.9kgm)/2000-5000rpm
タイヤ:(前)255/40ZR20/(後)295/35ZR20(ピレリPゼロ)
燃費:10.5リッター/100km(約9.5km/リッター、EU複合サイクル)
価格:2138万4000円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラック&ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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