ホンダPCX(MR/CVT)/PCX150<ABS>(MR/CVT)
コンパクトでもインパクト 2018.04.25 試乗記 通勤やツーリングの友として絶大な人気を誇る、ホンダのスクーター「PCX」。“パーソナルコンフォートサルーン”という開発テーマを具体化した最新型は、クラスを超えた走りを味わわせてくれた。電動化も前提に開発
日本のスクーターの車名は「タクト」「ジョグ」「アドレス」など単語を起用したものが多い。そんな中でホンダが2009年に発表したPCXでローマ字を使ったのは、同社初の“グローバルスクーター”という位置付けゆえだという。
PCXは日本でも年間約2万台レベルの売れ行きを誇っているが、国別では日本は第3位であり、インドネシアがトップでタイが続く。さらに欧州や北米、豪州でも販売している。日本仕様の生産も初代はタイ、2代目からはベトナムだ。
そのPCXが3代目に進化し、わが国では2018年4月に発売された。2017年秋の東京モーターショーにハイブリッド仕様と電動仕様が市販予定車として展示されていたので、そのとき目にした人もいるだろう。横浜マリンタワーで開催された試乗会にも、この2台は置かれていた。ただし今回乗れるのはガソリン車のみで、ハイブリッド仕様と電動仕様は2018年中に発売予定とのことだった。
もちろん中身は電動化前提で開発されている。フレーム構造を一新したのは、重量増に対処する目的もあったという。従来は、フットスペース部分はフロア下にしか骨格がないアンダーボーン構造だったが、新型はセンタートンネルにも骨を通し、モーターサイクルに似たダブルクレードル構造になった。
ビッグバイク的な演出も
空冷単気筒エンジンは従来どおり原付二種登録の125㏄と軽二輪登録の150ccの2本立てで、初代以来のアイドリングストップ機構を備える。サスペンションは、従来は2段階だったリアのスプリングのバネレートを3段階にすることで、乗り心地とハンドリングの両立レベルを引き上げた。
前後連動のブレーキは、PCX150<ABS>ではフロントにABSを装備。リアがドラムブレーキということもあり、ABSはフロントのみになったそうだ。ホイール/タイヤ径は初代以来の14インチだが、タイヤサイズは前後とも太くなった。これも電動化対策かと思ったら、市場からの要望が大きかったという。
スタイリングはやはり、ヘッドランプから切り離したポジションランプとウインカー、X字型のリアコンビランプが目立つ。個人的には従来のプレーンな表情も悪くないと思ったが、日本よりダイナミックなデザインを好む東南アジアの嗜好(しこう)を重視したのかもしれない。
センタートンネルが高めの車体は、またがるという表現が近い。クロームメッキのパイプハンドルは大型モーターサイクル的な演出を狙ったという。これもアジアンテイストなのだろうか。
スマートキーとデジタルメーターを採用したことも新型の特徴だ。デジタルメーターは二輪車では一般的だが、大型モーターサイクルの専用装備と思われたスマートキーを採用したのは驚きだ。
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小型スクーターとは思えない
最初に乗った125でも加速は十分。静かさや滑らかさも満足できる。その後乗り換えた150は少しだけ音が勇ましかったが、首都高速でも不満なく走れた。あとで開発者に聞いたら「125は低中回転域、150は高速域を重視してチューニングした」という。たしかに最大トルクの発生回転数は150のほうが上だ。
ACGスターターを使ったアイドリングストップに違和感はなく、125の燃費はクルマのWLTCに相当するWMTCモードで50㎞/リッターを超える。二輪車がさまざまな面で効率的なモビリティーであることを教えてくれる。
最大の驚きはシャシーだった。センタートンネルの中にも骨格を入れた効果は歴然で、サイズを超えた落ち着きがある。PCXの伝統で、サスペンションは硬め。でもサスペンションやシートの改良のおかげもあって、1時間近く乗り続けていても乗り心地に不満はなかった。
PCXは小型スクーターの枠を超越している。同じホンダの軽自動車「N-BOX」を思わせる。でも開発責任者の大森純平さんのエピソードを聞いて納得した。彼の実家は神戸のバイク屋で、阪神・淡路大震災で被災してしまった。しかし復興の中で二輪車が活躍するシーンを見て、「PCXのようなシティーコミューターの開発をしたい」と思い、ホンダに入ったのだという。
気持ちのこもった乗り物は強い。新型PCXはそんな表現が当てはまるスクーターだった。
(文=森口将之/写真=峰 昌宏/編集=関 顕也)
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【スペック】
ホンダPCX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1925×745×1105mm
ホイールベース:1315mm
シート高:764mm
重量:130kg
エンジン:124cc水冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:12ps(9.0kW)/8500rpm
最大トルク:12Nm(1.2kgm)/5000rpm
トランスミッション:CVT
燃費:54.6km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/50.7km/リッター(WMTCモード)
価格:34万2360円
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ホンダPCX150<ABS>
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1925×745×1105mm
ホイールベース:1315mm
シート高:764mm
重量:130kg
エンジン:149cc水冷4ストローク単気筒OHC 2バルブ
最高出力:15ps(11kW)/8500rpm
最大トルク:14Nm(1.4kgm)/6500rpm
トランスミッション:CVT
燃費:52.9km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/46.0km/リッター(WMTCモード)
価格:39万5280円

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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