この変化を喜ぶべきか? 哀しむべきか?
「ホンダ・モンキー」が“125”になって捨てたもの
2018.05.07
デイリーコラム
始まりは遊園地の乗り物
新しい「モンキー」が2018年7月12日より販売されるという。3月末に開催された東京モーターサイクルショーの展示車両そのままみたいだから、個人的にはさして驚かないのだけど、あれこれ斜めにものを見ながらも心根はロマンチストのwebCGホッタ青年は、新型発売に向けて自分のエピソードなど話しながら、郷愁漂う原稿を求めてきた。
「僕の地元の町では、盗難車両の人気ナンバーワンでしたよ。何しろちっちゃいから簡単に盗めちゃう。もちろん、オーナーが散々カスタムしたものから先に。いやぁ、懐かしいなあ」
犯罪行為を懐かしむ心持ちには首をひねるが、彼の話はまだ続く。
「そもそもモンキーって、多摩テック内の遊戯用に開発されたじゃないですか」。1961年に発表されたそれには「Z100」という名が付いていた。「で、最初は輸出専用モデルで、向こうでヒットした後1967年にモンキーと名付けて日本でも売り出したんですよね。懐かしいなあ」
ホッタ青年がそんな記憶を掘り起こすなら、年齢的には50歳を超えていなければならないだろう。彼はいくつだっけ? だんだん彼の郷愁が怪しくなってきた。
年々厳しくなる排出ガス規制と二輪市場の縮小を主な理由として2017年8月で生産中止。50年間で66万台を売ったモンキーは、ついにその生涯を終えた。かと思いきや、全体のイメージはそのままに、およそ3倍の排気量を持つエンジンを載せて復活。前後ディスクブレーキ装備でABS付きも用意。ほぼ最終型の「モンキー50周年アニバーサリー」が35万2080円に対し、「モンキー125」は39万9600円。エンジンがデカくなったのに5万円ほどしか値上げしないなんて、こんなにお得な話が他にあるだろうか。そこに郷愁を挟み込む必要などないだろう?
小さかったことは覚えておこう
いやいやホッタ青年。わかっているよ。歴史の波にもまれながら生き延びるには、捨てなきゃならないものがある。それが残念なんだよね。ではモンキーが捨てざるを得なかったものとは何か。それはアホみたいな、では言葉が悪いな。笑っちゃうような、でもあまり変わらないけれど、とにかくびっくりするほど小さいことなのである。
2017年10月にwebCGの取材でモンキー50周年アニバーサリーに乗ったとき、「こんなにちっちゃかったっけ」と笑いが止まらなかった。そしてまた、この小ささと非力さでは東京の幹線道路を走るのはかなり危険だとも感じた。
これまた時代とともに変遷するインフラや社会安全、環境問題等によって、乗り物というのは肥大の傾向をたどる。先日、自宅の近くで初期型「ホンダ・シビック」を目撃したが、軽自動車とみまごうほど小型で驚いた。当時はあのサイズで大人4人が乗れたんだよなあ。でも今じゃあのサイズで大人4人は乗れないだろう。そう思ってしまうのは、自分の中にも認識の変化が根付いている証拠だ。
人は慣れていく生き物。だから新しいモンキーも50年後には小さいと感じるに違いない。しかし、その元祖は笑えるくらいの小ささだったことは覚えておこうと思う。最初のモンキーと同じ時代を生き、リアルな記憶を郷愁とすることが許される者として。ホッタ青年の実年齢は知らないままだけど。
(文=田村十七男/編集=堀田剛資)

田村 十七男
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